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夢想家タックンと妖精たちの森  作者: マーク・ランシット


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12/22

おじいちゃんは弓師

「タクちゃん。もう起きなさい」

 目を開けると、おばあちゃんの笑顔があった。


「もう、朝なの?」

「お父さんも、おじいちゃんも、タクくんのこと待ってるわよ。早く、顔を洗って来なさい」


 おばあちゃんは、そう言うとドアを閉めて出て行った。

 僕は、机の上のナデットを見た。昨日の夜の事など、無かった様な顔をしている。


 よしっ。僕は、ベッドから起き上がった。僕に残された時間は、あと3日。3日後の夜には、魔女との対決が待っている。兎に角、動き出すしかなかった。


「おじいちゃん。ボク、弓が習いたい」

 ご飯を食べ終わった後、お茶を飲んでいたおじいちゃんに言った。


 言い忘れてたけど、おじいちゃんは弓を作っているんだ。

 都城大弓みやこのじょう・だいきゅうっていう、有名な弓らしいよ。家の裏には大きな竹林があって、そこの竹を使って作るんだ。


「ほおか」

 おじいちゃんは、僕の顔を見たあと、お父さんの顔を見た。

 お父さんは、手を横に振って、自分が勧めたんじゃないと言った。


「卓也は、自分で弓を習いたいと思ったのか」

「うん。どうしても、80メートル先の的に当てなきゃいけないんだ」


「80メーターか。それは、驚いたな」

 おじいちゃんが、楽しそうに笑った。


「80メートルって、もともと弓じゃ、届かないんじゃないかな?」

 お父さんが、おじいちゃんを見ながら言った。


「何をいってるんだ、弓道家が大弓を使えば、400メーター以上飛ばせる」

「えっ、弓ってそんなに飛ばせるの」

 お父さんが、心底驚いた声を上げた。


「弓師のセガレが、何を驚いちょるんじゃ。もっと勉強せい」

 おじいちゃんは、お父さんを叱ると、僕には優しい視線を向けた。


「いつまでの、宿題なんだ?」

「3日後」

 ほおーーっ、とおじいちゃんは笑った。そして、手のひらでオデコをパチンと叩いた。


「それは、参ったな。魔法でも使わん限り、3日じゃむりだぞ。テレビゲームじゃないんだから、チョコチョコって練習したからって、出来る訳じゃない。第一、卓也にそんな覚悟は有るのか?」


「うん。命に代えても」

 ガッチャーーン。

 台所で、茶碗の割れる音がした。


「卓也、ちょっと付いて来なさい」

 おじいちゃんに言われて、僕とお父さんは、その後に従った。


 おじいちゃんの作業場は、家の離れにあった。

 教室くらいの広さだった。一面が板の間で、奥には、竹製の弓が立て掛けられていた」


「ちょっと、手を出してみな」

 僕は、言われたとおりに手を出した。


「ほお、案外と大きな、しっかりした手をしてるんじゃな」

 そう、言いながら、僕の手の平のいろんなところを触った。


「身長は、140センチか、思っていたより大きいな。今度はちょっと、手を広げてみてくれ。顔は横をむいて...、指は伸ばして...」

 すべてが終わると、おじいちゃんはノートに色々な数字を書き込んだ。


「よし、弓は、三寸詰さんすうづめで大丈夫だな。卓也、そこの一番端の弓を持って来なさい」

 僕は、壁に並んでいる弓の中から、言われた弓を取り出した。想像していたより、大きかった。


「弓をこう持って、弦を引いてごらん」

 僕は、言われたとおりに、弦を引っ張った。


 うっ、重い。

 じゃあ、今度は隣の奴だ。どうだ。

 た、たぶん、大丈夫。

 そうか、それじゃ。左手の握ってるところを見せてごらん。


 おじいちゃんは、うん、うんと頷きながら、指の関節の状態とかを確認した。

 もう一度、こんなふうに握ってみてくれ。


 そうだ。しっかりと、力が入るか?

