巫女の姿をした陰陽師
「私さぁ、頑張って旅支度をしたんだけど?」
篤史達と拠点にしてる寺へと向かう道中で美羽は不貞腐れていた…
それもそのはず、今日のうちに東山道で逢坂関を越える
そのつもりでいたのに、
「もう一箇所行く所がある
とりあえず荷を解いて普段着になってくれ」
と、篤史に言われたのだ
「で?行く所ってどこなの?」
不貞腐れた美羽が篤史に問いかけると篤史は宗次の方を見る
「橘様の屋敷だ」
宗次は少し口元に笑みを浮かべながら答えた
「橘!?」
美羽も伊達に京で修行していた訳では無い
“橘”の名が何を意味するのかを瞬時に理解し
「え?宗次…まさか」
驚きながらも宗次に確認する美羽
「あぁ、妖刀を受け取りに行く」
希望に満ちたような笑顔で宗次は答えた
『これで、俺も…』
正直な話、宗次は自分の不甲斐なさに苛立っていたのだ、同じ赤城山で過ごした篤史には東山道を旅する道中で嫌と言うほど“差”を感じていたのだ。
山では篤史の足元にも及ばない…
それが宗次の結論である
せめて美羽を…と思うのだが、その美羽も修行を終えて一人前になってしまえば宗次の助けを必要とするだろうか?
そんな不安に駆られていたのだ。
妖刀さえ手にすれば自分も共に戦える
ようやく美羽や篤史の隣に立てるのだと宗次の心は躍る
「そっか…おめでとう宗次」
美羽は一瞬だけ表情を曇らせるが、すぐに笑顔を作ると宗次のモノノフ就任を祝う
篤史達が拠点に使っていた寺へとたどり着き、美羽は旅の装備を外しながら篤史に話かける
「ここ“守り人”の拠点よね?」
何気ない美羽の言葉だったが篤史は瞬時に反応し、咄嗟に懐へと手を伸ばす
が、美羽が陰陽師だと言う事を思い出すと懐から手を離す
そして、
「美羽は俺達“守り人”について何処まで知ってる?」
と、尋ねる
しかし宗次が先に口をひらく
「“モリビト”ってなんだ?
篤史達狩人がいつも森にいるから“森人”って言うのか?」
篤史は少し思案すると美羽に伝える
「美羽…宗次に美羽が知っている“守り人”について教えてやってくれ」
その言葉に美羽も少し思案する
『守り人について知っている事?
…私が何処まで知ってるのかを知りたいの?』
が、美羽は考えるのをやめて
「…わかったわ
知っている事は全て話すわ」
と、素直に話し出そうとした
しかし1人だけ、状況が理解出来無く
「まて篤史、モリビトは狩人とは違うのか?」
と、宗次が美羽が口をひらくのを妨害した…
一瞬だけ篤史と美羽は顔を見合せ、深いため息を漏らすと
「それを今から美羽が話すから」
「今から私が説明するから」
「「大人しく聞いてて」」
と、見事にハモりながら宗次を黙らせると、美羽はゆっくりと話し出した
「ます、篤史達は狩人と呼ばれてるけどね
正式には守る人と書いて“守り人”と言うのが正しい呼び名なの…ここまでは理解した?」
美羽は一度話しを止めて宗次に確認する
宗次も
「あ、守る人って方の守り人かぁ~」
と、つぶやきながらも美羽に頷いた
「で、大事なのは守り人の役目なの…
守り人は朝廷直属の組織で、全国に散らばり朝廷の為に情報を集めたり朝廷からの指示で動く人達なのよ…」
ここまで話しを聞いていた宗次が声に出して驚く
「朝廷の直属?
待て待て…
じ、じゃあ篤史達ってモノノフよりも偉いってことか?」
宗次が驚くのも無理はない
モノノフは武家の中に組織があるので朝廷から見ると外部の組織となり、
陰陽師は官僚の様な立ち位置であり、普通のモノノフよりも位が上に成る者が多い
…この辺りも陰陽師とモノノフの組織が対立する要因と成っていた。
「偉いかどうかはわからない
ただ、勅命が来れば従うのみ」
篤史は淡々と答え
「守り人は貴族では無いのよ?
