集結-02
頭を下げた志木の姿を見据え、優奈が「うんっ」と元気に返事を返す。
「ヒーローヒロインが一堂に介するのは、王道中の王道だからな! 俺は大丈夫っ」
「俺も別に異論はねぇけど」
優奈につられる様に返事をした荘司だが、しかし視線はナオと花江に向けられている。
「ボク、やだ」
「じゃ、アタシもパス」
荘司の懸念は当たった。ナオと花江はそっぽ向きながら、志木の要望を拒否したのだ。
「簡単に人を殺そうとする人とは、一緒に戦いたくない」
「こっちだって煽り酒よっ」
「は、花江さん、願い下げ、です」
「あー、うん。それそれ」
花江の言い間違えを指摘しつつ、美咲もしばし考える様にしていたが、苦笑を浮かべる。
「えっと、私はあんまり組織間の状況とかは理解できていません。けれど、花江さんが納得していないなら、私もとりあえずはご遠慮します」
「神崎君」
「あ、も、もちろん、本気でマズい状況ならやぶさかでは無いんですが……あくまで、今は懸念事項の段階、なんですよね……?」
志木と向かい合う事によって緊張を含んだ面持ちとなった美咲だが、しかし彼女の言い分に頷くシャルロット。
「ですわね。確かにこのロボットたちが量産体制に入っているのならば、すぐにでも対処を行わなければならない事案ではありますが、しかし今の所確認されているのは、四六の確認した三機のみ。であるなら、我々三組織が一堂に介する必要性は皆無でありましょう」
「そーそー。そもそも、フォルネスの血やパパの血が絡んでるなら、ボク達聖邦協会の領分だしね。ボク達だけでやるよ」
「その通りだ。もちろんサール・クラージュも聖堂教会による手引きで無いか、確認だけは願いたいが」
「ええ、それは勿論」
何やら否決で固まりそうな雰囲気に、優奈が「おいおいっ」と声を大にする。
「世界のピンチだぞ!? お前たちも他人事じゃないんだから、協力した方が」
「必要ないっ」
ナオは、勢いよく優奈へ言い放ち、しかし引こうとしない優奈へ、目を細めた。
「……じゃあ聞くけど、ユーナはボク達が危険な目に遭っていた時、どうしてたのさ」
「え」
「七海だって、志斎だって、ボクだって死にそうな時にさ、どうして助けに来てくれなかったの?」
「それは」
「ユーナが言うヒーローって何? ヒーローって言うのは、自分の大切な人達を守る為に戦う人の事を言うと思う。
決して、自分に仇なす人と、一緒に戦う人の事じゃない」
フンッ、と顔を逸らし、オフィスから出ていこうとしたナオに、それでも声をかけようと手を伸ばした優奈。しかし彼女の手は、荘司によって止められた。
「アイツの言い分が正しいわけじゃねぇけど、間違ってるわけでもねぇ」
オフィスを出たナオに続くようにした志斎と荘司の目があった。身長が近い事も理由の一つではあろうが、しかし互いに言いたい事があったのだ。
「大変な相棒を持ったな、セイント」
「貴様もな、ブルー」
聖邦教会組の二人は退室。続いて花江とシャルロットも席を外し、美咲もその背を追おうとしたが、しかし扉の前に居た少女に声をかけられる。
「美咲ちゃん、これ私の電話番号」
「え、え?」
きょどりながら、しかし番号の書かれたメモを受け取った美咲。
「いざって時に連絡出来なきゃ、困るでしょう?」
綺麗な表情でウインクを一つ魅せた七海の言葉に、顔を赤めながらお辞儀をして退室する美咲。
そして七海は、優奈と荘司にペコリと頭を下げた。
「ナオが、失礼なこと言って、ごめんなさい」
「い、いや……別に」
「当人から謝られなけりゃ、謝罪にゃならねぇよ」
椅子に腰かけた荘司が、七海へと視線を寄越す。普段から女子に興味の無い荘司でさえ、彼女の美貌は目が離せないものがあった。
「……多分ナオもね、分かってはいるの。自分がどれだけ身勝手な事を言っているか」
「じゃあどうしてあんな意地の悪い問い方をした」
「あの子、隠し事も嘘も苦手な子だから。自分の感情を表に出して言いたい事があるのに、どう言えばいいか、分からなかっただけなのよ。
それにナオは、ヴァンパイアとの戦いで、唯一の肉親だったおばあちゃんを亡くしてる。
決して良好な関係では無かったけど、戦いで失ったものが大きすぎた。
――だから言いたいんだと思う。『なんであの時、お婆ちゃんを救ってくれなかったのさ』、って」
ナオとて、今の事態が深刻化すれば、それが全人類にとって最悪な事態になるという事を、理解はできているのだと思う。
けれど、今まで戦い抜いてきたヴァンパイアに命を狙われた事もあれば、聖邦教会の内輪揉めで豊穣志斎と戦ったこともあり、簡単に自身を殺そうと刃を振るう人間がいて、そして隣り合って戦う事が、心情的に難しかったのだろうと聞かされ、優奈は押し黙る。
「……なんだ、アイツもしっかり、ヒーローしてるじゃん」
「優奈ちゃん?」
「アイツは、自分の守りたい人達を守る為に戦う人がヒーローだ、って言った。守れなかった人が居たとしても、その為に戦う事は、止めていないんだよな?」
「……ええ、それは勿論」
「うんっ、ならナオもヒーローだっ! ――俺は、自分の中にあるヒーロー像を、ただ押し付けただけなんだから、それを拒否されて怒るなんて、俺の方がガキっぽかったな」
苦笑と共に表情を赤らめ、反省した様子の優奈と、僅かな笑みを浮かべた荘司の表情を見据えて、七海も安心したようにニッコリと笑う。
「それにしても、恥ずかしいなぁ。あの子俺よりちゃんとヒーローしてるじゃん、あんな可愛い女の子なのに」
「あー、いや。ナオは男の子よ?」
「……は?」
七海の言葉に反応したのは荘司だった。優奈は目を点にして、続く七海の言葉を待つ。
「あの子の本名は瀬上直哉。正真正銘の、男の子よ」
沈黙は長く続き。
「……はぁああああ!?」
本日最高のリアクションを優奈が浮かべた所で、本日の議題は終了した。




