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留守を守る戦い

 矢作達が和田の里に向け出発した翌朝


 矢作は自分の家から“狼煙”が上がっているのに気づく

 色は“黒”

 本数は“3本”

 場所は全て“矢作の家”


 これらの狼煙の意味を理解する狩人達全員が、

 『宗則達の村が“マ”では無い何かに襲われる』

 と言う事、そして“援軍不要”と篤史が伝えて居る事を知る


 「矢作、お前の倅も立派になったな…先日の“塩”を運ぶ手際の良さ、そして今の“狼煙”」

 矢作に榛名山側の村から来た狩人が話かけると矢作は首を横に振る


 「…未熟」

 恐らく『まだ未熟だ』と矢作が謙遜していると解釈した狩人は笑いながら矢作の肩を叩き


 「で、嫁は決まったのか?

 エミは那須の出だ

 となると…嫁は相模か武蔵あたりか?」


 彼ら狩人達は“しきたり”によって伴侶を己で決める事はできない。

 彼ら狩人の所属する組織が情報漏洩の防止を兼ねて伴侶を選び決定するのだ。

 そして伴侶は近親婚にならないように母親、父親の出身とは異なる地域から伴侶が選ばれるのが常であった。


 「相模」

 矢作はぽつりと地域名だけを言う


 彼らの間で知られる相模の狩人の女性で、しかも未婚なのは1人しかいなかった、それを聞いた狩人は


 「あちゃ〜相模かぁ~

 …それじゃあ婚姻は当分無理だな」


 と、天を仰ぎ額に手を当てた

 決して相模の女性の素行に問題があるのでは無く、単にまだ幼いのだ。


 彼らがそんな雑談をしていると、和田の里に狼煙が上がる

 色は“白”…相手は“マ”

 本数は1本…緊急信号である

 

 狩人達は一斉に動きだし、狼煙が上がった里へと向かった…




         ◆


 矢作達が和田の里の緊急信号を見てからしばらく経ち日が高くなった頃…

 野盗の拠点近くの樹上で仮眠を取る篤史が目を覚ます

 

 物音と話し声が聞こえる…野盗が動いたのだ


 篤史は己の体を木に固定していた縄を外すと野盗達に気づかれないように彼らの後を追った。


 一方、野盗を迎え撃つべく備えてる村では


 ・女子供と戦えぬ男衆は神社へ避難

 ・野盗は来ないと主張していた者達が神社と村長の家の中で待機

 ・村の蔵と村長の家にある蔵付近の家には野盗が来ると主張していた者達が潜み野盗へ奇襲する

 ・武士たる宗次は村の入り口で単身野盗と対峙して戦う


 と、話し合いで決まった通りに村人達が備えていた。


 腕っぷしの強い男衆が神社と蔵に集まり、村長の家の守りが薄い気がした篤史は村長の家に向かう途中に“人用”の罠を設置し、蔵に向かう途中に“獣用”の罠を設置していた。



 野盗は宗次達の村に真っ直ぐ進み、村の入り口付近に来ると一斉に武器を構え、村へと駆け出した

 奇襲で男衆を倒し数的優位を作った後に物資を奪う…それが少数の彼らが好んで使う戦法である


 が、


 野盗達が村に入ると彼らの前に1人の若武者が立ちはだかり、名乗りをあげた


 「我こそは赤城の里の宗則が子

 宗次なり!

 我こそはと思う者は前へ出よ」


 騎乗し大鎧を纏う宗次が太刀を抜き野盗を睨みつける

 完全に出鼻をくじかれた野盗達であったが、兄貴と呼ばれていた野盗が顎で手下に合図を送ると、手下達4人は村の中へと駆け出し2人は宗次の背後へと回り込む


 兄貴と呼ばれていた野盗が宗次の前に出た

 「俺が相手してやるよ」

 

 宗次は相手が騎乗していない事を知ると、自らも下馬し野盗の前に立つ。


 そして馬が戦闘に巻き込まれないようにと馬に向かって指示を出そうとしたその時、


 野盗が宗次に斬りかかる


 「なっ…卑怯な」

 宗次は野盗の攻撃を太刀で弾き返し、馬の尻を叩き逃がす


 初撃を弾き返された野盗は無理に宗次へ攻撃する事はせず

 程よい距離を保ち小石を投げたり、

 足で砂を宗次めがけて蹴飛ばしたりしながら時を稼ぐ


 「どうした?臆したか」

 宗次は消極的な野盗の攻撃を警戒しながらも少しずつ距離を詰め、間合いを測る


 やがて宗次の背後に野盗の手下が2人現れゆっくりと宗次の後へ忍びよると


 「おりゃぁっ!かかってこいよ!」

 兄貴と呼ばれていた野盗も注意を自分に引きつけるように、わざと大声で宗次を煽る


 手下2人が目配せをし、一斉に宗次めがけ斬り掛かった刹那


 

 ヒュンッ!


