マリナちゃんとの再会3
マリナちゃんの意識は戻っていなかった。
その顔はとても安らかで、清らかで、美しかった。
「出来るだけの事はやってみた。でも、僕の力では無理かも知れない」
ナデットが、珍しく弱気になっていた。さすがのナデットでも、死者を蘇らせる事は出来ないのだろう。
「泉の水を飲ませてあげてくれ」
僕は言われたとおり、水筒の口を、彼女の口に持って行った。
「そうじゃない。それじゃ、水がこぼれるだけだ」
えっ? 僕には、意味が分からなかった。
「口移しで飲ませるんだ」
・・・・。少し、沈黙が流れた。
口移し。クチ・ウツシってなんだっけ?
にやけた顔で首をひねると、いつの間にか、ヒヨ子とベンジャミンが近くに立っていた。
ヒヨ子は、何も言わずにゴロンと横になった。ベンジャミンが上を向いて、何かを飲む仕草をした。
そして、ほっぺを膨らませて、そこに水がある事をほのめかす。
ベンジャミンが、ほっぺを膨らませたまま、ヒヨ子の顔を覗き込んだ。ヒヨ子が、つぶらな瞳を閉じる。
そして、口ばしを器用にチューの形に変形させた。ベンジャミンの目がギラリと光った。
ドーーン。
僕は、ベンジャミンの身体を吹っ飛ばした。ついでに、ヒヨ子の身体を蹴ると、ヒヨ子はコロコロと転がって行った。
コホン。
僕は、ちょっと咳払いをしてから、水筒の水を口に含んだ。
そして、マリナちゃんの口のところに、自分の口を持って行った。
美しい、憧れ続けたマリナちゃんの顔がそこにあった。
6月の雨の日だった。
ドラッグストアの角を曲がったところで、前を歩いているマリナちゃんの姿を見つけた。
ピンク色の傘。揺れる三つ編み。光り輝く横顔。
僕の胸がドキュンと音を立てた。
それからずっと、僕の心の中に、彼女が入り込んで住み続けた。
教室で、友達と楽しいそうに笑っている姿を見るだけで、幸せを感じた。
通りを歩いている時、角を曲がる度に、マリナちゃんと出会うを事を想像した。
ドラえもんのしずかちゃんは、マリナちゃんにしか見えなかった。
コホン。
ナデットが咳払いをした。
今はそんな事を考えている時ではない。僕は、幻を振り払った。
クニュッ。
僕は、親指と人差し指で、マリナちゃんの唇の両端を挟んだ。
マリナちゃんの唇が、アヒルのクチバシの様な形になった。
僕は、ゆっくりと自分の唇を近づけた。
そして、出来るだけ唇が触れないように、そおーーと・・。
グニューー。
ベンジャミンとヒヨ子が、僕の頭を押さえ付けた。
必然的に、僕の唇とマリナちゃんの唇が重なった。
グニューー。
柔らかいマシュマロの様な感触が、脳天を直撃した。軽い目まいに襲われた。
パチッ。
突然、マリナちゃんの瞳が開いた。
ワッ。
僕は、驚いて唇を離そうとした。
しかし、2匹の力は思ったよりも強かった。
「ギョメン、キョレニワ・・・」
唇が重なったままで、何を言っているのか分からなかった。
突然、頭が軽くなった。
振り向くと、2匹が逃げているのが見えた。視界の端のほうで、ナデットとロビンも駆けだしている。
僕とマリナちゃんの二人だけが残された。
「一之瀬くんだよね・・」
マリナちゃんの低い声がした。怒っている様な気がした。
「何やってたの?」
「いやーー、ムニョムニョ・・・」
「キスだよね」
「セ・イ・カ・ク・ニ・は、ちょっと・・」
「私の事、好きなの?」
「えっ、いやーー、あのーー」
「えーーー、一之瀬くんて、好きでもない子とキス出来るの? シンジランナーーい」
「いや、そんな事はないですよ」
「じゃあ、私の事、好きなの?」
「はい。タイヘン、おシタイしておりまして・・」
「責任とれる?」
「はっ?」
「これって私にとって、初めてのキスだからね。意味わかるよね?」
「も、もちろん。分かります」
「じゃあ、付き合ってよ」




