再会
神坂峠
険しい山道と、良く変わる天候が東山道を旅する者達にとって最大級の難所と呼ばれる所以でもある
この神坂峠を宗次達は美濃に向けて歩いていたのだが、
何故か宗次は神坂峠が保福寺峠に比べて辛くは感じ無かった
理由は篤史である
阿智駅へと向かう道中でもそうなのだが、篤史は必ず雨風をしのげる場所を知っていた
雨風をしのげる場所へと宗次を案内しては毎回一人で出かけては食料等を調達してくれるのだ
そして必ず出発前に火を起こしてから出発していた…
「なんでいつも火を起こしていくんだ?」
宗次が疑問に思い篤史に聞くと
「ここを無事に出たって意味だ」
…宗次には良くわからない事を篤史が言うが、意味がある事だとは理解したのだった。
篤史は狩人が使う拠点に宗次を案内して休ませると、その地域の狩人を尋ねると次の拠点や道などの必要な情報と、新たな装備もらっていたのだ。
神坂峠に入った篤史は狩人達が使う拠点を利用すべく正規の東山道を意図的に外れると地元の狩人に教えてもらった道を進む
正規の東山道よりも険しい道だが、狩人達が使う道は天候の変化に対応しやすかったのだ
「この先は滑るぞ」
篤史は細い紐で宗次と自分を繋ぐと山道を進み、時折立ち止まっては宗次に話かける
実は山を庭にする狩人達にとって神坂峠も碓氷峠も同じ“山道”と言う感覚があり、篤史もまた赤城山の山中で慣れていた事もあり普通の旅人にとって最大級の難所である神坂峠を
“ただの山道”
としか感じていなかったのだ…
おかげで、さほど大きな困難も無く篤史達は神坂峠を越えて美濃の坂本駅へとたどり着いた。
神坂峠を越えてしまえば東山道の難所はほとんど無いのだが、
京へ向かう東山道の中で狩人達にとっての最大級の難所である“逢坂関”が残されていた…
険しい山道なら狩人達には難所では無い
しかし、相手が“役人”になると話は変わるのだ…
京へ入る旅人達を調べ不審者を京に入れないのが彼らの仕事
武士でも農民でもない狩人は“不審者”として見られやすい
故に朝廷からの書簡や身分を示す物を提示しても、とりあえず疑われてしまうのだ…
そこで篤史は五助達に教えてもらった方法を取る
宗次の下人のフリをするのだ
篤史は逢坂関の手前で宗次が持つ荷物袋を全て持つと、いかにも宗次の下人のように振る舞う
逢坂関の前には長い列ができており、通行する者達が厳しく検査され、なかなか列が進まない…
ようやく宗次達の番になると
「我は赤城山南麓の山上宗則が子、宗次なり朝廷の命により妖刀を預かりに参った。」
堂々とした名乗りをあげ、宗次は朝廷からの使者から預かっていた書状を役人へと手渡す。
が、
「…しばしまたれよ」
朝廷からの書状まで見せても宗次達はすぐに通過する事が出来ず、逢坂関が難所と言われる意味を痛感したのだった。
それでも宗次は姿勢を崩さず威風堂々としていた
さすがは武士と言った感じの宗次の姿に加え朝廷の書状を持参した本物のモノノフ候補だと確認出来ると役人は宗次達を通す、
こうして宗次達は無事に逢坂関を通過する事が出来たのである。
逢坂関さえ抜けてしまえば、京まではすぐであった
京へ入る門で門番に止められもせず、宗次達はあっさりと京へ着いた。
「凄い…これが都」
「あぁ…」
都へと足を踏み入れた二人は都の広さやきらびやかさに思わず立ち止まり、声を漏らす
「で、どうする篤史
…俺は先に美羽を迎えに行きたいのだが」
宗次は早く美羽に会いたいと言う気持ちを隠しもせず篤史に話しかけた。