 突如手下の1人の首に矢が刺さり倒れる


 「後ろっ!」


 誰かが叫んだ声に気づいて振り返る宗次の目が、斬り掛かって来てる野盗を捉え

 宗次は振り返りながら野盗の攻撃を大鎧の一部で受けつつ野盗から距離をあけた


 「おのれ卑怯者が!」


 だが、宗次が背後の手下に気を取られた途端に前にいた野盗が背後に回り襲いかかり再び宗次は前後から挟撃されてしまう。


 が、


 ヒュンッ!


 ヒュンッ!


 ヒュンッ!


 立て続けに矢が飛んで来ると、手下は頭を貫かれ倒れ、兄貴と呼ばれた野盗も手傷を負う


 「手出し無用だ!」

 宗次は誰が矢を放ったのか心当たりがあった

 故に大声で篤史に『手を出すな』と呼びかけ野盗を斬りつける


 既に篤史がその場を離れていたとは知らずに…


 篤史は手下めがけ矢を放つと矢が当たったのかも確認せず最も手薄な村長の家へと走る



 篤史は夜の内に村に罠を複数仕掛けていたが、どういう事かその内の一つ村長の家へと向かう途中の人間用の罠に猪がかかっていた…

 これは篤史にとって誤算だったが、野盗の足を止める事に成功する。

 


 『人用の罠?』

 村長の家を目指して走る野盗は人間用の罠の存在に気づくと走るのを止めて警戒しながら進みだした。

 そして走るのを止めた野盗は篤史が追いつく時間を与えてしまう。


 野盗達は警戒しながら周囲を見渡すと周囲に女子供が居ない事に気づく

 

 「おいっ!罠だ」


 ヒュンッ!


 声を発した野盗の喉を矢が射抜く

 

 急に仲間が射抜かれ恐怖した野盗が大声をあげる


 「どこだっ!出てきやがれ!」

 

 すると近くの家の戸が開き中から武器を手にした村人が3人姿を現し、孤立した野盗を取り囲み野盗を攻撃し始める。


 村に入った4人の野盗のうち2人が倒れた。

 残る2人の野盗は真っ直ぐ蔵へと向かって走っていた

 すると一緒に走る仲間が獣用の罠にかかり転倒する

 『獣用の罠にかかるとは間抜けめ…』

 しかし野盗は

 害獣から畑を守る罠にかかり転倒した…

 と、思い仲間を見捨て蔵へと走る

 無事に蔵へとたどり着くと野盗は

 “武器を置き”

 戸にかけられた閂を両手でつかみ閂を外そうとする


 しかし、閂を外そうとしている間に背後の家から現れた村人により武器を取り上げられ、閂を外し終え武器を取られた事に気づいた時には蔵の中に潜んでいた村人らの手によって絶命する。


 獣用の罠にかかっていた野盗が罠から逃れ蔵にたどり着いた時、蔵の扉が開け放たれ辺りは血の跡があった


 野盗は仲間が村人を殺し蔵の中に居ると思い、急ぎ蔵の中へと入って行く…

 そして、蔵の中で仲間の死体を発見し慌てて蔵から出た所を村人達に取り囲まれ、捕縛されてしまう。

 

 ちょうどその頃。


 「敵、首魁

 この宗次が討ち取った!」


 村に宗次の声が響く


 その声に呼応し蔵や村長の家を守っていた村人達が一斉に勝鬨をあげる


 「勝ったぞぉ!」


 やがて神社や村長の家にいた村人達が恐る恐る現れ、宗次達の活躍を目の当たりにし感謝した。


 その日の内に宗次達は捕らえた野盗を連れて野盗の拠点へと向かい、野盗が蓄えていた“塩”などを手に入れ村の蓄えに加える。

 捕らえた野盗は縛りあげ宗則達が戻るまで見張る事にした。


 やがて野盗の拠点から戻って来た宗次は罠にかかっていた猪と拠点から回収した塩などを手に矢作の家へと向かった


 宗次が矢作の家の戸を叩くが返事は無く

 篤史に会うことはでき無かったが、宗次は家の前に猪や塩などを置くと


 「篤史、ありがとう」


 と、言うとそのまま村へと戻って行った。


 家から少し離れた樹上から和田の里に登る狼煙を見ていた篤史は、宗次の声を聞くと薄っすらと笑みを浮かべていた…


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