会合-03
と。そこで話し合いの終わった三人が、パーティの体裁を保つためにその場を離れた。
フィオナは志斎を呼び、志木は荘司の元へ。シャルロットは一人でフラフラと歩いていくランを護衛する為、そちらへと向かった。
「やぁ荘司君。楽しんでるかな」
「あいつ等しか話し相手いないから居心地悪いよ」
「それもそうか」
胸ポケットから禁煙用パイポを取り出した志木が「どの程度まで認識してくれたかな」と問いかけたので「口喧嘩でアンタが勝った事くらい」と答える。
「ま、そうだねぇ。ひとまず君たちを除いた五人の扱いはこちらに持ち込めた。いざって時は何とかなる」
「いざって時、ね。例えばヴァンプのガキとか炎武の女とか、あの辺を懐柔できるってか?」
「懐柔の必要なんか無い。君たちアルタネイティブは己が信念を貫けばいい。責任を取るのが私の仕事さ。ま、有耶無耶に出来ればするが」
「――アンタ」
「うん?」
「大人だったんだな」
「はは。そうだね、汚い大人だ。しかしまぁ、これでも心がけている事があるんだよ」
「何を?」
「子供と接する時位は、子供達と同じ立場に立とうとしている事だよ」
ウインクを一つ。荘司は身長差から今まで彼の表情を良く見ていた事は無かったが、しかし今日ようやく、彼の心を少しだが知れた気がして、笑みを浮かべた。
「志斎、聞いていたな」
「ああ」
フィオナは、他の乗船者とすれ違う度に笑みを浮かべながらも、隣を歩く志斎に対しては、高圧的に接するし、志斎もそれを咎める事もせず、言葉遣いも上司に対するそれでは無い。
「ひとまず君たち二人は情報を待ちたまえ。あの蛇の口車に乗る必要は無い。我々はヴァンパイアの相手だけをしていればそれでいい」
「血はどの経路から密輸されていた」
「その情報も必要ならば追って連絡する。これでも私は穏便な方なのだぞ。本来は裏切者であるお前を、こうして護衛に任命しているほどだ、信用しろ」
「貴様を信用する理由は無い」
「志斎、貴様……っ」
「八つ当たりをしないで貰いたいな。己はただ貴様を護衛せよと言われているだけで、貴様の言葉全てに同意せよとは命じられていない。それに、穏健派とも繋がりを絶っている」
「いいのか? 貴様やヴァンプに情報を流さず、見殺しにするという方法もあるのだぞ。
どうせ量産型アルターシステムの生産ラインは整いつつある。貴様ら二人が情報不足で死んだ所で、我々は痛くもかゆくも無い」
「好きにしろ――我々も、四六から貴様らの情報を得られる様に動く事も出来る。あの秋山志木が持つ情報網は非常に優秀だと、貴様が証明してくれたからな」
「チ……ッ」
面白くない、そう言いたげな表情で舌打ちを溢し、ワインを取ったフィオナより離れた志斎は、ランの同行を見据えた。
ランも、僅かに苛立ちの表情を浮かべながらも、シャルロットの肩へ手を回し、甘い言葉を連ねていた。
「どうだったかな、大人のお話は。聞いていたのだろう」
「ミス・ランってば、秋山志木様にからかわれておりましたね」
「ああ、どうも私は酒に弱いようでね……あのような蛇に言いくるめられてしまった。情けない所を見せたものだよ」
「可愛かったですわよ。さ、今日はもう部屋に帰って、お眠りになられたら?」
「では一緒にベッドへ入ろう」
「本当に私が宜しいので?」
「そうだね。君の名前を呼びながら身体を重ねたあの一晩が、私には忘れられない」
「でも残念。私は船の警護も任されておりますの。だから、今日は貴女との抱擁を肌で感じる事が出来ません」
ランの頬へ軽い口づけを行って、笑顔で手を振ったシャルロット。
だんだんと離れていく彼女の姿を面白くなさそうに見届けた後――そんな彼女の向こう側で、普段あまり見ない人種の女性を発見した。
紺色のロングヘア、東洋系の顔立ちに思えるが、僅かに肌が茶色がかった女性だ。黒のドレスは綺麗な背中のラインを見せつけているし、妖美な雰囲気がある。
顔立ちも体形も非常に好みで、ランはワイングラスを持ち直して、女性の元へ。
「お一人で?」
「ん――ええ。お呼ばれされたにも関わらず、誰にもお声をかけて貰えなくて」
声は僅かに低いものの、呑んでいた酒のせいか艶っぽくも感じた。
ランはイケると表情を引き締め、彼女の手を取った。
「なんと、こんなにも美しいご令嬢に誰もお声を? 周りの男共は見る目が無い」
「貴女は女性でしょう? それでも私に美しいからと、声をかけてくれるの?」
「芸術に男も女もありはしない。私は、美しい者を見るのが何よりも好きでね。特に貴方の様な孤高で、麗しい人は」
「物好きな方――ふぅ。ここのお酒、どうにも私には強すぎるみたい。酔いが回ってきちゃった」
「それは大変だ。お部屋までお送りいたしましょう」
「そう? では、お願いしようかしら――ああ、でも私の部屋は、一番奥の方だから」
何を言っているか分かるでしょう、と言わんばかりに、女性は艶めいた視線をランへと。ランも経験豊富な女だ。彼女の真意はよく分かる。
「それは大変だ。貴女のお部屋へ行くよりも、ここから近い私の部屋が最適だろう。そちらで横になろう」
「嬉しい」
手を取られながらも、酔っているにしては確かな足取りで連れられる女性。
ランは視線を合わせて来たシャルロットに「お楽しみだよ、シャルロット」と口の動きだけで示し、シャルロットも笑みを浮かべて手を振るだけで、彼女を咎める事も無い。
ゴールデン・マリー号の乗船者に割り当てられた部屋は多くが小さな個室であるものの、中にはVIPルームとして広く間取りが確保された個室がある。
勿論聖堂教会の代表として呼ばれたランに割り当てられた部屋もその個室であり、ランは名も知らぬ女性をエスコートしながら、ベッドに腰かけさせた。
「どうかな、具合は」
「ええ、まだ少し酔いが回っているわ。どうにも貴女が素敵な殿方に見えて仕方がないの。大変綺麗な女性である筈なのに」
「それは光栄な事だ。私も女性ではあるが、紳士として見られる事はやぶさかではない」
「でも――貴女は、紳士でなく、オオカミでしょう?」
「ふふ、そうとも言うかな。けれど私は、ベッドの中でも紳士として振る舞っているつもりでね」
女性の手と自分の手を絡め、ベッドへ押し倒すラン。ランの手は女性の唇から首元、鎖骨、そして乳房へと渡る。
女性も、離れた手でランの臀部を撫でている。
唇と唇が短く触れ合う。
ランは、そういえば彼女の名を知らないと考えこそしたが、ピロートークにでも聞けばよいと、いよいよ我慢できず、女性の下腹部へ、手を伸ばした。




