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妖刀の使い方

 徐々に宗次に攻撃が集まり、重保らは簡易結界を維持する事に集中出来るように成る

 すると重保は“あること”に違和感を感じ取った


 『あのモノノフ…武士としては手練のようだが

 …もしや』

 重保は宗次の戦いに違和感を感じていた

 そこへ宗次に護符を貼り終え美羽が戻って来たので尋ねてみる


 「あのモノノフ…もしや初陣か?」

 

 重保に尋ねられ美羽は『あ…』と言う表情をした後に


 「実戦は3度目くらいのはずですけど…

 モノノフとしては初陣に近い…です」 


 さすが加茂家の陰陽師と言った所であろうか宗次のモノノフとしての経験が浅い事を見抜くと重保は続けて


 「このままでは危ういやも知れん

 …何か手を講じる必要がある」

 と、美羽へ告げるのであった。


 「宗次はそんなに弱く無いです」

 宗次に頑張って欲しい美羽は期待も込めて反論するのだが


 「いや…危うい

 全く妖刀を使っておらん」


 え?と美羽が宗次の方を見るが、宗次は妖刀で“マ”の一部を斬り落とし、飛んで来た木片すら叩き落としていた


 「…妖刀、使ってますよ?」

 重保には見えてないのかな?と美羽は思って口にするのだが


 「あれは刀を使っているだけだ

 妖刀では無いのだよ

 妖刀は特徴的な能力を秘めてるのだ

 本来モノノフはその能力を活かしながら“マ”を斬るのだよ」


 幾度もモノノフの戦いを見てきた重保が気づいた違和感はコレであった。

 相手が人ならば宗次はその実力をいかんなく発揮したであろう

 しかし今、宗次と戦っているのは人ではなく“マ”なのである


 


 「くそっ…キリがない」

 宗次は“マ”の攻撃を紙一重で防ぎ“マ”の一部を斬り落とし


 『やりづらい』

 そう思っていたのだ


 “マ”は人では無い、故に関節も無ければ重心すらわからないのだ

 人ならば、この様な動きを…と予測出来るのだが予想外の動きで攻撃を仕掛けて来るのだ


 むしろ弾き飛ばされた木片や石の方が軌道を予測出来るぶん防ぎやすかったのである


 『このままでは殺られる』

 それは宗次にもわかっていた


 しかし、打開策がわからないのだ

 予測不可能な攻撃と妖刀からの鈍い痛みに宗次の思考は鈍り始めていた


 そして…

 『なぁ…相棒だろ?手を貸せよ』

 半ば八つ当たり気味に宗次は妖刀へ向け思った

 意味は無かった

 単なる八つ当たりなのだ


 が、その言葉を思った途端に妖刀からの鈍い痛みにも似た感じが跳ね上がる

 まるで怒りをあらわにしてるかのように宗次へと向けられた妖刀からのソレは宗次の全身を覆い尽くした



 「えっ!?」

 宗次が急に“ケガレ”に包まれた事に美羽は驚き

 『おや?』

 重保は宗次にまとわりつく“ケガレ”に興味をもつ



 そして宗次はと言うと

 “マ”との戦闘中に妖刀からの攻撃のようなものを受け宗次は大きく体勢を崩し膝をついてしまっていた


 『しまった』

 ちょうど妖刀を持っていない左手側から“マ”の一部が襲って来る

 左膝を地に付けている姿勢では肩から背中側が無防備となっていた為に宗次は反射的に身を翻し地面を転がった


 かろうじて回避するものの今度は次々と木片等が飛散して来た


 宗次は咄嗟に妖刀を跳ね上げ木片を弾こうと試みた


 その時である

 ズキンッ!

 急に首の左側と妖刀をもつ手に痛みが走り、手に至っては動きが鈍ってしまっていた

 『ならば!』

 宗次は木片を“弾く”のではなく“受け流す”ように妖刀の背で木片の軌道を変える

 すると木片は首の痛みで少しだけ傾けた宗次の頭をかすめていった…


 間髪入れずに次は拳程度の大きさの石が飛来して来た

 ちょうど宗次の腹部に当たる軌道の石を妖刀でそらそうとすると

 ズキンッ!

 またしても妖刀を持つ手に痛みが走り動きが鈍る

 『くそっ』

 どういう事なのかわからず苛立つ宗次の無視して今度は左足に弾ける様な衝撃と共に体が強制的に半身の姿勢になる

 それと同時に石が腹部をかすめていったのだ…

 

 その後も宗次の動きに対して痛みや衝撃が走りその度に際どい場所を木片等が飛んで行ったのだ


 更に“マ”に対しては今度は引っ張られる様な感じで衝撃が走り、妖刀を“何も無い場所”へと斬り上げる

 が、

 その切っ先は急に動きを変化させた“マ”の触手をまるで触手の方から来た様な感じで見事に切断する

 そんな得体のしれない痛みに悪戦苦闘する宗次を見ていた重保がポツリとこぼす


 「化けた…かも知れん」

 「化けた?何がでしょう?」

 美羽は理解出来ず重保に尋ねるのだが、重保は宗次を指差し


 「かの御仁だよ

 少しだけだが妖刀の力を引き出しはじめた」

 

 ここで重保は少しだけ勘違いをしていた。

 宗次が妖刀の力を引き出したのでは無かったのだ…

 妖刀“漣”が半ば強引に宗次の体に直接教えていたのだ「この様に動け」と


 漣から流れ出た“ケガレ”が宗次の体に痛みや衝撃で動き方を教えはじめると不思議な事に宗次の体に“マ”の攻撃が当たらなくなり出す。


 『どういう事だ?』

 恐らく正解と思われる動きをすると痛みも衝撃も起きず、

 間違えた動きをしようとした途端に痛みや衝撃で動きを制限されるのだ

 まるで『この様に動け』と妖刀“漣”に言われているかのように


 そこまで気づいた宗次は一つ賭けに出る

 “全て”を妖刀“漣”に預けてみたら、どうなるのだろうか?

