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木刀と龍笛

 篤史の家から帰って来た日から、宗次は毎日のように水守神社の境内へと歩を運んでいた。


 パチ、パチ


 二度、柏手を打ち、深く頭を下げると宗次は今日を無事に過ごせた事を感謝しながら祈る


 宗次は宗則から武士としての心構えを幼い頃より叩き込まれていた

 参拝の方法や礼儀作法なども当然ながらも教えられていたので、父に教えられた手順で境内を歩き、そして参拝する。


 ひと通りが終わった頃に狩衣かりぎぬに身を包んだ美羽が宗次に声をかけた


 「篤史…まだみたい」


 「わかった」

 宗次は篤史の容態が気になり美羽の母フサにエミから何か連絡が来ていないかを聞きに来ていたのだ。

 毎日のように来るものだから、フサも気を使い美羽を使いに行かせたのだ。

 

 そして宗次は美羽が巫女服ではなく狩衣を着てる事に気づく


 「あれ?美羽お前…いつからそれ着てるの?」

 

 「う〜ん、篤史と初めて会った頃から…かな?」


 この村の女性は“小袖”と呼ばれる服を着てるのが普通であった。

 貴族ならば十二単衣を着ているのだが、美羽は公家や陰陽師の服装でもある狩衣を着ているのだ。

 公家では無い美羽が狩衣を着ている理由は一つしか無い…陰陽師としての修練をしていたのだ。


 「お前、兄貴が居るのに陰陽師になるのか?」

 宗次はつい疑問を口に出してしまっていた


 美羽には兄が居る、

 今は本山で陰陽師としての修練をしていて、いずれは君彦の後を継ぎ

 美羽は有力な陰陽師との婚姻するものと皆が思っていた


 当然、宗次もそう思っていたので美羽が陰陽師の修練をしている事が驚きなのであった。


 「私じゃ無理…かな?」


 同世代の女性の中でも小柄な体格のフサに似て美羽も比較的小柄な体格をしている

 

 宗次の母トヨは農家の娘達の中でも立派な体格で父、宗則も男達の中でも人一倍体格が良かったので、宗次も同世代の中では飛び抜けて体格が良かった

 

 そんな小柄な体の美羽が上目使いで大きな体の宗次を見上げながら宗次に聞いたのだ、幼い宗次には十分であった

 宗次は顔を赤らめながらも


 「だ、大丈夫!美羽なら立派な陰陽師になるよ!」

 と、目線を外し照れながら言う


 美羽も嬉しそうに宗次に近づき


 ちょん


 と宗次の袖をつまむと

 「ありがとう…頑張る」


 美羽も少し照れながらも宗次に言うのだった 


 篤史の母エミから篤史が回復したと連絡が来たのは、それから数日が過ぎてからであった。



 「行ってくる!」

 籠に篤史への土産を入れた宗次が小走りに家を出てその足で神社へと駆け出すと後からトヨが

 「気をつけて行ってくるんだよ〜!」

 と、送り出した。


 宗次が神社へ向かう途中で神社の方から小さな女の子が小走りに近づいて来る


 「美羽!」

 「宗次!」

 互いに考えていた事が同じらしく、2人はそのまま篤史の家へと向かった。


 宗次と美羽が篤史の家に着くと、篤史は家の前で何かを作っている途中であった


 「「篤史!」」

 そんな篤史に2人は駆け寄り話かける


 「もう動いて大丈夫なのか?」

 宗次は篤史の体を気遣い


 「治ったんだね、良かった」

 美羽は篤史の回復を喜ぶと家の中にいる矢作とエミに挨拶をする為、家に向かった。


 「こんにちは、父から預かってきました」

 美羽は矢作に挨拶すると君彦から預かっていた護符を矢作に渡し、


 「こっちは母からです」

 と、エミに塩や布を手渡す。


 そこへ少し遅れて宗次が入って来て


 「こんちわ!これ、どうぞ!」


 ドサッと背中に背負っていた籠を下ろし、矢作の方へと籠を渡す

 「…助かる」


 矢作は短く感謝の言葉を口にすると壁に立て掛けてあった木刀を手に取り


 「やる」

 と、宗次に渡し

 

 「美羽にはこれを…」

 エミが竹で編んだ行李こおりの中から“龍笛”と呼ばれる笛を手渡し

 