 うん。大丈夫。


「弓と矢は、おじいちゃんが手配する。2日だけ待ってくれ。それまでは、弓道場の道具を借りて練習しなさい。隆、オレの知り合いの先生が...」


「あのーー」

 僕は、おじいちゃんの言葉を遮った。


「あの大きな弓に触ってもいい?」

 おじいちゃんは、僕の指さした方を振り返って怪訝な顔をした。


「もちろん構わんが、あれは七尺七寸(233㎝)で、卓也の背丈では使い切れんぞ」

 僕は、その大きな弓を手に取ると、さっきやったみたいに、その弦を引いてみた。


「うっ、うっ・・・。重い・・・」

 弓は硬く、弦はまるで針金の様に感じた。


「そりゃ、無理だ。弦のつよさが23キロもある。今の卓也には、10キロがせいぜいじゃな」

 おじいちゃんが、無茶するなという感じで、首を振った。


「卓也、危ないから、もうよしなさい」

 大きな弓にふらついていた僕から、お父さんが弓を取り上げた。


「おじいちゃん。ちょっと、聞いてくれる?」

「なんだ?」


 僕は、覚悟を決めた。魔女の決めた結婚式は、まじかに迫っている。

 大人に今起こっていることを話しても、分かってくれるハズはない。でも、遠回りしている時間は無かった。

 だから、正直にすべてを話すことにした。彼女を救い出せるか、出せないか、僕には分からない。

 でも、どちらにしても、やり遂げなければならない。


 出来るだけ丁寧に、自分に起こった事を説明した。ナデットやロビンや、他の妖精たちのこと。

 そしてあの魔女やダグラーや妖精のお姫様の事も・・。


「こりゃあ、たまげたなーー」

 おじいちゃんは、ドオッと床の上に座り込んだ。お父さんは、何かを考える様に突っ立ったままだ。


 あれっ、と僕は思った。

 僕は、二人が笑い出すだろうと予想していた。そうなったとしても、なんとか二人を説得しようと、覚悟していた。


 戸惑っている僕に、おじいちゃんが言った。


「昨日から、周りがザワツイとると思っとったんじゃが、ナデットはもう動き回っとったのか?」

「えっ、おじいちゃんは、ナデットのこと、知ってたの?」

 僕とお父さんが、同時に声をあげた。


「ここだけの話じゃが、ナデットの名づけ親は、ワシなんじゃよ」

 おじいちゃんが、思いがけないことを言った。


「ばあちゃんには、内緒だぞ。3人の秘密じゃ。分かったな」

「は、はい」

 お父さんと僕の声が重なった。見ると、お父さんの顔もビックリ顔になっている。


 いつの間にか、3人はおじいちゃんを囲むように座っていた。


「卓也の話は全て信じる。卓也と妖精の姫の関係は、ここでは不問じゃ」

 僕は、ドキリとした。おじいちゃんには、すべてが見抜かれている。


「おいっ」

 お父さんが、眉をひそめて、僕の顔を見た。僕は、首を振って、チガウって顔をした。

 お父さんは分かったって顔で、頷いた。


(お父さん、オヌシはまだ若いのう・・・)

 僕は、心の中で、そう思った。


「卓也の考えている通り、ワシが子供用の弓や道具を揃えても、あの世界には持っては行けない。むしろ、イメージの方が大事じゃ」

「僕もそう思います」

 お父さんが言った。恐らく、お父さんも、あの世界の経験があるのだろう。


「相手が凶暴なオオカミなら、卓也もあの世界では、成長した卓也のイメージで闘う方が得策だ。それには、あの大弓の方が良いだろう」


「あのー-、戦闘服のイメー・・・は?」

 言いかけた、お父さんの言葉を、おじいちゃんは無視して続けた。


「あとは、実射のイメージを作る必要がある。今から、ワシの知り合いの先生に電話で頼んで見る。確か、早水公園の弓道場にいらっしゃる筈だ。隆、そこに連れてってやれ」


「あのー-っ、闘う時の服装も・・・」


「ああっ、岩見沢先生でいらっしゃいますか。大変ご無沙汰しております。一之瀬でございます」

おじいちゃんは、電話をしながら、右手でお父さんに、早く出発しろとけしかけた。


「戦闘服については、後で考えるか」

 お父さんは、残念そうに言った

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