貴族の位を持つ方が立場的には上になるわね
…ただ、勅命を持ってくる場合は朝廷の代理になるわ」
美羽が更に詳しく説明するのだが…
「よくわからん…
が、俺達は今まで通りで良いんだろ?」
そう言って宗次はにこやかに笑った。
「あぁ、そうだ」
「そうよ」
そして美羽と篤史も同じように笑うと美羽が大事な事を話し出す
「“守り人”の存在は基本的に極秘なの、特定の人以外が知れば口を封じられる
“守り人”の事を知って良いのは、巫女と陰陽師…そしてモノノフのみ
だったよね篤史?」
「そうだ…美羽は陰陽師で宗次はモノノフだから問題無い」
篤史は内心安堵していた“守り人”までならばバレても大丈夫なのだ
だから美羽が素直に知っている事を全て話してくれた事には感謝した
もし、美羽が“湯守衆”の事までも知っていた場合は組織へ報告しなければならないのだ。
湯守衆の事は巫女とモノノフ以外には知られてはいけない
つまり、陰陽師には知られてはいけないのだから…
そして美羽は旅支度を解き終えて日常着になる為に衝立の後へと移動し
「あ、篤史ぃ〜、一応は私さぁ“巫女”って事でお願いね」
「は?美羽が巫女って…どういう事だよ?」
篤史は動揺した巫女と陰陽師では話が変わるからだ
「不思議に思わない?
“マ”と単独で対峙出来る陰陽師が守り人に道案内を頼む事に
私さぁ、厳密には陰陽師とは認めてもらえてないんだよね…
ほら、陰陽師って官職でしょ?
私…官僚試験に落ちちゃったのよ」
服を着替える衣擦れの音を隠す様に美羽が話す
「大丈夫だ、美羽なら受かる!もう一度試験を受ければ次は受かるさ!」
宗次は美羽を励ますように美羽へ声をかけるが
「次の試験は何時なんだ?」
篤史は少し冷めた口調で聞く
「…4年後、それまで実家で精進しなさいって事なの」
そこまで言うと美羽は衝立の後から出てきて篤史達の前に姿を見せる
「…か、可憐だ」
宗次が美羽の姿に見惚れ、口に出してしまうと、美羽は少し顔を赤らめて
「ありがと」
と、宗次に微笑んだ
「それで、なぜ巫女なんだ?」
それかけた話を篤史が引き戻す
そして美羽は二人の前に座ると真面目な顔で話し出した
「…今の私は“陰陽師見習い”であると同時に“形式上の巫女”なの」
美羽は少し悲しそうな表情を見せて続けた
「最初私は“加茂家”でお世話に成っていたんだけどね…
何かの手違いで“巫女”としての修行をしていたのよ
けど全然ダメで巫女としての才能が無い事だけはわかったわ…
加茂家の人達も私に巫女の才能が無い事がわかると形式的な事だけは出来るように教えてくれたのよ
だから、形だけの巫女なの
運よく安倍家の人に引き取られるまでは書生みたいな事しかして無かったわ
で、安倍家に引き取られてようやく陰陽師としての修行が始まったんだけどね
肝心の試験で落ちちゃったから…」
悔しそうな表情で話す美羽に篤史が真顔で尋ねる
「美羽は“星読み”は出来るのか?」
星読み…夜空の星々を観て様々な事柄を“予見”する巫女の能力の一つである
「あぁ~…私、それ(星読み)しか出来無いの
しかも、加茂家で学んだ学問としての星読みだから精度は低いのよ」
ようやく篤史は理解した
要するに陰陽師としてでは無く赤城山の水守神社の巫女である美羽を赤城山へ連れて帰る案内役の仕事だったのだ
「巫女の姿をした陰陽師かよ」
つい篤史は口元に笑みを浮かべてしまう
神に仕えその声を聞く巫女は朝廷から保護対象として指定されている
狩人にとっては陰陽師よりも巫女の方が優遇すべき相手だったのである
それが例え形式的な巫女であっても…だ。
「笑わないでよ」
美羽が少し拗ねたように言うと
「美羽は、巫女も陰陽師も出来るのか!
凄いな!」
余り理解してない宗次も篤史につられて微笑む
やがてひと通り話しを終えた三人は最後のイベントである宗次の妖刀を受け取りに向かう
宗次がモノノフとなる為に必要な一振りの妖刀は一体どんな妖刀になるのか?
宗次は少し心が躍りながらも橘様の屋敷へと歩を進める




