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夢想家タックンと妖精たちの森  作者: マーク・ランシット


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マリナちゃんとの再会2

 泉は直ぐに分かった。


  開けた草原の中央に、直径1メートルほどの穴がポッカリと口を開けていた。

 少し青味がかった清水が、コンコンと湧き出ている。


 妖精の姫が守り続けて来た泉。

 その水は、野菜や果物や花を元気に育てる。

 その水を飲んだ妖精たちは病気にならない。

 魔女が横取りした泉。


 羊から降りると、僕は右ひざをついて、その水を見つめた。

 どんな味がするんだろう?

 僕はそんな衝動に駆られて、右手ですくって飲んでみた。

 特に味はしなかった。でも、清々しさが口いっぱいに広がった。

 そして、何かのエネルギーが体中に満ちるのを感じた。


 僕は、マリナちゃんの事を思い出し、水筒の口を水に浸した。

 青みがかった液体が、水筒を満たした。


 立ち上がろうとした時だった。


 グサッ、とういう衝撃が左の肩を襲った。


 ウッ。

 激痛が脳天を直撃した。

 同時に、鮮血が泉の水に飛び散った。

 僕は、前かがみになって、泉の前に倒れ込んだ。

 泉の中に落ちるのを、右手で何とか持ち応えた。


 矢の打ち込まれた、肩越しに振り返ると、ダグラーが歩いて来るのが見えた。

 口元に不敵な笑みを浮かべている。


 何という痛みだろう。

 肩は火の様に熱く、脳みその中で、痛みのカタマリがズキン、ズキンと膨れては、縮まるのを繰り返している。


 ウワッ。

 熊の様な手が、矢の刺さった左肩を掴んだ。そして、鋼の様な力で引っ張った。


 ドサッ。

 僕は、仰向けなって地面に叩きつけられた。


 グエッ。

 左肩に食い込んでいた矢が、地面に押し付けられて、ボキリと折れた。

 その衝撃で、矢はさらに肩に食い込んだ。あまりの痛みに、気が遠くなりそうになった。


 ドン。

 太い毛むくじゃらの右足が、全体重で僕の左肩に圧し掛かった。


 ギャーーーーー。

 失神する一歩手前で、僕はそれを堪えた。

 ここまで耐えられるのは、あの水を飲んだお陰かも知れない。

 そんなアイデアが脳裏をかすめた。


 ググググーーッ。

 ギリ、ギリ、とダグラーは右足を捻じった。その顔には、恍惚の色が浮かんでいる。


 メーーーーエ。

 羊が体当たりしようと試みた。

 しかし、ダグラーの右手が、それよりも早く動く。羊は、固まった様に動かなくなった。

 こっち側の世界では、ダグラーは魔法が使えた。


 タックーーーン。

 羊に跨って、こちらに向かってくるロビン声がした。

 すると、ダグラーは再び右手をゆっくりと動かした。


「結界を敷いた。誰も邪魔は出来んぞ」

 ロビンは、結界に行く手を阻まれて、羊の手綱を思いっきり引いた。

 もう少しで、全力でぶつかるところだった。


 僕は、必死で体を動かそうとした。でも、ダグラーの足はビクともしなかった。

「一之瀬卓也。この結界の中では、ナデットの魔法は通用しない。今のお前は、ただの子供だ」


 ダグラーは、大きな舌をペロリと出した。その舌の先から、唾液がタラリとすべり落ちる。

 それは、僕の左の頬をべっとりと濡らした。野生の獣の匂いがした。


「おおーい、ダグラー、オレと勝負しろー」

 ロビンの声だった。


 ダグラーは、結界に阻まれているロビンの方を見た。

 ニヤリと笑って、ロビンに向かって右手の中指を突き立てた。


 その一瞬の隙に、僕は水筒の水をゴクゴクと飲んだ。

 理由は分からなかったけれど、身体が勝手に動いた。そして、残った水を、左肩の傷に注いだ。


 痛みが、マヒした様に小さくなった。

 お腹の真ん中に、小さくて、とても熱い、マグマの様な塊が生まれた。


「ちょうど観客も集まって来たな。ここら辺で、楽しいショーを見せてやろう」

 ダグラーは、腰の剣に手を伸ばした。


「うおおおおおーーーーーーっ」

 叫んだのは、僕だった。

 沸騰する様なエネルギーの高まりに、叫ばずにはいられなかった。 

 全身を、無限のエネルギーが満たして行く。


 グワシッ。

 肩を踏みつけていた、毛むくじゃらの足首を、僕の右手が掴んだ。


「グエッ」

 ダグラーの顔が、痛みでゆがんだ。

 岩の様に硬かったダグラーの足首が、いまではゴムボールの様に柔らかく感じられた。


 小枝くらいの細さまで握り締めると、僕は思いっきり横に捻った。


 ボギッ、骨の折れる、鈍い音がした。


「ギャーーー」

 泣き叫ぶダグラーの足首を、投げつけるようにして上にあげた。

 巨体が、背中からドーーンと倒れ込んだ。


 僕は、立ち上がると着物の泥を払った。

 左肩は、まだズキズキと痛んだ。しかし、耐えられない痛さでは無い。


 立場を逆転されたダグラーは、倒れ込んだまま、足を引き摺るように後ずさった。

 苦痛に歪んだ顔で、僕に魔法を掛けようとした。しかし、何も起こらなかった。


 くそっ、困惑と絶望の表情で怒鳴った。


 僕は無言で、近くに置いてあった弓と矢を手に取った。


 泉の水を飲んだ後、煮えたぎる様な怒りは収まっていた。

 しかし、この獣をそのままにしておくことは出来ないと思った。


 妖精に磨かれた矢は一本しかない。無駄には出来なかった。ダグラーは、剣を構えた。


 スーーっと、自然に弓を構えた。

 距離は5メートルほどだった。ダグラーの顔は恐怖で満たされ、大声で命乞いをしていた。


 しかし、不思議と何も聞こえず、何も感じなかった。敵だとすら思わなかった。


 ただ、この生き物は、存在してはいけないと思った。


 心臓を狙った。すると、ダグラーは剣でそこを抑えた。


 頭に狙いを変えた、すると、ダグラーは剣でそこを防いだ。


 心臓を狙うふりをしてから、すかさず、こめかみに矢を打ち込んだ。


 ズン。


 魔法が溶けて、羊がメーーエと泣いた。

 結界が破れたのか、ロビンの近寄ってくる足音が聞こえて来た。


 しかし、僕にはまだやるべき事が残っていた。

 カラになった水筒を、泉の水で満たした。そして、羊に跨るとナデットのもとに急いだ。

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