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時間稼ぎ

 「おりゃっ!せいっ!」

 次々と向かって来る“マ”の端っこを気合いを入れて斬る宗次に向かい


 「宗次これを!」


 パチンッ!

 まるで宗次の背中に張り手でもするような勢いで美羽が護符を貼る


 すると背中から宗次の体を“痛み”と“疲労”を和らげる護符の力が覆う


 「凄いな…」

 と、宗次が小声で漏らす

 


 今、宗次が相対するのは先の“マ”と違い術式耐性が異様に高いタイプの“マ”

 故に戦いは宗次の力量に全てがかかっていたかにも見えた。


 「宗次!無理するなよ

 俺達の役目は時間稼ぎだ!」


 篤史は巧みに場所を移動して不破関の援軍からの合図を探しつつも宗次に声をかけていた




         ◆


 時は少し遡り、篤史達が不破関の手前まで来た時の事


 「ちょっと待て」

 先頭を歩く篤史が皆を止める


 少し離れた山中から狼煙が上がっていたのだ

 色は黒、数は1本…相手は“マ”で救援要請の狼煙である


 「“マ”だ!」

 そう叫ぶなり篤史は狼煙が上がった方へと駆け出した

 宗次も美羽の様子を見ながら駆け出したのだが、美羽があまりにも遅いので結局は背負って再び走り出す。


 しばらく走ると狼煙が上がった場所の手前で何者かが戦うような音が聞こえてきたため篤史は走るのをやめると周囲の様子をうかがった。


 バキッ!

 バリバリ…


 恐らく太めの木が折れているのだろう

 比較的大きな音をたてて戦闘が行われてる場所の様子を見ると


 そこには一人の陰陽師が“マ”と戦っていた


 陰陽師はかなりの腕前のようで祝詞を唱えながら次々と式神を放ち、術式を組み合わせ簡易的な結界を作り上げる


 のだが…


 “マ”の一部が折れた木を飛ばして式神を物理的に破壊する

 更には簡易的な結界を作り出してる呪符までも木や石などをぶつける事で破壊していたのだ…


 ピー・ピピ・ピー・ピピ…

 「これは…」

 篤史は遠く離れた場所から狩人達が使う笛の音を聞く

 意味は“負傷している”である

 

 篤史はすぐさま戦闘が行われてる場所を離れ笛の音がする場所まで移動して行く

 やがて太めの木の上に腕から血を流した狩人を見つけ隣に移動すると手当てを始めた


 「状況は?」


 手当てをしながら篤史が尋ねると


 「どうやら厄介な“マ”みたいだ…

 実体化はして無いのだが、術式耐性が高いようで陰陽師が苦戦してる

 先刻、不破関のモノノフに救援要請を出してるが、彼が来るまで陰陽師は耐えられないかもしれない」


 そんな話を狩人から聞いていた篤史達の近くに

 バキッ!

 と、豪快な音と共に木の枝が飛んで来て隣の木に当たる

 

 篤史は驚いた

 この“マ”は本体自体はさほど強さを感じ無いのだが、無作為に周囲の物を“飛ばす”事で物理的に攻撃をしているのである


 ちょうど篤史達が居る木からは“マ”の居る位置が見えないが、周囲の破壊される様子だけで何処に居るかわかるほど“マ”は周囲の物を飛ばしているのである



 ようやく戦闘らしき音が聞こえて来た場所まで来た宗次達の前に1人の陰陽師が姿を見せた


 陰陽師は宗次の姿を見るなり宗次達が単なる旅人だと思ったのか

 「危険です、逃げなさい」


 と、美羽を背負った宗次へと告げる


 しかし、

 「貴方様は加茂家の!?」


 美羽が驚き、つい声に出す


 彼は美羽が昔お世話になっていた加茂家で見たことが有る陰陽師で、将来有望な若手陰陽師の1人であった。

  

