初めての友
上野国、赤城山麓近くの村落から少し離れた場所に住む家族がいた。
彼らは村人達が忌み嫌う
“四つ足の獣”
を狩猟し食すが故に村人達からは良い目では見られていなかった。
そんな一家のひとり息子、篤史は今日も父親と共に森へ入り、狩りを行う…
寡黙な父親は言葉では語らず、実践で篤史に“狩人”としての基礎を教え篤史もまたそれを己のものとしていた。
村の子供達が遊びに夢中になっている間も篤史は森の中を1人で獲物を狙い、仕留めていた。
ある日の事だった
篤史が小動物を捕らえる罠を作っていると村の人が2人、篤史の父親を尋ねて来た
篤史は2人の内の1人には見覚えがあった。
村で“モノノフ”と呼ばれる武士の宗則である。
宗則は篤史を見ると
「矢作はいるかい?」
と、篤史に声をかけて来た
篤史は首を縦に振ると家の中を指差す…
宗則はニコリと笑うと、
「ありがとう、
俺は今から矢作と話して来るから、その間コイツと遊んでてくれないか?」
そう言うと、宗則の後を付いてきてた1人の少年を篤史の前へと連れてくる
「宗次、父ちゃんこれから難しい話をして来るから、
終わるまで篤史と遊んでてくれ」
宗次と呼ばれた少年は篤史を見るなり
「おいら宗次!遊ぼう!」
と、笑顔で篤史に話かけるのだが…
「…え」
急に知らない人に話しかけられ篤史は言葉を発せずに固まる…
やがて、篤史はゆっくりと唾を飲み込んで言葉を絞り出すと
「“遊ぶ”って何?」
と、宗次に聞くのだった…
「「え?」」
これには宗次も宗則も驚きながら篤史に
“遊ぶ”
を教えようと試みるのだが、2人共言葉が得意では無かったので、
結果として、宗次が実践して篤史に遊びを見せ篤史が学ぶ…と言う形になっていた。
初めて篤史が宗次と会った日から宗則が矢作をたずねて来る回数が増え、矢作と宗則はその度に日が暮れるまで森の中へと入っていた。
宗次と篤史は父親が帰って来るまでの間
ある時は篤史と森の中へ入り、ある時は木の枝を剣に見立て剣の練習をする等をし、時を過ごしていた。
ある日、篤史が
“そろそろ宗次が来るだろう”
そう思い宗次が好きな樹の実を摘んで帰って来ると、
…知らない人が居た
綺麗な服を着た男の人と、小さな女の子である。
『知らない人』
篤史は咄嗟に茂みに身を隠し、来訪者の様子を伺っていると、
急に何者かに服を掴まれ、ふわっと篤史の体が宙に浮く
『!?』
驚いて篤史の服を掴む人を見ると篤史の父、矢作であった。
矢作は片手で篤史を摘んで持ち上げ来訪者の方へと運搬して行く…
矢作は来訪者の前へ篤史を置くと
「…遊べ」
とだけ言うと、家の中へと向かう
男の人も女の子に
「篤史と遊んで待ってなさい」
とだけ言うと矢作の後に続いて家の中へと入ってしまうのであった…
篤史は矢作の手伝いで獣の皮や樹の実を村に持って行ってたので村には女の子が居ることは知っていた
しかし村の人達は篤史達を見ると毎回いなくなってしまうので、いつも遠く離れた場所から見るだけだった
故に近くで女の子を見て固まってしまう。
女の子も急に父親から“遊んで待ってなさい”と言われ、どうすればよいかわからない様な顔で篤史を見ていた
…しばらくの沈黙が続く
互いに何も言えず、動けなく気不味い空気だけが漂う
ほんの数秒が何時間にも感じる沈黙が続き、篤史が耐えられ無くなり、その場を逃げようと思った時だった。
「お〜い!篤史!美羽!」
遠くから聞き覚えのある声が聞こえ
「「宗次!」」
篤史と女の子が同時に宗次の名を呼び
「「え?」」
と、互いに顔を見合わせてると、
「なんだ、2人共もう仲良しか?」
まるで太陽の様な笑顔で宗次が2人に駆け寄り話かける。
宗次の父、宗則は少し遅れて現れると、
「もう君彦来てるのかぁ、
宗次、いつもみたく3人で遊んでて」
と言って家の中へと向かって行く
宗次が、
「3人で遊ぶの、今日が初めてだよ父ちゃん」
と、軽く突っ込むも聞いてはいなかった。
とりあえず、宗次が来てくれたおかげで助かった2人は、
ぎこちなく互いに会釈して宗次に助けを求める様な眼差しを向けるのであった。
宗次の話では、女の子の名前は“美羽”と言って、村に有る神社の子らしい…
「んで、こいつは篤史。
狩人の矢作さんとこの子だよ」
「…え?狩人?」
宗次が美羽に篤史の事を話した途端に美羽の表情が変わる
村の人達みたいに嫌な顔をされる…
篤史は知っていた、村の人達は“四つ足の獣”を食べる篤史達を避けている事を
だから、宗次が篤史の事を話した時に美羽を見るのが怖かった。
美羽の表情が怖かった。
村の人達みたいに嫌な目で見られるのが辛いのだ。
「ねぇ篤史、あなたも狩人なの?」
ところが、美羽は少し目を輝かせながら篤史に尋ねて来た
「…あ、まだ半人前」
篤史は上手く言葉が出ず、ぶっきらぼうな言い方をしてしまうが
篤史の予想を裏切り、美羽は篤史の手を取ると興奮気味に話す
「父から聞いてます!
狩人って凄いんだって
父の作る薬とかも全部矢作さんが持って来てくれてるって!」
これは…どうすれば良いの?
篤史は軽く混乱しながら宗次に助けを求めた
それもそのはず、母親以外の女性がいきなり手を掴んで話し出したのだ
女性と話す事も初めてだし
手を掴まれる事も初めて
そして、笑顔を向けられた事も初めてだったのだから…
「篤史変な顔してる(笑)」
頼みの宗次は、そんな篤史を見て笑っていた…
こうして、色々な“初めて”を美羽にされた篤史は美羽が村の人達とは違う…
そう確信するのだった。
宗次と美羽
この2人にペースを狂わせられた篤史がいつもの篤史へと戻るのには、もうしばらく時を必要としていた。