 つまり、宗次自らは“動かない”で“漣”に全て預けるのだ


 『試す価値はある』

 そう思った宗次は心を鎮め脱力しいわば自然体に妖刀“漣”を持つだけにし


 『“漣”よ頼んだ』


 と、手にした妖刀に向けて語りかけた


 妖刀“漣”はまるで『やっとかよ』とでも言う感じで一度揺らぐが、すぐさま宗次を覆っていた“ケガレ”を宗次の腕に集めた


 すると宗次の腕に“ケガレ”による黒い筋が走る

 …そう、宗次の父である宗則と同じように

 

 その間にも“マ”は宗次に攻撃をしていたのだが、


 「美羽殿、かの御仁の守りを」

 重保は宗次の身に何が起きてるのかはわからないが、あからさまに宗次が無防備に成った事で最悪を想定して美羽へ宗次の守りを頼む


 「はいっ!」

 美羽も宗次を覆っていた“ケガレ”が消えた事や宗次が無防備に構えてる事に危機感を抱き、すぐさま式神を飛ばす


 美羽が放った式神は『安倍家特有』の守りの式神で、ある程度は物理攻撃を防ぐのだが…

 あくまで“ある程度”なのである


 それでも宗次の持ち手に黒い筋が出来上がるまでの時間稼ぎには十分であった。


 一つ、また一つと美羽が放った式神が破壊されていく

 宗次を守る式神が残り2枚と成った所で


 宗次の気配があからさまに変わる


 今までの闘争心と殺気に満ちた雰囲気が無くなり、穏やかな「さざなみ」のように成った


 「美羽殿…」

 宗次の気配が変わった事に気づいた重保が美羽に声をかける

 「…変わった」

 美羽も宗次の気配が変わった事に気づく


 「ここからが本番のようです」

 重保は口元に笑みを浮かべながら宗次がどのような戦いをするのかを観察し始めた


 妖刀“漣”に身を預けた宗次の腕に激しい痛みと共に黒い筋が浮かび、

 宗次の頭の中に“漣”の声のような物が響く

 意味が解る言語では無かったのだが、宗次は“漣”が何を告げようとしてるのか?


 そして、どうすればいいかを理解した

 『承知』


 それだけを“漣”に告げると宗次は“マ”に向けて数歩ほど距離を詰めた


 

 妖刀“漣”は妖刀“白波”と同じ水系の名前

 そして水系の名前特有の特性は

 【攻守一体】

 潮の満ち引きの如く

 時に押し寄せる波の如く

 攻めては引き

 引いては攻める


 特に“漣”は相手の攻撃に逆らわずに流し、流しながら流れるように一撃を入れるのを得意とする妖刀のようで、

 強い一撃こそ無いものの強い一撃を貰いにくいのも特徴であった。

 


 『なるほど…』

 重保は妖刀“漣”の力を使い戦いだした宗次を見て“漣”の戦い方を理解し


 「美羽殿、このまま時間稼ぎは続行です」

 そう伝えると結界の維持のみに集中した

 

 美羽も重保が結界の維持のみに集中するのを見て「安倍家特有」の式神を使い自分と重保の前に式神の壁を作り上げる

 木片程度では簡単には破壊され無い式神を展開し、仮に壊されても新たに式神を展開し抜けた穴を塞いで重保を守った。


 それからしばらくの時が過ぎた

 宗次は妖刀の力で戦うのに慣れてきて今では面白いように“マ”を翻弄していたが、決定打に欠けていた

 火力不足で詰めきれないのだ

 美羽か重保から攻撃支援が有れば抑え込めたかもしれない

 だがしかし宗次は己の仕事は「時間稼ぎ」だと割り切っていた

 それ故に“マ”に決定打を与えられずとも気にせずに戦えていた


 ピーーーーーーィィィ!


 突如森の中に鏑矢が放たれた…


 それに合わせて篤史と現地狩人が鏑矢で応える


 狩人達のやり取りを耳にした重保達は援軍の到着を確信した


 「美羽殿、あと少しです」

 「はい」

 美羽は重保を守る式神の一部を上空へ飛ばすと新たに祝詞を唱え飛ばした式神を光らせ正確な位置を伝え

 

 重保は新たに式神を取り出すと逃亡阻止を目的とした術式を組み込んだ式神を周囲に展開する


 そこへ…


 「重保、大丈夫かぁ!」

 初老の武士が重保の名を叫びながら姿を現し宗次が相手してる“マ”を無視して重保の方へと駆け出して行く

 

 「藤原殿!こちらは良いので“マ”をお願い致します」

 慌てて重保が初老の武士を制止し宗次の助力を願い出る


 のだが…

 「じゃからワシが戻るまで“マ”の討伐を引き伸ばせと言うただろうが」

 

 と、初老の武士は重保へのお説教を始めてしまっていた


 そこへ“マ”が飛ばした石が飛来して来た


 カンッ!

 

 まるで何か硬いものに当たった様な音と共に石が地に落ちる 

 「邪魔するで無い」

 そう言うと藤原と呼ばれた武士は腰から上級妖刀“翡翠”を引き抜く


 「我は不破関の守り手にして国府の守護を任されるモノノフ、藤原道成

 …参る」


 

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