 「フサに頼まれてた美羽の笛よ」


 と宗次、美羽へ篤史の事を案じてくれた感謝の気持ちを渡すのであった。

 


 この日以降、宗次は篤史と矢作が作った木刀で剣術の真似事をし、美羽が笛を吹きながらそれを見守る

 そんな日々が続いていた…



 

 ある日の事だった

 その日は矢作が1人で森の奥へと入っていたので、エミが村の結界の点検へと向かっていた。


 篤史達はいつも通りに篤史の家の近くで剣術の真似事をしていた


 宗次は立派な体を使った力任せな剣術だったので、篤史にことごとく回避されていた


 「(振りが)大きすぎ」

 そう言って篤史が宗次の脇腹に木刀を当てる


 「太ってねえっ!」

 勘違いした宗次が叫びながら木刀を振り回しだす

 

 「ちがう、振り…」

 闇雲に振り回す木刀をかわしながら的確に木刀を当てて行く


 「ちがうふり?してねぇって!」

 尚も聞き違える宗次が大声で吠える


 ピーーー…


 そんな時に微かな音が聞こえた…しかし、宗次の声が大きすぎて篤史は

 “何か聞こえた”

 としか感じ無かった


 「まて」

 篤史は急に動きを止め、宗次に手を向け制止すると森の中へと意識を集中させる

 急に篤史の様子が変わったのを見た美羽も笛を吹くのを止める


 「…何か変だ」

 なんとなくの違和感を感じる篤史


 「笛?…」

 なんとなく笛の音が聞こえた気がした

 

 この時、篤史は剣術に夢中になり音を聞き逃すと言う致命的なミスをしていたのだが、彼は気づいていなかった。




  ーー篤史が違和感を感じる少し前


 森の中を歩くエミが違和感を感じる

 遠くから聞こえていた美羽の笛の音が変わったのだ

 

 『あの龍笛からこんな音色は出ない』


 龍笛を作ったエミ本人故に気づく違和感


 エミは足早に近くの護符を確認しに向かうと…

 エミの悪い予感が当たり、結界を作っている護符の1枚が破れていたのだ。


 エミはすぐさま鏑矢を3本用意し力いっぱい引き絞ると

 1本は神社へ向かって

 1本は矢作が向かった森の中へ

 1本は篤史達の居る家へと向かって放つと家へと向かって走り出した。



 ピーーーーーーーーーッ!


    ピーーーーーーーーーッ!


       ピーーーーーーーーーッ!


 

 神社の境内を掃除していた君彦の耳にハッキリと3回、甲高い鏑矢の音が聞こえた


 エミの鏑矢が3回…

 急ぎ家に来てというエミからの緊急救援信号である

 しかも、3方向へと音が別れて聞こえた…

 つまりエミは矢作や子供達と離れた場所に居ると言う事だった。


 君彦は事の重大さを感じ、掃除を中断すると式神を宗則の家へと放ち


 「フサ!矢作の家に行きます宗則に使いをお願いします」


 そう言っていくつかの護符を手に矢作の家へと駆け出した




  ーーー時は戻り


 「笛?…」

 篤史はなんとなく笛の音を聴いた気がした


 美羽は篤史が

 「笛?」

 と、言ったので

 「笛、吹く?」

 と、篤史に尋ねる


 篤史はコクリと頷くのみで意識は森の中へと集中している


 美羽は助けを求めるように宗次を見ると、宗次も訳がわからないと言った感じで美羽を見ていた…


 恐る恐る美羽は龍笛に口を当て笛を吹く


 今度は美羽が違和感に気づく

 「あれ?音が変」


 今までのような澄んだ音色では無い割れたような音色が龍笛から発せられていたのだ


 「“マ”だっ!」

 篤史が宗次に向かって叫ぶ

 力が強いだけの宗次には何も出来無いのに…


 宗次も“マ”と言う単語で危険だと言う事を理解するのだが、

 どうしたら良いのか解らなく、とりあえず美羽を守る為に美羽の近くへと駆け出した


 “マ”と言う単語を聞いた美羽は反射的に懐の護符を服の上から押さえ、

 『どうしよう…どうしたらいい?』

 と、考えを巡らせるが答えが出せないでいる



 そして篤史自身も“どうしたら良いか”知らなかった…

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