出現-01
VIPルームのドアが開かれる。
先ほどまでランと共に居た女性は、特に乱れた様子も無い衣服を少しだけ正しながら部屋を出て、目の前にいる少女と視線を合わせる。
「ランはそんなに、果てるのが早い女ではありませんよ」
開かれた扉の前で、壁に背を置いていたシャルロット。
部屋から出て来た女性は、彼女を見ながら、フフと笑みを浮かべる。
「なに貴女。聞いていたの?」
「一応護衛なので。所で、ランはどうなされました?」
「自分で確認したらどうかしら。私、もう行くわね」
「お待ちになって。その前にこのパーティの招待状をお出しなさいな」
「部屋にあるのよ。取って来るわ」
「いいえ、必要有りません――なにせ貴女は招かれざる客人、でしょう?」
VIPルームのドアを無造作に開く。
ランは、キングサイズのベッドで腹部からドクドクと血を流しながら、倒れていた。
死んでいるのか、気を失っているだけなのか、それは定かではない。
「私は、シャルロット・サール・クラージュ。――名を名乗りなさい」
「サニス――アリメントだ」
突如、船全体が揺れた。乗客の慌てる様な声と共に、船内アナウンスによる『只今強い揺れが観測されております』と警告がなされている。
シャルロットは予め装備していた両手中指のアルターシステム同士を繋ぎ合わせ、手首を捻る。
「変身」
短く言い放ち、アルターシステムより浮かび上がる梵字。自身の肉体を包む光を無視しつつ、サニスと名乗った女性へ、走る。
サニスは駆け寄ってくるシャルロットに向け右の拳を突き出すが、その軌道を呼んでいたシャルロットが手首を掴みつつ、脇に手首を抱える。
変身が完了する。着込まれた修道着、手に持たれるハンドガン。
そんなシャルロット――否、プリステス・サール・クラージュを見据えながら、女性は尚も笑みを崩さない。
「プリステス。私なんかの相手をしていていいのか?」
「今の揺れは、何」
「君のお仲間ならばわかるんじゃないかな」
左の掌底をサール・クラージュの顎へ向けて放つサニス、身体全体を思わず動かし、姿勢を崩した彼女の隙を見計らい、脇に抱えられた腕を無理矢理引き抜き、そのまま接近戦を仕掛ける。
拳、蹴り、肘打ち、膝蹴り、肉体同士の戦闘が繰り広げられている。
サニスの身体能力は、アルターシステムによって身体能力を底上げされているサール・クラージュと相対しても同等でありそうだ。
「アリメントと申しましたね」
「聞いているかな。エネミーのメス種だと思えばいい」
「エネミーのメス種――つまり貴女は、エネミーに蹂躙され続けて来た者だと?」
「その通り」
サール・クラージュの引き抜いたコンバットナイフがサニスの来ているドレスを切り裂いた所で、サニスは数メートル分距離を取るも、サール・クラージュへ、当たる筈の無い手刀を上段から振り切った。
何をしたのか、サール・クラージュには分からなかった。
しかし『何かある』と思ったからこそ、振り切られる手刀の射線上から逸れるように、飛び跳ねた。
手刀より放たれる、熱の塊のようなモノ。
それは皆が立つ床を焼き、切れ目を付けた。
「レーザー……!?」
「そうとも。連発は出来ないがね」
今、二人の間に空いた距離は、十五メートル弱。サール・クラージュはその差を埋める為に走り出そうとしたが――
そこで、眼前に何かが舞い降りた。
ガゴンと音を奏でながら、目の前に現れた銀の鎧。
否、鎧ではない、ロボットだ。
「これは――!」
「ヴァンパイアの血を用いて稼働する自立機動兵器【エルス】さ。昔シェリルが作ってくれたものを量産したんだ。可愛がってやってくれ」
秋山志木に予め見せられていた人型兵器だ。
チッ、と舌打ちをしながらコンバットナイフを放棄し、ホルスターに装備されていたハンドガンを取り出し、後ろに下がりながらも二発、発砲。
銃弾は堅牢な装甲に当たるも跳弾。
ロボット――エルスは、大きく腕部を振り上げて、距離等の確認を短く行った後、それを下す。
しかし、それを受け止めたのは、サール・クラージュでは無い。
菊谷荘司の、太い左腕だ。
「、っ――痛ぇなッ!!」
反撃と言わんばかりに、右腕を振り込んで、エルスの腹部へと叩き込んだ荘司の拳。
