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山道の危険

 無事に妖刀“漣(さざなみ)”を手にした宗次達は来た時に通された部屋へと戻り、

 九条から簡単なモノノフとしての知識を伝えられた。


 「すでに知っているかと思うが、上級妖刀の配置された土地には“守り人”と呼ばれる者達が派遣される

 が、お主の場合は中級妖刀…

 故にその土地の“守り人”に協力を願い出る事で“マ”の討伐をするように。」

 そう言うと九条はチラリと篤史を見て


 「お主には専属の“守り人”が居るようだがな…」

 と、付け加えた


 宗次もチラリと篤史を見ると少し微笑む


 九条は続けて重大な事を告げる

 「また、妖刀は個体によって差はあるが“マ”を倒すほどに使用者の体を“ケガレ”で蝕む

 “ケガレ”はやがて使用者を死に追いやる恐ろしいものである。

 つまり、モノノフとは己の命と引き換えに民草を守る者なり。

 …心して励め」


 その後は九条によるモノノフとしての心構え等が続き


 「…最後にこれを」

 そう言うと九条は宗次に1枚の護符を渡す


 「“ケガレ”を抑える護符であると同時に、お主がモノノフである証明でもある

 …大事にするように。」

 宗次は両手で護符を受け取り恭しく頭を下げた。


 無事にモノノフとなった宗次は篤史達を連れて拠点にしていた寺へと戻ると、いよいよ赤城山へ帰る用意を始めた。



 皆が無言で黙々と支度をする中で篤史が唐突に美羽へ話かける

 「なぁ、来る時はどうやって来たんだ?」


 それもそのはず、美羽が都に来た時は美羽はまだ幼い女の子だったのだ。


 「…たしか、沢山の人と一緒に…荷車や馬に乗って来たはず」

 美羽は昔の事を思い出しながら当時の事を話した。


 「峠越えは馬か?」

 篤史が少し険しい表情で再び美羽に聞くと


 美羽も僅かに記憶を探るような仕草の後に

 「たしか…荷台に乗ってた気がする」


 と、答える


 その答えを聞いた篤史が手を額に当てて

 「あちゃぁ~“馬”も“荷台”もねぇ

 …美羽、歩くぞ!」


 と、真顔で美羽に告げる


 「う、そ…だよね?」

 恐る恐る美羽が篤史に確認するのだが、篤史は表情を変えずに


 「俺達は歩いて峠を越えてきた。」

 と美羽に言うと、美羽の表情がみるみる険しくなった…のだが


 「大丈夫!最悪は俺が美羽を背負って峠を超える」

 宗次がニカッと笑顔で言うと美羽も笑顔で


 「お願いね宗次」

 間髪入れず宗次にお願いしたのであった。


 しかし篤史は険しい表情で


 「宗次お前、美羽を背負って神坂峠を超える気か?

 …山を舐めるな、死ぬぞ」


 普段はあまり見ない篤史の真剣な眼差しに宗次も一瞬怯んだが

 「じゃあ、篤史には何か良い考えがあるのか?」


 と、篤史の目を凝視しながらこちらも真顔で答える


 余りの剣幕に喧嘩に成るのでは?

