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妖刀「漣(さざなみ)」

 橘家…モノノフ達の組織をまとめ上げる武家の一つである

 

 都の橘家と言えばモノノフの本部的な役割を担い主に“妖刀”の管理をしている事で知られていた。


 そんな橘家の門を一人の若武者と二人の友が訪れる

 門の前に立つ武士に向かい宗次は懐から取り出した書状を見せると


 「赤城山の山上宗則が子、宗次

 命に従い馳せ参じました。」

 と、告げる


 門を守る武士は篤史と美羽を見ると

 「そこの二人は?」

 と、尋ねると


 篤史は懐から朝廷の使者を示す印が彫られた短刀を取り出し無言で見せる

 武士も篤史が持つ短刀の印を見ると軽くうなずき短刀を仕舞うよに軽く手で合図をした。


 そして美羽を見る


 「私は赤城山の水守神社の巫女でございます。」

 美羽も形式的ではあるが巫女を名乗る


 が、

 「はて、何故ゆえに巫女殿がこの場に?」


 と、武士は失礼が無いように美羽に尋ねた


 予定では篤史が美羽を赤城山へ連れて帰る仕事の護衛に宗次の力添えを頼んだ…

 と言う段取りのはずだった


 のだが…


 「某の嫁にございます!」

 と、宗次が血迷った発言をした


 「なっ!」


 一気に美羽の顔が恥ずかしさで赤く染まり宗次を睨みつけると

 「ちょっと宗次!なに勝手な事言ってるの」


 そんな美羽を無視して宗次は続けて

 「ゆくゆくは…で、ございますが」


 と、つけ足した。


 そんな二人のやり取りを見ていた武士も僅かに微笑むと

 「さようか、ならば巫女殿も共に参られよ

 なるほど九条殿が気に入った若武者だけはあるな」

 と、意味深な言葉と共に三人を屋敷へと案内する

 『九条殿?』

 宗次は九条殿に心当たりが無く話が見えないまま屋敷へとついて行った


 「ご当主様のお見えです」

 宗次達が部屋で待機していると、家人が戸を引き橘家の当主が通る道を作る


 やがて見るからに屈強な武士と文官のような武士が部屋へと入って来た

 屈強な武士が上座へ座り、文官風の武士は脇へ控える

 「して九条よ、この者がお主が申してた宗次なる若武者か?」

 

 九条と呼ばれた文官風の武士は

 「さようでございます橘様、山上宗則の子で名は宗次と申します。」


 と、屈強な武士に向かい恭しく答える

 橘様と呼ばれた武士は

 「ほぉ、上級妖刀“白波”の宗則の子か

 …ならば“巌”か“朱里”辺りの上級妖刀が使えるやもしれんな」


 と、最後は九条へ確認するように話しかけた


 すると九条も

 「はい、“白波”を持たせた所、手に痛みを感じる程度でしたので

 某が思うに上級妖刀の可能性はございます」


 ここでようやく宗次は九条が朝廷の使者として宗則の家に来た人物だと言う事に気づいた。

 『まさか名門の九条家の人だったとは…』

 と、勝手な発言をして父宗則に叱責された時の事を思い出す


 ちなみに宗次には意味は解るのであろうが美羽や篤史には彼らの言ってる事がさっぱりわからなかった。

 なんか凄い妖刀もらえるのかな?程度である


 実は妖刀には位があり、

 鬼切丸級の名前が全国に轟く妖刀は最上級妖刀と呼ばれ

 上級妖刀は国守や重要な場所を任されたモノノフが所持する妖刀となるのだ

 余談ではあるが宗則が持つ“白波”は上級妖刀の中では中間に位置するが、上野國で2番目に位が高い妖刀であるが故に赤城山の守護を任される事に成っていた

 一般的なモノノフ達の持つ妖刀は中級から下級の妖刀なのだ。


 ある程度の質疑応答が終わるところで橘の合図で複数の武官が入って来た


 みな手に布を持ち宗次達の後へと立つ


 「これより妖刀のある場所へと向かう

 ただし、場所は知らせる訳には行かない

 よって皆に目隠しをさせる

 …よいな」

 そう言うと橘は武官に合図を送り宗次達に目隠しを施す

 美羽は視界が遮られる不安から、美羽を守るように動いていた宗次の着物の端を掴んでいた

 やがて、それぞれの武官が宗次達に紐を手渡し紐の端を掴ませると


 「ついて参れ」

 橘と九条は数人の部下と共に奥へと向かい歩きだした

 


 どのくらい歩いたのだろうか?


 篤史は感覚で脳内に地図を描きながら歩くも、所々で違和感を感じた

 『同じ所を歩いてるのか?

 …いや、この感覚は下に降りてる?』

 目だけに頼らない篤史のみ抱く違和感を感じながらも先に進む


 宗次の着物の端を掴みながらついていく美羽は度々この屋敷の施された結界に驚く

 『また結界…これで何度目?

 しかも効果の異なる結界みたい』

 結界の効果はわからない…しかし美羽には施せないほど強力なものであるのはわかった


 一方で宗次は…

 隣を歩く武官達の気配に怯えていた

 『この人達…凄く強い』

 そこに“居る”だけでこの感覚

 仮に篤史が変な動きをした途端に刹那の動きで無力化されるであろう


 そんな感じで屋敷内をしばらく進むと、先導する武官が立ち止まり、しばらく動かなく成った。


 「目隠しを…」

 離れた場所から橘の声が聞こえると、宗次達の目隠しが外され周囲の様子が目に入って来た


 そこは広い部屋の中に“太刀”が何本も飾られている部屋で宗次達はその端に立っていた。


 そして九条が宗次に命じた

 「宗次よ、ここに」


 そう言うと一振りの妖刀の前を指し示す


 ゆっくりと妖刀の方に向かう宗次の服が引っ張られた

 『ん?』

 ふと振り返ると美羽の手が着物の端を掴んでいた

 「…あ、」

 美羽は慌てて手を離すと

 「頑張って」

 と、照れ隠しのように笑顔で手を振る


 「…うむ」

 宗次は美羽と篤史に笑顔で答え妖刀の前へと進んだ


 「これは“巌”

 お主の父宗則の持つ“白波”よりも守りが強い一振りである

 …抜いてみせよ」

 九条は簡単な説明をした後に宗次に妖刀を抜くよう指示する


 宗次はゆっくりと妖刀“巌”を抜こうと試みた


 バチンッ!

