表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢想家タックンと妖精たちの森  作者: マーク・ランシット


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/22

決戦前夜

 翌日、弓道場に着くと、田中先生ではない女の人が待っていた。


「田中さんは、どうかされたんですか?」

 お父さんが、心配そうに聞いた。

「気分がスグレないらしくて・・・」 


(チャンネル秩父のこと、調べたのかな?)

 なんとなく、そんな気がした。


 お父さんは、その女の人に促されてお金を支払った。受付の人も、今日はそっけなく見えた。


 女の先生に連れられて弓道場に入ると、黒い着物に灰色の袴を着た岩見沢先生が待っていた。頭はツルツルで、口の周りは白い髭で覆われている。着物の左側を脱いでいるので、肩と胸が見えていた。襟元の白が、気品を漂わせている。


 一見すると穏やかな表情だけど、目は鋭く、そこはかとない威圧感を漂わせていた。それは、校長先生にも、サッカークラブの監督にも感じたことのない、別次元の感覚だった。


 神聖。シンセイってなんだっけ?


「田中君から卓也君の事は聞いています。想像を絶するスピードで上達しているとか・・。」

 岩見沢老人は、一見、優しい表情で僕の事を見た。

 不思議なことに、全てを見透かされた様な気持ちになった。


「田中君がお休みということもあるので、今日は私が直接指導をします。弓道の道は永遠です。私もまだ道の半ばですが、まずは模範をお見せしましょう」


「よろしくお願い致します」

 僕の口が、勝手に動いた。自動的に頭が下がる。


 師匠と弟子。武道ならではのピーーンとした緊張感が、場内を支配した。


 女の先生が、良く見える場所へと誘った。お父さんは、入り口の近くに立っている。硬い木のフローリングの上に、僕はきちっと正座した。背筋がピーーンと伸びる。


 遠的えんてき。距離60メートル。的は100cm。


 道場には、老師と僕とお父さんと女先生。静寂が辺りを包んでいる。


 摺り足で、老師が中央に進んで行く。左手には竹弓、右手には2本の矢。

 完璧な所作、緊張感はあるのに、力みは感じられない。


 カシャ、カシャ、カシャ。

 瞳孔からの映像が、僕の記憶バンクに収められて行く。

 射法八節しゃほうはっせつ。足踏み、胴造り、弓構え、打起こし、引分け、会、離れ、残心。


 目を閉じると、眼球が高速で動き、肩や、腕や、手や、指が、それらの一節、一節をバーチャルで再現し、シミレーションして行く。


 その都度、肩や、腕や、手や、指や、弦の触れる腹や、矢の触れる頬に感触が残った。


 パーーン。

 矢が的を打ち抜く音までが、鮮明に記憶に移されていった。


 その夜、夕食が終わっても、だれも話をしなかった。

 テレビでは、着物を着た女の人が首を回しながら唸っている。

 司会の人が、新曲だと叫んでたけど、前から知っている曲の様な気がした。おじいちゃんとお父さんは、魔女との対決の事を考えているのだろう。見るとも無しに、無言で焼酎を飲んでいた。


 そんな事など知らない筈のおばあちゃんが、この夜に限っては、しっかりと周りの空気を読んでいた。


沙織さおりの部屋に、こんなもんが残っとったわ」 

 沙織とは、お父さんの妹の名前だ。白い着物と黒い袴。子供用の弓道衣だった。


「そう言えば、沙織は弓道やってたよね」

 お父さんが、懐かしそうに言った。


「タクちゃん。ちょっと着て見るかい」

 おばあちゃんの手を借りて、僕はその弓道衣に袖を通した。


「おー、なかなかの男振りじゃな」

 おじいちゃんが、感心した顔で言った。


「あと、こんなもんもあったけどね」

 それは、車のダッシュボードの中の写真で、おじいちゃんがしていた、日の丸のついた鉢巻だった。

 日の丸の両側に、特攻とっこうの文字が輝いている。


 突然、おじいちゃんがテレビの音量を上げた。そして、女の人と同じ様に首を回して唸り始めた。

 誰が聞いても、おじいちゃんのキーは、かなり外れていた。


 ・・・・。しばらくの間、会話が途切れた。


 居たたまれなくなった僕は、みんなにお休みを告げた。


 いよいよ、決戦の時が迫っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