エルスはその巨体にも関わらず、十メートル程吹き飛ばされた後、火花を散らして爆散していく。
「変身も無しに。化け物ですか貴方は」
「変身すると、腕力は却って弱くなるからな」
大広間へ振り返る二者。
既にエルスの巨体が三機、大広間にて猛威を振るっている。
乗客船員お構い無しと言わんばかりに、その腕部を、脚部を動かしている。
そんな中、無力な乗客船員の避難誘導を行っている秋山志木が「こっちも頼む!」と手を振りながら大声を上げ、エルスに向けて備えていた9㎜拳銃の引き金を引いている光景が見えたので、荘司も右手中指に装着していたアルターシステムを撫でる。
「変身」
左掌へアルターシステムを押し付ける。端たれる光、包まれる身体、変身を成すアルタネイティブ・ブルー。
ブルーとサール・クラージュは視線を僅かに合わせると、そのまま一番遠く、避難誘導を行っている志木に一番近いエルスと、一番近くのエルスと、それぞれへ駆けていく。
目が追いつかぬ音速で駆けたブルー。
今にも志木へ腕を振り下ろそうとしていたエルスの頭部に左脚部の踵落としを叩き込んだブルーは、そのままアルターシステムを右脚部へかざす。
〈Alter・kick〉
機械音声と共に速度を得て、踵落としを叩き込んだばかりのエルスへ、右脚部の力強い一撃を見舞う。
べコリと凹んだ頭部、散る火花、志木の身体を抱きかかえた後、僅かに距離を取る。
爆散していくエルスの一体、破片などから志木を守れた事を確認したブルーは、視線を残る二機に向ける。
だが、既に決着はつきかけていた。
先ほど二手に分かれたサール・クラージュは、いつの間にかアサルトライフルのグリップを握りながらエルスへと駆け、振り下ろされた腕部を躱した後、腕伝いで肩に足をかけ、頭部と首部に僅かながら存在する装甲と装甲の隙間へ銃口を押し込み、銃弾を撃ち込んだ。
ブツン、と何かが切れた音と共に、動かなくなるエルス。
しかし停止すると自動的に爆発する仕組みであったか、サール・クラージュが肩を蹴って宙を待っている間に、爆散し、破片だけを残して消えていく。
残り一体のエルスと相対する人間は、豊穣志斎だ。
彼は今まさにアルターシステムを両手中指に装着し、宝石部同士を合致させた後、手首を捻る様にしてアルターシステムを稼働させる。
〈Alter・ON〉
「変身」
〈HENSHIN〉
エルスより振り込まれる右腕の一撃。
しかし志斎――否、既にアルタネイティブ・セイントへと変身を遂げていた彼女は、振り込まれる腕部を片手で受け止めると、そのまま無理矢理引っ張り、エルスの肩部関節から腕部をもぎ取った。
バチリ、と僅かに電流を流しつつ、壊されていくエルス。
しかしまだ動作は止まらない。
残っている左腕部を振り下ろすも、それは左脚を軸にした右脚部の振り込みで応戦、エルスの左腕部も蹴り飛ばされ、残る両脚部も放たれた拳の二連撃により、叩き壊され、動けなくなっていた。
一か所に集まりながら、周りを警戒する三人のアルタネイティブとプリステス。
「これらは、一体どこから」
「上の階からだ。とは言っても上は甲板だが」
「それよりサール・クラージュ。先ほど人間と大立ち回りをしていたように見えたが」
「エネミーのメス種、アリメントと名乗っていました。それが、このロボット兵器の事を【エルス】と言っておりましたね」
「エルス――ね」
すぐに志木も駆け寄って来る。耳元の無線通信機に声を吹きかけながらではあるが、三人の元へ辿り付くまでには通信を終えていた。
「艦内の全か所を調べたが、エルスは君たちが倒しただけで終了の様だ。どうやら空から降ってきたらしい」
「あらあら、何とも嬉しくないサプライズだ事」
「そうだな」
「サール・クラージュ。こちらのフィオナは先ほどエルスとやらに叩き潰されて死んだが、そっちのランは」
「ああ、そうでした」
急ぎ、ランの部屋まで出向いた後、彼女の容態を確認する。
腹を裂かれたようではあるが、致命傷は何とか避けている。勿論放ってはおけないが、すぐに命の危険はないだろう。
しかし、そこでサール・クラージュは気が付いた。
ランが、いつも肌身離さず装着している筈の、フランス式アルターシステムが、その両手中指に、装着されていない事を。