 「お!?お前は下働きの…」

 さすがに名前までは覚えてもらっていなかったようで…


 「ご無沙汰してます重保(しげやす)様。美羽です」

 恐らく忘れられてるだろうと思った美羽が自ら名乗る


 『下働き?』

 宗次は重保と呼ばれた陰陽師が美羽に向けて放った言葉に違和感を感じたが


 「どんな状況なんだ?」

 と、美羽を背中から降ろしながら尋ねる


 宗次の不作法な物言いを気にしながらも、宗次から漂う“護符の力”と“ケガレ”を感じ取った重保は一瞬で宗次がモノノフだと気づく


 「モノノフか?」

 重保が宗次に短く尋ねる


 「そうだ」

 宗次は腰から妖刀“漣”を抜き放ち胸を張りながら答えた


 『上級?いや中級か…ならば危ういな』

 重保は妖刀が放っ“ケガレ”から漣が中級妖刀である事を見抜き、彼らが相対する“マ”との力量差を踏まえて話し出す


 「あの“マ”には術式が効きづらい

 モノノフの妖刀ならば相性が良いのだが、

 ちと癖が強いヤツでな…お主一人では荷が重い

 お主と同程度のモノノフがもう一人いれば良いのだが…」


 陰陽師らしく冷静に分析して話す重保

 気位の高いモノノフであれば侮辱とも受け取る内容だが宗次は


 「貴殿の助力があっても難しいか?」

 と、重保に再確認すると

 重保は少し驚いた表情を見せたが

 「我を守る者がいないと我だけでは押し留めるので手一杯なのだ」

 

 と、重保も素直に現状を説明した

 そんな話をしていた矢先に彼らの近くに“マ”が飛ばした木片が飛散する

 

 「うおっ!?」

 宗次も思わず声を出してしまい少し大げさに木片を避ける

 「実体化してるのか!?」

 慌てて宗次は重保に確認するが


 「いや、実体化はして無いのだが竜巻のようなヤツでな…

 周囲の物をはじき飛ばすのだよ、それらの物が我が作った護符や式神を壊してしまうのだよ

 この地の狩人も飛ばされた木片に当たり負傷してしまい不利な状況なのだ。

 …狩人がもう二人、いや一人でも良いそれとモノノフがもう一人居れば確実に仕留められる相手ではある」


 この重保と言う陰陽師は堅物が多い加茂家の者としては珍しく柔軟な男らしく己の実力と現状を冷静に分析していた


 しかし、彼は一つ大きな見落としをしていた

 美羽である

 彼は加茂家の下働きをしていた美羽しか知らないのだ

 彼女が安倍家で陰陽師として修行していた事など予想すらしていなかった。

 

 そんな一般庶民扱いの美羽が口を開く

 

 「狩人なら、もう一人います

 宗次、重保様と私で抑えるから“マ”の相手はお願い」

 そう言うと美羽は紙片を取り出し祝詞を唱え始めた


 「なにっ!?」

 さすがに重保は驚いた

 下働きとして見ていた美羽が突然祝詞を唱えだしたのだ…しかも『安倍家が好んで使う祝詞』を


 「ーー急急如律令」

 美羽が祝詞を唱え終わると手にした紙が式神となり光を放ちながら天に舞う


 『これは…近くに居るのか?ならば!』

 重保もその式神が味方や援軍にこちらの所在地を教えるのに良く使う物だと気づくと簡易的な退魔結界の用意を始めた

 そして美羽も今度は“加茂家”が好んで使う祝詞で簡易結界の補佐になる式神を造る祝詞を唱え始めた


 『こやつ…』

 重保は美羽が唱える祝詞を耳にすると薄っすらと口元に笑みを浮かべる

 加茂家が好んで使う祝詞故に美羽が何をしたいかがすぐに理解したのだ


 そこへ

 「宗次、美羽無事か!」


 篤史が現れる


 「おっ!篤史」

 篤史の姿を見た宗次が簡単に状況を説明する


 「こちらの御人も助力してくださるが

 俺一人では無理みたいだ

 手を貸してくれ」


 『説明になってないよ宗次…』

 宗次の言葉に祝詞を唱えながら聞いていた美羽がぼやくのだが


 「不破関のモノノフがこちらに向かって来てる

 それまで耐えろ!」


 何故か理解してる篤史が指示を出す


 「承知!!」

 我が意を得たりとばかりに返事をすると宗次は漣を構え“マ”が居る方向へと歩んで行った…


 程なく重保が簡易結界の術式を完成させ、少し遅れて美羽が補助式神を作る

 美羽は己が作った式神を篤史に手渡すと篤史は無言で森の中へ消えて行った

 

