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夢想家タックンと妖精たちの森  作者: マーク・ランシット


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16/22

ダグラーの襲撃

 その夜。

 夢の中で、僕は妖精たちの森の中にいた。


 30メートルほど離れたところに、木があった。

 その木にはウサギの妖精、ベンジャミンが括りつけられている。そして、彼の頭の上には30センチの的。


 スパーン。

 僕の放った矢が、その的の中央に突き刺さった。


「ズゲーー・・」

 僕のすぐ横にいるヒヨ子の野太い歓声があがった。


 ベンジャミンの目が、手裏剣の十文字に変わった。彼が驚いた時の表情である。


「タックンはんは、たった一日でこんなにウモーなりはったんどすなー。うち惚れてしまいますドスエー」

 ヒヨ子が、クネクネと近寄って来る。


 ブサッ。

 僕は、弓の下の方でヒヨ子のお腹を押した。


 あーれー-。

 ヒヨ子は重心を崩して、数回転がった。


「僕の集中の邪魔をするな。ベンジャミンの頭を打ち抜いてもいいのか?」


「ベンちゃんは、ああ見えて不死身なんドスエー。なんならいっぺん、頭を狙ってクダサンショー」

「なんじゃ、そのクダサンショーって?」

「オクンナマシーの事で、おじゃるよ」

 なんだ、そのオクンナマシーって?


「あー、うるさい」

 怒った僕は、1メートルの距離にいるヒヨ子の頭に狙いを定めた。


 ギョッ。

 ヒヨ子は黒目だけの瞳を、3倍に膨らませてフリーズした。


「ベンジャミンが不死身なら、ヒヨ子も同じじゃないのか?」

 

 僕の質問に、ヒヨ子はどこにあるのか分からない首を右側に捻った。

 通常の3倍の大きさになった黒目が、額の中央部に向かって移動していく。

 どこから引っ張り出して来たのか、羽毛だらけの額の中央に、困った時に出来るシワが浮き上がって来た。


「ワチキニハ、分からんことでオジャリますドスエー」


 自分の命が掛かっているというのに、なんという大胆不敵さ。

 あっぱれという思いと同時に、僕はいっぺん試して見たい衝動に駆られた。

 しかし、例え夢の中とはいえ、友達のヒヨ子を打ち抜くなんて出来なかった。


 その時だった。

 

 グサッ。

 まさにヒヨ子の脳天に一本の矢が突き刺さった。

 

 いでー--!

 ヒヨ子はそう叫んで、地面にゴロンと倒れ込んだ。

 赤い血が噴出し、ヒヨ子の白い額を流れ落ちていく。


「誰だ?」

 僕は、矢の飛んで来た方向を向いた。

 40メートル程向こうに、毛むくじゃらの野獣がいた。丁度、弓を弾き終わった姿勢をしていた。

 狼の凶暴な顔。血走った目。牙の間から垂れ下がった長い舌。

 不思議な事に、橋すらない渓谷の空間の上に立っている。

 

「ダグラー・・?」


「一ノ瀬卓也。ロビンの吹かせた風に助けられたな。次はお前の脳天をぶち抜いてやる」

 ダグラーは、素早く次の矢を引き抜き、射的の姿勢をとった。


 しゅるるるー-。

 鋭い矢が、僕の頬をかすめた。

 ダグラーの射程能力は30メートル。40メートル先からではやはり精度は落ちる。


「タックン、撃ち殺せ」

 ロビンの声がした。


 僕は、言われるがままに、矢を放った。

 

 ぐさっ。

 胴を狙った矢はわずかに外れ、ダグラーの右の太ももを貫いた。


 グエッ。

 ダグラーの毛むくじゃらの足から鮮血が噴出した。

 歪む顔。たった一日で、これほどの腕に・・・。

 勝ち目がないと、犬の背中に跨る。

 逃げ出す、ダグラー。


 一ノ瀬卓也から50メートル離れたところで、ヒュルヒュルと自分を追いかけて来る矢の風切り音。 


 グエッ。

 左の脇腹に突き刺さる矢。


 一ノ瀬卓也から60メートル離れたところで、ヒュルヒュルと自分を追いかけて来る矢の風切り音。 


 グエッ。

 左の肩に突き刺さる矢。


 恐怖に引き攣るダグラーの顔。


 一ノ瀬卓也から70メートル離れたところで、ヒュルヒュルと自分を追いかけて来る矢の風切り音。


 キャイイイイーーーン。

 乗っている犬の後ろ脚に突き刺さる矢。


 ぐあー-。

 霧に包まれた空間に放り出されるダグラー。


 別の犬に跨るダグラー。

 もう追って来る矢は無かった。


「70メートルか。もう一歩だね」

 いつの間にか横に立っていたナデットが言った。


「こっちの森には来れない筈だよね」

「魔女の企みだろう。君を動揺させる為にダグラーに狙わせたんだろう」


 僕はラベンダーの草原をヨタヨタと逃げていくダグラーの姿を見つめていた。

「結果的には、動揺したのはあっちの方だったけどね・・」


 僕は、ハッと我に返って後ろを振り返った。

 ヒヨ子は依然として、地面に転がっていた。


 ヒヨ子の方に歩き出そうとする僕に、ナデットが言った。

「放っておいて大丈夫だよ。いい気持ちで眠っているだけだから・・」


 やっぱり、ヒヨ子は不死身だったんだ。と僕は感心した。

 

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