マリナちゃんとの再会
羊の腹を蹴ると、メーーっと、一鳴きして全力で走り出した。
さっき目を開けた瞬間から、僕の心臓の鼓動はマックスに達していた。
矢を射る為に、絶対に失敗しない為に、ずっと封印していた感情が、堰を切った様に溢れ出していた。
マリナちゃん、生きていて・・・。
羊は、80メートルの架橋を一気に駆け抜けていった。
メーーーーエ。
ちょうど、向こう岸に着いたところで、倒れていた敵の兵士が急に立ち上がろうとして、羊は足を取られた。
ドーーーン、僕と羊はラベンダーの畑に倒れ込んだ。
幸い、柔らかい草の絨毯の所為で、怪我はしなかった。羊も大丈夫の様だった。
森の入り口辺りでは、妖精側の兵士たちが、犬の化身達を蹴散らしていた。
ベンジャミンは、中国風の剣を巧みに使いこなしている。
ラグダーの姿は見えなかった。
前方では、少女を縛り付けていた木が倒され、ナデットがその傍らで、呪文の様なものを唱えていた。
焦っていた僕は、羊に乗らずに駆けだした。
ハアハアと息を切らして、ナデットの横に駆け寄った。
「意識が戻らない」
ナデットが、僕に背中を向けたまま言った。
少女は、眠った様に目を閉じている。
ハア、ハア、ハア。
僕は、膝に両手を当てて荒い息をした。
「確か、マリナちゃんと言ったよね」
ナデットが、聞いた。
「うん、桜木マリナ。今年の4月に転校して来たんだ。ハア、ハア。7月になって、病気で入院した。ハア、ハア。そしてそのまま、ハア、ハア・・」
「君の前から、姿を消したんだね」
「お母さんは、夏休みの間に引っ越したって言ってた」
「でも、噂では?」
「手術したけど、上手く行かなかった・・」
「君は、どっちを信じたんだ?」
・・・・。ウッ、ウッ。
僕の目から、涙が溢れだした。
「ラベンダーには、どんな思い出があるんだ?」
「お見舞いに行った時、病室にラベンダーの花が飾ってあったんだ。イイ匂いがしてた。彼女は、この花が大好きだって。でも、もうすぐこのお花枯れちゃうんだって、寂しそうに言ったんだ」
「それで?」
「新しい花を持って来て上げるって、約束したんだ。でも、色んなお花屋さんに行ったけど、どこにも売ってなかった。ラベンダーの切り花は、すぐに枯れてしまうから売ってないって。でも、僕は諦め切れなかった。そして、ついに園芸農園で鉢植えのラベンダーを見つけたんだ」
・・・。僕は、また泣きそうになった。
「僕は、それを持って病院に行ったんだ。でも、彼女はもう、そこにはいなかった」
「君には、何にも言わなかったんだね」
・・・・。
「分かった。何とかしてみよう。この水筒に、泉の水を汲んで来てくれないか」
「うん」
僕は、白い着物の袖で涙を拭った。羊が、傍らに立っていた。