 

 “巌”は宗次が抜く前に拒絶し弾ける様な音が響く、激痛の余り宗次は“巌”を落としてしまう


 「ぐぁ…

 …はっ

 も、申しわけ…」

 貴重な妖刀を落下させてしまった事を謝罪しつつ“巌”を取ろうと思ったのだが…


 宗次を案内していた武官が、ひょいと“巌”を取り元に戻してしまう。

 『やはり、只者では無いか』

 恐らく武士としての力量もモノノフとしての力量も宗次の遥か上の存在…


 「“巌”は拒むか…

 ならば“朱里あかり”はどうかな」

 九条は“朱里”と思われる妖刀を示すと宗次を“朱里”の前に導き


 「この妖刀“朱里”には“白波”には無い特別な力が備わる一振りである

 …抜いてみせよ」

 宗次は“巌”の時と同様に妖刀を手に取ると抜いてみようと試みた


 パンッ!


 “朱里”も宗次を拒絶し、“朱里”は逃げる様に宗次の手から落下し宗次は“朱里”までも落下させてしまうのだが、

 これも先の武官がひょいと取り元へと戻してしまう。

 

 「“朱里”も駄目か…

 ならば“若竹”を

 …宗次こちらに」


 “若竹”と呼ばれた妖刀にも特別な力が備わっていたらしいのだが、コレもまた抜く事が叶わず、

 

 「…ならば、これならば」

 と、宗次は部屋中の妖刀全てを手に取るが

 全てに拒絶されてしまう。


 「…なんと言う事か」

 橘が落胆した感じでそう言うと


 「九条よ、後は任せた」

 と、その場を退出してしまうのであった…

 上級妖刀ならば使い手の配置なども判断しなければならないので、橘が立ち会ったのだが…

 中級以下となれば話は変わるのだ

 

 橘が退出した後、九条は宗次達を違う部屋へと案内した

 その部屋は先の部屋よりも並んでいる妖刀の数が多かった


 「ここには中級妖刀の中でも上位に位置する妖刀が置かれている

 言わば、もう少しで上級妖刀の仲間入りになる妖刀である」

 九条は、そう言うと宗次を最も奥に置かれている妖刀の前に宗次を案内し


 「これは“さざなみ

 宗則が持つ“白波”と同じ系統だが、ちと足りぬ妖刀でな

 “白波”には無い特別な力が有るのだが…全てにおいて足りぬのだ」

 そう言うと九条は“漣”を指差して


 「…抜いてみせよ」

 と言った

 

 宗次は他の妖刀同様に“漣”を手に取ると


 キィィィィ……


 まだ抜いても居ないのに“漣”が細かく震え不快な金属音が響いた


 初めての事に戸惑い宗次は思わず九条を見てしまう

 九条も少し驚いた感じの表情ではあったのだが、


 「…坊主、“漣”が呼んでる抜いてやれ」

 不意に先の武官が宗次に声をかけた


 宗次は驚きながらも、ゆっくりと“漣”を抜く

 その瞬間

 宗次の意識に何かが語りかける感じがした

 

 一瞬で宗次に波の様な何かが押し寄せて…消える

 やがて穏やかな波の様に刀身から“ケガレ”の波が生まれ宗次を包み込む。

 思わず美羽が“ケガレ”に反応して懐へと手を伸ばしてしまうが、美羽を案内していた武官が肩を掴む

 「案ずるな、妖刀との契りの儀式だ」

 と言って美羽の動きを封じる

 グッ…と強目に肩を押さえられる事で美羽が冷静さを取り戻す。


 篤史も部屋中に変な雰囲気が満ちた事に気づいたが、動くと隣の武官に切られそうな気がしたので、じっと様子をうかがっていた


 宗次を包み込む“ケガレ”が宗次の体内に染み込む様に消えて行くと“漣”を握る手に薄っすらと染みの様な物が浮かび上がった…


 「妖刀の方から呼ばれるなんて珍しいな

 …のう九条殿」

 先の武官が九条に同意を求めて話しかけると


 「左様ですな。

 源殿が言われる様に、妖刀の方から呼ぶのは貴殿の持つ“安綱”以来かもしれぬ」

 そう九条は源と呼んだ武官へと返答し


 一度身なりを整え姿勢を正すと

 「赤城山の山上宗則が子、宗次よ

 そなたに妖刀“漣”を預ける

 以後、モノノフとしての役目を果たすべし」


 その様に告げると宗次に微笑んだ


 宗次は“漣”を手に

 「赤城山の宗次“漣”の名に恥じぬ働きを誓いまする」

 と、誓いを立て見事モノノフと成った。


 『これが…妖刀“漣”』

 全てにおいて“白波”に劣る。

 そう評されていた妖刀の新たな所持者と宗次は成ったのであった。



 こうして宗次は無事に妖刀の所有者に…モノノフに成ったのである。

 

 後に宗次は知る

 源と呼ばれていた武官が最上級妖刀“童子切安綱”の所有者である事。

 そして妖刀に呼ばれた…と言う事の意味を

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