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夢想家タックンと妖精たちの森  作者: マーク・ランシット


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22/22

魔女との遭遇

「タクちゃん、電話だよ」


 わっ。

 翌朝、目覚めると、すぐそばにおばあちゃんの顔があった。


 コードレスの電話器を置くと、おばあちゃんはすぐに出て行った。


「タクヤ、あんた大丈夫ーー?」

 お母さんの声だった。


「寝ションベン垂れたんだってーー? なにやってんのよ。ジュース飲み過ぎじゃないの? 家でヤッタラ、ただじゃおかないからねーー」

 現実が戻って来た。キビシーーい、現実が。


「タクヤさ、マリナちゃんて覚えてる?」

 突然の質問に、僕の心臓がドクンと鳴った。


「う、うん」


「あんた、マリナちゃんのこと好きだったよねー」

 何という大胆な発言。

 そういうデリケートな質問は、心の準備が出来てから聞いて欲しかった。

 あんた、ストレートボールしか投げれないの?

 

「昨日ね、マリナちゃんから絵葉書来たよ。来週、東京に遊びに来るんだってさ」


「な、なんで?」


「なんでって、なによ。マリナちゃん、お父さんの仕事の都合で、北海道に転校しちゃったでしょ。だけど、こっちにおじいちゃんとおばあちゃんがいるから、遊びに来るのよ。当たり前じゃん」


「じゃ、転校したって、本当だったの」


「あんた、宮崎行って、ボケちゃったんじゃないの? そっちは、暑いからねー。今日、帰って来たら、思いっきりネジ絞め直してあげるからね」


 いつもなら恐怖に震えあがるお母さんの脅し文句も、ゼンゼン効果がなかった。


 僕の頭に、昨日の夜のラベンダー畑での出来事が蘇った。

 あのマシュマロの様な唇。

 付き合ってよと言った、マリナちゃんの真剣なまなざし。

 もしかしたら、来週、それが現実になるのかもしれない。


「おじいちゃんとおばあちゃんには、ありがとうございましたって、ちゃんと言っといてよーー。じゃーねー、バイバーイ」

 ガチャ。


 朝ごはんが終わると、お母さんに言われた通りに、おじいちゃんとおばあちゃんに、ありがとうを言った。

 二人は、僕の頭をなでながら、またおいでと笑った。


「うん。僕、またきっと来るからね」

 来る前は少し憂鬱だった事が、まるで嘘の様に思えた。


「じゃ、行くぞ」

 お父さんが言った。


「ちょっと、待ってて」

 お父さんにそう言って、僕はあの部屋に向かった。

 ナデットにも、もう一度お別れを言っておきたかったからだ。


 ナデットは、いつもの様にスマシタ顔で壁にもたれかかっていた。


「ナデット、きっとまた来るからね」

 もしかしたら、何か言ってくれるかと期待したけど、まったく動く気配は無かった。


「その子は、ナデットっていうのかい?」

 知らない間に、おばあちゃんが立っていた。


「うん。そうだよ」

 僕は、自慢げに言った。そして、言い出せなかった事を、話そうと決心した。


「これは、二人だけの秘密だよ」

 僕は、人差し指を口の前に立てて、言った。


「おや、どんな、秘密かね」

 おばあちゃんは屈んで、僕と同じ目線に合わせてくれた。


 優しいくほほ笑んでいたけど、目だけが笑っていなかった。


 僕は、少し後ずさりした。

 初めてこの部屋に入った時と同じ、違和感を感じた。うるさかった、蝉の声が止んでいた。


 警告。ケイコクってなんだっけ? 


 何故か、これから言おうとしていることに、とても不安を覚えた。


「お、おばあちゃんは、ネコだって言ってたけど、ナデットはネコじゃなくて、ホンとはトラなんだよ」


 ほーーォ。

 おばあちゃんはそう言ったきり、口をつぐんだ。


 やがて顔から笑みが消え、何かを考えている様に小さく首を傾けた。

 目は、次第大きく開かれ、ギロリと僕を睨んだ。


 ゴクッ。

 僕の全身から、アブラ汗が噴き出して来た。


 ウイーーーン。

 居たたまれなくなったように、僕のコンピュータが動き始める。


 ガッ、グギギッ、ガッ、ゴッ....。


 チー&&ー*%ーン。

 おばあ*&・ち#ゃん・##もし**か・Sh&タ*$ラ%%・?ま?・じ・y・ォ??


 グシャ。

 コンピュータの壊れる音がした。


「わっ?」

 おばあちゃんの顔が、目と鼻の先にあった。


 目が吊り上がり、口が大きく裂けている。


「そんなこと初めから知っとたよ。あの子は、ワシの弟子じゃからね・・・」


「・・・・・」

 恐怖で、声が出ない。


 ボトッ、ボトッ。


 突然、天井から黒いものが落ちて来た。


 足元を見ると、毒蜘蛛のタランチュラだった。

 落ちた瞬間は、止まっていたのに、ゆっくりと僕の方に向かって歩き出す。


 ボトッ。


 背中に一匹が、引っ掛かった。ゴソッ。

 僕の首に向かって這い上がって来る。


 ギャーーーー。


 オ・シッコ・モ・レ・タ・カモ?


 気が付くと、僕はお父さんの背中の上で、日豊本線の電車から降りるところだった。

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