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妖刀「白波」

 『一つ、朝廷に妖刀「白波」を返上する事

  一つ、これまでの功績により“山上”の姓を授ける


 以後は山上宗則を名乗ることを許可するものとする。』



 姓を頂く、領地を貰う…これは武士として最高の誉れである。

 今回はその内の一つである“姓”を名乗ることを許可されたのだ。


 宗次とトヨは素直にこの事を喜んでいたのだが…


 『朝廷に妖刀「白波」を返上する事』

 宗則は頭では理解してたのだ、もう己が限界に近いと

 しかし、もう皆を守れなくなる事が宗則の心に悔いを残す。


 されど宗則は胸を張り、姿勢を正すと


 「御意」


 と、頭を下げた…


 そして、

 「して、後任はどなたに?」

 宗則は使者にもっともな事を聞く


 「その件なのだが、上野国府を守る者に兼任させる予定なのだが…

 和田のモノノフも不在ゆえに、ちと負担が大きく成るのだ…

 宗則、そなた良きモノノフに心当たりは無いか?

 そなたの口利きなら朝廷も動きやすかろう」


 国府のモノノフは強い、宗則より強力な妖刀を預かるモノノフで伊達に国府を守るモノノフでは無い

 しかし、使者の言う通り1人で赤城山と和田と国府を守るのは無理があるのだ

 和田は赤石郷や近隣の者が補佐するとしても、赤城山に赴く間は国府の守りが手薄に成るのだ。


 宗則は自分の記憶をたどり自分の代わりにふさわしいモノノフの名を探す…


 しかし、宗則が知るモノノフは全て宗則よりも格上のモノノフ…いわゆる有名人なのだ


 すると今まで大人しくしていた宗次が声を上げる

 

 「…俺が、俺が父ちゃんの後を継ぐよ」


 「宗次!?」

 モノノフと言う者がどんなに辛いものかを見てきたトヨは驚きの声を上げた


 「慎め宗次」

 宗則は使者の前で勝手に発言した宗次を叱責し黙らせると

 「使者殿、ご無礼をお許しください。」


 と、頭を下げた

 しかし、使者は宗次に興味を持つと宗則に問いただす。


 「宗則、その者は?」

 と、宗次を指す


 「はい、我が子“宗次”にございます。」

 嫌な予感がしながらも宗則は使者に答えた


 「ふむ…そなたが宗次か、

 野盗退治で数々の武勲を挙げ、先の野盗退治では首魁の首を取った赤城山の宗次とはそなたか…」


 使者はほんの少しだけ思案して宗次に告げる


 「宗次、そなた妖刀「白波」をここに持って来てみよ

 …宗則、よいな?」

 

 「御意」

 使者の言葉の意味を理解するのは宗則のみ…


 つまり、使者は宗次にモノノフの適性が有るかを判断する為に妖刀「白波」に触れさせる

 と言うことなのだ。


 適性が無い者が妖刀を持つと妖刀により“ケガレ”を受け、最悪は死んでしまう。

 故に宗則は妖刀をトヨにも触らせて居ないのだ。

 宗則は苦悩の表情で使者を見ると、使者は懐へと手を入れ宗則に目配せをした

 …恐らく護符の類を取り出し、最悪に備えるのだと宗則は理解し宗次が妖刀を運ぶのを促す


 何の事かわからぬまま、宗次は宗則の背後に飾るように置いてある妖刀「白波」の前に座ると手を伸ばす…


 初めて妖刀に触れる緊張が宗次の手を震わせていた

 宗次は震える手で妖刀「白波」を両手で持つ


 「…!!」

 宗則は無言で驚愕した…“何も起きない”つまり適性有り…なのだ。


 宗次は手の震えを必死に抑えると、使者の前に妖刀「白波」を置き


 「…ここに」


 と、言った。


 「おぉ…」

 使者は感嘆の声を漏らすと、改めて宗次に告げた


 「宗次とやら、抜いてみせよ」

 …と


 「…御意」

 

 妖刀は主を選ぶ

 宗則より格上のモノノフ…

 例えば妖刀「鬼切丸」の使い手で有ったとしても、妖刀は認めた者以外が抜こうとすると拒絶するのだ

 

 ただ、拒絶と言っても手が弾かれ少し怪我をする程度なので、力があるモノノフは強引に格下の妖刀を従える事は可能なのだ

 更に言えば弾かれた時の具合で妖刀との力量差が解るのだとか



 バチンッ!