 と、心配した美羽が間に入るように

 「あ、篤史ごめん…ちょっとふざけただけなの

 宗次も…だよね?」


 しかし篤史と宗次は互いに睨み合うように視線を合わせていたのだが、

 不意に篤史が視線を外すと

 「…ちょっと考える」


 そう言って篤史は少し思案すると

 「逢坂関、

 逢坂関を越えた先の駅(うまや)で判断する

 …峠越えが無理だと判断したら“木曾路”へ迂回する

 木曾路なら美羽を背負ってても少しは危険が減るはずだ、それで良いか?」


 「篤史に任せた」

 宗次は間髪入れず返事をすると再びニカッと笑った。


 そんなやり取りを見ていた美羽も

 『なんか…凄いな』

 と、2人の信頼関係を少し羨ましく思う



 ようやく皆の旅支度が終わり3人は粟田口へと向かう

 歩きながら互いに今までの事や昔の事を話しながら楽しそうに旅は始まったのであった…



 逢坂関は都へ入るには最大級の難所に数えられる場所ではあるが、

 都から出るぶんにはさほど手間もかからずそれぞれの身分を示す物を提示するだけで、すんなりと通過していた


 のだが…


 「腹減ったぁ~」

 体の大きな宗次は人一倍食べる

 それ故に旅の最中は常に空腹を訴えていたのだ

 そして、その度に篤史が懐から何かを丸めた物を取り出すと宗次へと渡す

 宗次はそれを受けると美味しそうに頬張り笑顔で咀嚼するのだ


 その様子を美羽はあっけにとられるように見ながら

 『この先が不安だわ』

 素直にそう感じていた…

 宗次の食べっぷりでは勢多の駅まで食料が持つギリギリのように思えたのだ


 「ねぇ篤史、勢多駅で食料を調達したいんだけど…いいかな?」

 美羽は篤史が峠越えの話をした時に、何故あれほど険しい表情だったのかを

 “宗次の食料”が原因だと推測すると篤史へ食料の補充を提案した。


 「腹…減ったのか?」


 しかし篤史からの返答はコレだった

 そして篤史は再び懐から何かの丸めた物を取り出すと美羽へと渡そうとする


 「いや…違うから」


 慌てて美羽は否定するが、なんとなくその物を受け取り咀嚼する…

 樹の実などを恐らく米か何かで練り固めた物は、ほのかに甘く小さな物の割には腹が満たされたのだった。


 僅かにだが元気が出た美羽は考えるのを止めると、ズンズンと歩く速度を早めて先頭を歩く篤史に追い付き追い抜いて歩く


 「お〜い!こっちだぞぉ~!」


 しばらく進むと急に後から声をかけられ美羽が振り返ると篤史と宗次は街道を外れた森の中へと向かっていたのだ

 『なんでそっち?』

 宗次とは違い“守り人”の道を知らない美羽は篤史が選ぶ道を見誤っていたのだ…


 少しイラッとしつつも小走りで宗次の後へと追い付き3人は森の中へと進んだ



 そして事件は起きる


 子どもの頃に赤城山麓で遊んでいた頃を彷彿とさせる山道を進んでいた時であった


 「きゃっ!!」

 長らく都の平坦な道に歩き慣れた美羽が木の根に足を取られ転倒してしまったのだ


 美羽の小さな悲鳴に篤史と宗次が気づき振り返ると、

 美羽は足を押さえて倒れたままであった


 「美羽!」

 宗次が慌てて駆け寄り美羽の様子を伺い、顔を上げ篤史の姿を探す


 「篤史!美羽が…」

 しかし、宗次に取って最も頼りに成る男の姿が無い…


 「篤史!!」

 よほど慌ててるのか、宗次は思わず大きな声で篤史を呼ぶ

 自分の後に篤史が立って居る事に気づかず叫ぶ宗次


 「足を挫いたか?

 …ちょっと足を見せて」

 焦る宗次とは対照的に淡々と篤史が美羽の様子を観察し、対処する


 その落ち着きに宗次は己が心を乱し叫んでいた事を思い出すと恥ずかしくなった。

 

 美羽の足を見てみると、ちょうど足首の辺りがぷっくりと腫れて行くのがわかった…

 

 「しばらくは歩けないな…」

 そう言うと篤史は自分の荷物を下ろし、中から布切れ等を取り出すと腫れてる部分に打ち身に効く薬草をすり潰した物をを塗り、布切れで巻いて足首を固定する。

 

 「宗次、美羽を背負ってくれ荷物は俺が」

 篤史はそう宗次に言うと美羽と宗次の荷物を持ち森の中に歩きだした


 「ありがとう…うぇっ?

 えっ?

 ちょっ…ちょっと待って」

 急に荷物を取られ、目の前で背中を向けてしゃがむ宗次

 美羽は、心の準備も糞もない展開に慌ててしまい変な声を出して反応してしまっていたが、自力で歩く事が出来ないので

 結局は宗次に背負われ森の中を進む事になる


 宗次に背負われ半日ほど過ぎた頃、

 森の中にある小さな小屋へとたどり着いた…守り人の隠し拠点である。

 隠し拠点に到着した篤史達は美羽を休ませると、小屋の床板の一部を持ち上げると床下から壺を取り出し中身を開ける


 「ちょっと篤史、勝手に知らない人の家の物を取るのは駄目よ」

 美羽が篤史に苦言を言うが、篤史はそれを聞き流し淡々と作業していた。

 都へ向かう時にも利用した小屋なので宗次は2度目で篤史の行動に何とも思わず見ていたのだが、美羽が篤史に苦言を言うのを聞くと

 

 「ここは“守り人”の小屋だよこの地の守り人が篤史に提供してくれてるんだよ」

 と、美羽に説明して美羽を納得させる

 

 やがて、

 「美羽の足が治るまで、ここを拠点にする」


 こうして、3人の旅は始まったばかりでいきなり足止めを食らうのであった。


 来る時とは違い都暮らしが長く旅慣れぬ美羽を連れての旅は波乱の幕開けとなった…

 

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