 「今の者は?」

 重保が篤史と美羽が無言で行っていた動きに驚愕して美羽に尋ねて来た


 「腕の良い狩人ですわ」

 美羽は自慢げに重保の問いに答え、新たな護符を用意し始めた


 『これなら祓えるか?いや、無理は禁物だな』

 重保の耳にも不破関からモノノフが来てると言う篤史の声は聞こえていた

 新たにモノノフが来るので有れば当初の予定通りモノノフ二人で対処し我らは押し留めるのみ

 そう割り切った重保も“祓う”から“押し留める”方向へと思考を変える


 不破関のモノノフが来るまで耐えれば良いのだと


 やがて宗次が“マ”と会敵し宗次と“マ”の戦いが始まった

 “マ”は靄の触手を振り回すだけではあったが、範囲が広く周囲の木や土を無作為に飛ばして来た

巻き上げられた土ぼこりが煙幕のように“マ”の場所を隠す

 そしてその中から木片や石が飛んで来るのだ


 「確かに厄介だな」

 なかなか本体に刃が届く位置まで進めず

 近づいては飛散する木片等に後退を余儀なくされるを繰り返していた


 やがて少しずつだが土ぼこりが収まり

 篤史と地元狩人が連携して広範囲に退魔の護符を設置すると“マ”の動きも鈍り始めた


 ようやく“マ”本体と向かい合う事が出来た宗次が気合いを入れて距離を詰める


 のだが

 

 伸びて来た触手が宗次を襲う


 「ぐぁっ」

 伸びて来た触手を切り払った宗次の足に痛みが走る

 “マ”は触手で攻撃するのではなく触手を囮に石を宗次へと飛ばしぶつけてきたのである


 「宗次!囮に気をつけろ」


 「もう食らった!よっと!」

 “マ”が見えない篤史が宗次へと助言するが、時既に遅く宗次は触手が飛ばした木片やら石による攻撃を食らっていたのだ


 『篤史は見えて無いのかよ…

 んっ?あ…俺“マ”が見えてる』

 篤史の助言が遅い事に不満を感じていた宗次は自分が見えてる事に気づいた

 無論これは妖刀の持ってる能力の一つである妖刀に認められ所持する事で同じ“ケガレ”を纏う“マ”も視認出来るようになる、故にモノノフは“マ”を切れるのだ


 徐々に攻撃の的を宗次へと絞り始めた“マ”からの攻撃が激しくなり出す


 「これをかの御仁に」

 その様子を見ていた重保が懐から護符を取り出し美羽に渡す

 美羽も護符を見てなんの護符かを理解すると宗次に近づくために駆け出した


 「おりゃっ!せいっ!」

 次々と向かって来る“マ”の端っこを気合いを入れて斬る宗次に向かい


 「宗次これを!」


 パチンッ!

 まるで宗次の背中に張り手でもするような勢いで美羽が護符を貼る


 すると背中から宗次の体を“痛み”と“疲労”を和らげる護符の力が覆う


 「凄いな…」

 

 石などが当たった場所の痛みが和らぐのを感じ取った宗次が小声で漏らすと


 『これならば…』

 宗次は少し前へ出て距離を詰めたその時である


 「宗次!無理するなよ

 俺達の役目は時間稼ぎだ!」


 篤史は巧みに場所を移動して不破関の援軍からの合図を探しつつも宗次に声をかけていた


 そうだった、今は耐えろ

 己にそう言い聞かせると宗次は再び距離を開け守りに徹するのであった。


 そんな宗次に妖刀“漣”が力を貸す


 触手か?石か?木か?

 と、常に不意打ちに気を配りながらの戦いの中、宗次の片手から痛みにも似た何かを感じた


 まるで妖刀が何かを訴えてきたかのように感じた


 しかし宗次はその訴えを無視した

 単なる“ケガレ”による物だと思ったのだ…


 そして妖刀“漣”もそんな宗次に苛立つかのように鈍い痛みにも似た何かを出し続けるのであった。

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