集結-01
現地時間、二千十八年七月二十三日、午後四時十七分。
志木は、四六に与えられた活動拠点である雑貨ビルの一室に並ぶ、七人の存在に目を通す。
アルタネイティブ・レッド。
アルタネイティブ・ブルー。
アルタネイティブ・ヴァンプ。
アルタネイティブ・セイント。
プリステス・乱舞。
プリステス・炎武。
プリステス・クラージュ。
それぞれが異端の存在と戦う為の力を持ち、そして今まで戦い抜いてきた猛者である事に、疑問符すら出る程の若々しさだった。
「四六に所属するレッドとブルー、そして聖邦協会に所属するヴァンプとセイント、聖堂教会に所属する乱舞、炎武、クラージュ。組織の垣根を超えて、良くここに集合してくれた」
「アンタが無理矢理連れて来たんじゃん」
炎武――花江が溜息と共に椅子へ腰かける。
「で、何の用? これ以上ヴァンプと一緒にいると、殺したくなってくるんだけど」
「だからお姉さんが狙ってるヴァンプは、多分僕のパパ。僕はパパからヴァンプを引き継いだだけなんだから!」
ヴァンプ――ナオが頬を膨らませながら首を振った。
「じゃあアンタのパパはどこにいんのよ。アタシが殺す」
「死んじゃってる。もうこの世にはいないよ」
「――そう、じゃあいいわ」
思いのほか諦めが早かった花江。彼女はフンと鼻を鳴らし、そっぽ向く。
「では、単刀直入に呼び出した理由と、今回のまとめに入ろう」
志木は、先ほど志斎に指摘された、朱色の液体が入った試験管を取り出し、皆に見せつけた。
「聖邦協会、アルタネイティブ・ヴァンプとセイントに確認したい。これは何だね」
「ボクは知らないけど、志斎知ってる?」
「おそらくだが、フォルネスの血だ」
志斎がそう答えると、ナオは目を見開いて、試験管を観察する。
「うん。確かにこの禍々しい雰囲気、アイツに似てる」
「あの、アイツって……」
美咲がオズオズと問いかけると、今まで部屋の隅っこにいた少女・七瀬七海が声を挙げる。
「簡単に言うと、聖邦協会が狙っていた異形生命体・ヴァンパイアの長、フォルネスの事です。ミューセルと呼ばれる異世界から、生存競争に負けた末に、地球へ逃げて来た種族と聞いています」
「ミューセルとはな」
「エネミーの親戚みたいなものか」
七海の言葉を聞いて、荘司と優奈が相槌を打った。
そして二者に視線を送ったシャルロットは、疑問を素直にぶつける事とした。
「先に確認したいのですが、四六は何故、アルターシステムを所有しているのです? 聖邦協会のアルターシステムと聖堂教会のアルターシステムに関しては理解していますが、日本防衛省がアルターシステムを所有していると言う情報は、私も初耳でございます」
もっともな意見だ、と。志木は四六がアルターシステムを所有するに至った経緯を語る。
「我々四六は、異世界・ミューセルからの侵略者・エネミーが地球に襲来する事を、同じくエネミーからの離反者・シェリルによって聞かされ、戦う為の力としてアルターシステムを託された。
今やエネミーによる地球侵略は縮小傾向にあるが、日夜エネミーとの戦いを余儀なくされている。では、聖邦協会と、聖堂教会の言い分も聞こうか」
「聖邦協会は、おおよそ五百年前にエネミーとの生存競争に敗北し、地球へと逃げて来たヴァンパイアの力を流用したアルターシステムを用いて、ヴァンパイアの撲滅を目的に設立された組織だ。
ここに居る直哉は、ヴァンパイアの血を用いて作られたアルターシステムにてヴァンプに変身し、己はヴァンプのデータから作られた人間の技術を用いたアルターシステムにてセイントへ変身する」
