会合-02
「三組織での協力が難しい状況であるのならば、現状維持はどうだろう」
フィオナの言葉に、ランも首を傾げて彼へ問う。
「現状維持とはどういう事だフィオナ。我々のプリステスも、貴様のヴァンプとセイントも含め、現状を維持しつつ待機、とでも命令を下せと?」
「そうとも。秋音市は【異端の者】が出現しやすい傾向にある。この理由は諸説あるが、現状では秋音市が問題の中心となり得る可能性が非常に高い。現状を維持していれば、いずれ敵も現れる事でしょう」
「災いなどは他国でも出現形跡があるようですが」
「災いは世界各国、どこでも現れるよ。けれどここ最近の秋音市は、異常と言える数値で出現している。ヴァンパイアは始祖・フォルネスがいた事を鑑みれば当然と言えば当然か」
「なるほど。お高いワインと、ワインを飲む社交場を提供し、笑顔で会合を行いつつ、決められる事はその程度という事ですな」
志木は少々笑みを崩しながらもワインを一口。フィオナは反対に笑みを強く浮かべながらも、しかしワインへ口を付けなかった。
「ミスター・アキヤマ、そう言わないで下さい。貴方の立場ではこの危機を脱する為の方法を早急に求めたいのでしょうが、我々にも事情がある。その事情を押しのけてでも、自分の要求を他方に呑ませようと?」
「それがビジネスというものでしょう。今後の捜査等は警察や防衛省情報局デスクを通さず、我々四六のみで行い、貴方達への提供を拒む事も出来るのですよ」
ハッと鼻で笑うラン。
「下手な交渉だな。我々のプリステスは世界各国にいる。秋音市も、あのシャルロットを含めて四人のプリステスがいるのだ。情報源は幾らでもある」
「聖邦協会も同じくですな。秋音市は特に重要な狩場だ。防衛省にも別のコネがある。貴方から頂く必要は無い」
「ではこれは、素敵な社交場をご用意頂いた事に対するお礼という事で、手を打ちましょう」
志木は懐から、三枚ほどの写真を取り出した。
「これは?」
内容を見ても首を傾げるのみであるラン。しかしフィオナは表情を青ざめて、志木を見据える。対する志木は目を開かずニッコリと笑っているだけだ。
「どこでこれを」
「貴方は言いましたね。防衛省にはコネがあると。そして私もこの会合を前に、手ぶらで参るのは非常に失礼かと思いまして」
「どこでこれをと、聞いているのだが」
「簡単な話ですよ。貴方に様々なコネがあるという事ならば、その分貴方に辿り付く経路も多くなる、という事で」
映し出されている場所は、全て何の変哲もないマンションや、工場の出入口にも見える。
「ラン様には、こちらを」
「な――ッ!?」
ランへと差し出された写真二枚は、反して賑やかな歓楽街だろうか。しかし周りに映る光景から、日本では無いだろう。
「聖邦協会の穏健派が会議に用いる場所を三つ。そして聖堂教会の会合が行われる時に使用される社交場を二つ。それらの出入口の写真ですな。――まぁこれらは機密性の高い情報でしたが、得られない情報では無い」
「なるほど。日本の捜査機関は優秀と言う事ですかな」
「いいえ。これは私の部署で情報を収集し、撮影は部下に任せただけの事。先日非常に優秀な部下を亡くしたので、これでもだいぶ苦労しました」
「嘘をつけ。お前のような男が、会合が決まって一日で、こんな」
「そもそも聖邦協会と聖堂教会という二組織が関わっていると分かった時から情報収集は行っておりました。しかも場合によっては敵にもなり得る。
そして調べている内に、日本の政財界にも影響を持っているプリステスまでいた。情報戦になるという事が分かった段階で、信頼できる自分と部下だけを使う事は必然です。
私より上の人間には報告どころか、貴方達が今回の件に関わっている事すら情報を遮断しております。こうして会合を行っている事が防衛省情報局のデスクに届くのは、何ヶ月後の事になるでしょうな」
ゴホンと咳ばらいを一つ。志木は空になったグラスを下げ、別のグラスに持ち替えた上で、宣言する。
「現在の戦争は情報戦です。そして情報戦になればなるほど、専門の捜査機関を味方に付けなければならない時もありましょう。
我々はプロであり、他のプロを寄せ付けない方法がある。お二方に届く情報にダミーを仕込む事だって出来る。
誤情報より怖いものを、私はあまり知りませんな」
「蛇が」
「こんな初老のひ弱な男を捕まえて何を仰る。
――所で、現状維持がどうですって?」
喋り疲れたと言わんばかりに、ワインをクッと煽ったせいか、僅かに頭をぐわりと揺らす志木。
「うん、私にはこのワインは美味すぎる。酔いが強烈だ」
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「つまり、情報戦はウチの圧勝?」
「聖堂教会は他国の情報機関を利用する事はあっても、利用される事など考えていらっしゃらないでしょうしね」
「聖邦協会も非常に懐古主義でな。情報漏洩を怖がるあまり、非情にミクロな組織運用となってしまっている。一つ漏れれば簡単に溢れる」
「おいセイント、そのデカい体で急に話に入って来るな、怖ぇよ」
「すまないブルー、しかしデカさはお前と同等程度と認識している。所でここは、アルタネイティブの社交場か」
「私はアルタネイティブではありませんが」
「プリステスも似たようなモンだろ」
シャルロットも疲れたという様にぶどうジュースを煽り、セイントはSPの群れから離れて荘司とシャルロットの元へ合流した。
「話を戻しましょう。どうやら現地のアルタネイティブ、プリステスの運用は秋山志木様に一任する事で決着がつきそうです」
「お前ら二人と、お仲間も含めて?」
「ただ組織の運用上、判断は各アルタネイティブ、プリステスに委ねるという結論だな」
「現状維持と変わらねぇように思えるが」
「組織ぐるみでの懐柔を行う必要が無くなったと考えれば、四六からすれば大きな一歩でしょう。
応じるかどうかはさておき、各々が良しと思った行動を独自に行っていい、という意味ですからね」
「責任は全てオッサンが取ればいい、って事か」
「あの方は非常に聡明な方です。責任の取り方どころか、責任の所在を明らかにしない方法で全てを有耶無耶に出来るでしょう」
「ああいった手合いが敵に回ると恐ろしい。良い上司を持ったな、ブルー」
「ただ俺達が実際に戦うのは、情報じゃなくてマジモンの化け物だ。あんまりオッサンが役立ったと思うような時はない」
「裏方とは報われない存在ですものね」