「そうしよう、お前がモノノフになった後では入れないかもしれないからな」
旅の道中に篤史は宗次に五助達から聞いていた陰陽師とモノノフ間にある確執について宗次にも話してたので、
それをふまえて
…いや、単に美羽に会いたい気持ちで言ってるな
そう思いながらも篤史は宗次に同意する。
「とりあえず、寺に行く
寺で一泊し旅の汚れを落としたら土御門の安倍家に行こう
美羽はそこに居る」
篤史は話しながら碁盤の目のような都を進んで行き
宗次は見たことが無いくらいの人の量に圧倒されながらも篤史に付いていくのであった
やがて二人は人の少ない道に入り、少し分かりづらい場所にある寺へと入ると
篤史がすたすたと奥へ進み、中にいた僧侶に話かける
篤史が何やら懐から取り出し僧侶に見せると篤史達は少し離れた場所にある小屋に案内され、そこで旅の汚れを落とし身支度を整えたのであった。
身支度を済ませると篤史達は土御門の安倍家の屋敷へと向かう
「宗次、悪いがお前は俺の護衛と言う事で頼む」
逢坂関の時の逆である
陰陽師からの依頼で来てる篤史の護衛として武士を雇った…と言う事にして無用なトラブルを回避しようと考えたのだ。
安倍家の屋敷に着くと篤史は屋敷の門を叩き、中から現れた家人に赤城山まで道案内として来たことを伝える
「お連れの方は?」
家人はチラリと宗次を見ると篤史に尋ねた
「赤城山までの護衛です。」
余計な事は言わずそれだけを言う
「少しお待ちください」
家人は納得すると篤史達を門の前で待たせ屋敷の奥へと向かう
どのくらい待っただろうか
かなり待たされ、とうとう宗次が
「なぁ、俺達いつまで待たされるんだ?」
と、篤史に尋ねる
「今日来る…なんて向こうには言って無いからな」
美羽の準備が出来てないから時間がかかっているのだろうと思っていた篤史が呑気に答えた
「え?俺達が来るの知らないのか?」
宗次が驚いて篤史に聞くと
「当たり前だろ」
と、何を寝ぼけた事を言ってるんだと言わんばかりに宗次に言う篤史。
「狩人は俺一人では無い
…最悪、明日また来るのも覚悟しておけ」
美羽の準備が終わら無ければ当然ながらも篤史達は出直す事に成るのだ。
そんなやり取りを宗次と篤史がしていると、屋敷の門がゆっくりと開く
門の奥には複数の陰陽師達の姿が見えた
陰陽師達の前には旅支度を整えた女性が一人、見送りに来た者達に最後の挨拶を終えた所のようであった。
女性はゆっくりと振り返ると迎えに来た篤史達と目が合う
「…え、篤史?」
女性は迎えに来た狩人に幼い頃の友達の面影を見つけつぶやいた
「美羽…なのかアレ?」
篤史の隣にいた宗次がこちらに向かって歩いて来る女性を見ると篤史に聞いた。
それもそのはず、
篤史と宗次、そして美羽も子供の頃よりも成長し幼さは残るが互いに立派になっていたのだ。
篤史は、すっと美羽の前に膝をついて口をひらくと
「赤城山の狩人、篤史と申します
こちらに控えますは、赤城山までの護衛で宗次と申します。
我ら二名で赤城山までご案内致します。」
と、美羽に向かって言うと…
「うそ…宗次まで来てくれたの」
余りの嬉しさで美羽は小走りに篤史達へと駆け寄り
「篤史ぃ〜宗次ぃ〜」
と満面の笑みで二人の名を呼んだ
この数年を共に過ごした陰陽師達ですら見たことが無い笑顔で二人に駆け寄る美羽
篤史達も互いに目を合わせるとにっこりと微笑んで
「一緒に赤城山に帰ろう…美羽」
と、美羽に向かって二人で言うのだった。
こうして赤城山から遠く離れた京の都で三人は再会を果たしたのである。