「聖堂教会は表向き、元々数多ある宗教をひとまとめに管理する機関と言われておりますが、実情は太古の昔よりこの世界に災厄を振りまく存在・災いを滅する為の力を持つ者達・【プリステス】の管理組織です。
元々女性が多く持つ虚力を増幅させる装置・アルターシステムを、プリステスの一人が開発した結果、討伐難易度は劇的に縮小しましたが――そもそも災いを生み出す元凶の存在を証明できず、殲滅は未だ果たせる見込みもありません」
設立された目的、戦うべき敵も違う。そんな彼らが一堂に介すること自体、何だか不思議に思えてしまう。
「ではこの液体について、情報を整理しよう。我々四六は先日、日本の領海に侵入をしたテロ組織の情報を得た。それらは日本へこの液体を輸出しようとしていたのだが、これは何だと?」
「直哉が倒したヴァンパイアの長・フォルネスの血だろう。既にアルターシステムが作られている事例もあり、燃料としては一滴で核燃料以上のエネルギーを有する事が出来る」
「それがなぜ出回る」
「流された元が分からねば正確な回答はしかねるが、聖邦協会と聖堂教会は横の繋がりを持っており、度々聖堂教会にフォルネスの血を渡し、ヴァンパイアを発見した際の対処法を伝えていると言う噂がある」
「お待ちくださいな。それは我々聖堂教会が、フォルネスの血を流出ないし、横流ししたととれる発言でございます。撤回を」
「審議が得られれば肯定も撤回もする。己は流通経路の心当たりを述べただけだ」
そこで志木が一度、わざとらしく咳き込む事により、二人は口論を止めた。
「今は感情的にならないで貰えるかな。先ほどまではあくまで確認程度だったが、この液体の危険性が高まれば高まる程、情報は多い方が良い。豊穣君の言い分はもっともだし、あくまで聖堂教会が横流しに関与しているという可能性を述べているだけならば、聖邦協会そのものが流した可能性すら考えられる。クラージュ君も冷静に鑑みてくれ」
志木の言葉に、シャルロットは頷き、言葉を放つ。
「では可能性の一つとして、フォルネスの血は外部の研究機関にも多く渡っている事が確認されている上、その血も瀬上直哉さんのお父様である【瀬上章哉さんの血】である可能性すら考えられます。
何せ聖邦教会の有する量産型アルターシステムは、瀬上章哉の血を元に製造されていますでしょう?」
「豊穣君、この意見については」
「事実であり、同意もしよう。しかし聖邦協会からの横流しである可能性は否定せざるを得ない。
内輪揉めを語るようで恥ずかしい限りだが、聖邦協会は穏健派と過激派の二大派閥により構成されており、どちらもヴァンパイアの血を大っぴらに公開する事を禁じている。
聖邦協会と繋がりのある外部研究機関より漏れた可能性は、サール・クラージュの語る通りだ」
可能性だけならば、幾らでも出てくるという事だ。志木は溜息をついて椅子に腰かけ、それぞれに語り掛ける。
「血がどの様な経路で密輸されたのか、そしてその行く末がどこであったか、今の我々には分からない。
しかしこの日本に流れ着こうとしていた事実は変わらない。そして――その上で、この映像を見て欲しい」
一台のパソコンとプロジェクターを繋ぎ、壁に映し出される映像。そこにはレッドとブルーの二人が戦う、三体の鋼鉄機械が動き回る映像だった。
「一体一体に大した戦闘能力は無い。しかしこの機械の動力には、先ほどの血を用いた可能性が高い。そしてその量産体制が整えば、これが世界中に牙を剥く事も考えねばならない」
そこで、と。志木は一息吸い込んだ上で、言葉をかけた。
「――ここに集まった七人に、お願いがある。
これは日本だけの問題では無く、全世界を危険に巻き込むテロ事件と見ていいだろう。
どうか皆で力を合わせ、今回の事態の収拾に当たってほしいんだ」