 激しい音がし妖刀を抜こうとする宗次の手が弾かれた…

 「ぐぁ…つ」


 弾かれた手を押さえながら痛みに堪える。


 「…お戯れを」

 つい、宗則が苦言を口に出してしまうが使者は


 「許せ宗則、もしや…と、期待してしまったのだ

 …そなたもであろう?」

 使者は拒絶するのを知ってて放置した宗則が、使者と同じく宗次に一縷の望みをかけていた事を指摘する


 本来なら止めるべきだった

 しかし宗則も使者と同じく僅かに宗次に期待してしまったのだ

 宗次ならもしや「白波」を扱えるかもしれない事に…


 それでも宗次が「白波」に弾かれた時、宗次は手を失って無く、更にはさほどの怪我をしていないので「白波」と同格の妖刀なら扱えるのがわかった

 あるいは「白波」の主である宗則がまだ生きてる、そしてまだ戦えると「白波」が主張しているのか…



 使者は姿勢を正し、声に威厳を持たせながら


 「“朝廷の命である”

 山上宗則が子、宗次よ

 都に妖刀を受け取りに参れ


 そして赤城山を守るモノノフ

 山上宗則よ

 宗次が帰還するまで妖刀「白波」の返上を猶予するものとする。

 …よいな」

 

 都に妖刀を受け取りに来い

 これはモノノフの試練が終わった者に言われる言葉であった。

 使者は、宗次が野盗退治で上げた数々の武勲で既に試練を終えた者として認めたのだ。


 そして都で己の相棒とも言うべき妖刀を受け取りようやくモノノフと名乗れるのだった。

 

 宗次は使者から告げられた内容を理解すると


 「御意!」

 と、満面の笑みで頭を下げるのであった。


 「…うむ」

 使者は宗次の返事を聞くと懐から1枚の護符を取り出し宗則に差し出す


 「宗則、これを…

 安倍家の者が作った“ケガレ”を抑える護符だ、

 これならば宗次が帰還するまでは“ケガレ”を抑える事は出来よう

 …励めよ」


 そう言って使者は宗則の家を出て都へと帰って行った。


 宗則が「山上」の姓を名乗る事

 宗次が新たなモノノフとして都へと向かう事

 

 これらが村人達に知れ渡ると村はお祭り騒ぎとなり

 ただでさえ、宗次の旅支度や宗則が山上宗則となった事をこの地を治める武士に報告しに向かう準備等で忙しい宗則達を更に多忙にさせた。


 宗次は旅支度が済むと直ぐに都へと旅立って行った

 皆が笑顔で宗次を送り出す中、

 宗次を見送るトヨだけは複雑な表情で宗次を見ていた…


 「安心しろ宗次は俺達の子だ、大丈夫」


 宗則はトヨを抱き寄せると落ち着かせるように言うのであった。



         ◆


 都へと旅立った宗次が碓氷峠に入る頃…矢作達に榛名山から文が届く

 文は“湯守衆”達が使う独特な符丁で書かれており、内容が


 『陰陽師の本山から赤城山までの先導に篤史かエミを貸し出せ』

 と言うものであった。

 

 「篤史…これって、美羽よね?」

 文を読んだエミが驚きながらも篤史の顔を見た

 そう、美羽が陰陽師としての修行を終えて赤城山まで帰って来る

 その先導をエミか篤史がしなさいと言うことなのだ。 


 「俺が行っても良いか?」

 篤史はなにか思う事があるような雰囲気で矢作に尋ねると、矢作は無言で頷いた


 「今、宗次は碓氷峠あたりだから

 東山道を追いかければ追いつくわ、宗次と2人で京へ行って美羽を連れて帰って来なさいな。

 1人より3人の方が安全だから。」


 と、京の都へと旅立って行った宗次と大和国の美羽を連れて帰って来る事をエミが提案し


 「そのつもり」

 淡々と旅支度を始めながら篤史が答える


 旅支度を終え狩猟弓を背負うと篤史は宗次に追いつき美羽を迎えに行く為に山を下りて行った…

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