邂逅-01
現地時間、二千十八年七月二十三日、午後三時四十五分。
某県・秋音市。
ツインテールの髪の毛をふわりと揺らめかせながら、一人の小柄な少女が、小走りで駆けていく。両手にはソフトクリーム。彼女の向かう場所には、白を基本色とした私服に身を包んだ黒髪ロングヘアーの美女が。
ツインテールの少女は、瀬上直哉。通称・ナオ。男の子であるのだが、外観は少女にしか見えない。
黒髪ロングヘアーの美女は、七瀬七海。彼女は正真正銘の女性であり、ナオが手渡すソフトクリームを受け取り、微笑んだ。
「ありがとうナオちゃん」
「ううん、お待たせ七海っ」
彼女達は秋音市の大型ショッピングモールを歩き、ウインドウショッピングに勤しんでいた。
幸せな時間だ。二人がそう感じながら、しばし安穏とした時を過ごしている――その時だった。
「、っ」
ナオの両手中指に装着された朱色の指輪――アルターシステムが僅かに光り、そしてナオの脳内に一つの情報を送り込んだ。
「なんだ、これ」
それは、普段彼が戦う異形生命体【ヴァンパイア】の反応に似てはいるものの、違う存在に対する反応だった。
七海が表情をしかめて「ヴァンパイアですか」と問いかけるも、彼は首を傾げる。
「似てるけど、違う。これ――」
「何にせよ、いかないと。ここでヴァンパイアが暴れれば、一般市民に被害が及びます」
コクンと頷いて走るナオと、彼を追いかける七海。
二人が辿り付いた先は、ショッピングモール外に併設された簡易的な子供用遊園地だ。本来であれば小さな子供達で賑わうその場所に足を踏み入れるも――店員の姿すら見えぬのは何故だろう。
「――災い!?」
ナオは目の前に、黒い影にも似た人影を見つけた。
――否、影では無い。漆黒そのものと言えるだろう。
全身を黒で染めた人型の何か。それを見据えて、ナオは持っていたソフトクリームを七海に預け、アルターシステムを整えた。
「ナオちゃん、あれは」
「災い。ヴァンパイアが出現しない時、聖邦協会が主に追いかけてる化物の一つ。ボクも詳しくは知らないんだけど……放っておけない!」
両手に備えたアルターシステムを繋ぎあわせ、手首を捻る。カチリと音が鳴ると、機械音声が耳に届いた。
〈Alter・ON〉
ナオも、呼吸を一つ。そして叫ぶ。
『――変身っ』
しかし、声は二つ聞こえた。
光りを放ち、その身を黒と朱色の混じり合った戦闘服に切りかえ、正真正銘女性の身体へと変身を果たすナオ――アルタネイティブ・ヴァンプ。
光りを放ち、着込んでいた制服より、白衣と袴、つまり巫女服へと変身を果たす少女――プリステス・乱舞。
ヴァンプが変身を成した後、空から彼女の隣に着地した乱舞は、ふと自身の隣にいる人物を見据え――互いに言葉を投げかけた。
『誰!?』
言葉と共に沈黙。しかし災いは止まらない。先ほどまで一体だった災いが、湧く様に十体、二十体と増えて行く。
二人は互いに目配せをした後、叫ぶのだ。
「と、とにかくここは危険です、私に任せて離れてっ!」
「それはこっちのセリフだよ! お姉さんみたいな人は下がっててよっ!」
「私は災いを倒す巫女なので大丈夫ですっ」
「ボクもこんな奴ら倒せるから大丈夫っ」
「二人の言い分は分かったからさっさと戦えナオっ!」
痺れを切らして七海が叫ぶと、二者も仕方なしと、前を見据えて――駆けた。
アルターシステムを二つ繋げ、頭上より生み出した光り輝く剣を手に取ったヴァンプは、それを投擲。
災いの一体に突き刺さった事を確認すると、地を蹴って宙を舞い、そのまま右脚部を突き出した、重たい一撃を叩き込む。
「アルター、キックっ!」
何体かを巻き込んだ高威力のキック。そして彼女が身体を起こすと、視線に入ってき者はプリステス・乱舞の姿。
鋭い切れ味の刃――【滅鬼】を一振り叩き込み、三体の災いを切り裂くと、地面に手を置きながら地を蹴る。
跳躍――否、飛翔と形容する事が正しく感じる高跳び。そして彼女が空中で身体を反転させると、まるで空を蹴る様に地面へと駆け抜け、災いの一帯へと突っ込んだ。
彼女の着地跡にはクレーターが出来上がっていた。そして十数体と存在していた災いは、まるで空気の渦に切り刻まれるように、その身を四散させ、消えていく。
「そこの子っ」
「うんっ!」
乱舞の声に頷いて、ヴァンプは駆け出す。乱舞も彼女に接触する様に駆けると、彼女達は己の得物をそれぞれ構え、振り切った。
最後に残っていた二体の災いを、それぞれが屠った事により、この異常事態は解決となった。
互いにアルターシステムを外す。
今までアルタネイティブ・ヴァンプであった少年――瀬上直哉。
今までプリステス・乱舞であった少女――神崎美咲。
二人は、ニッコリと笑みを浮かべながら手を当て、音を鳴らす。
「凄いよお姉さんっ! あれだけ数がいた災いを、これだけ早く倒せるなんて思わなかった!」
「ううん、私なんてそんな……貴女も、すっごく強かったですよ」
「ね、名前は? ボク、瀬上ナオっ! アルタネイティブ・ヴァンプ!」
「わ、私は神崎美咲です。アル……? えっと、変身した時の名前は、プリステス・乱舞だって聞きました」
「お姉さんがプリステスだったんだね、聖堂教会の、災いと戦う巫女さんっ! 初めて見たっ」
「えっと、私は最近プリステスになったばっかりなので、アルタ何とかっていうのが、よく分からないんですけど」
「お姉さんと一緒! 怪物と戦うヒーローだよっ」
「え、えへへ。ヒーロー、ですか。恥ずかしいです」
何だか仲良く談笑をしている。七海は安堵の息をつくと、神崎美咲と名乗った少女へ駆け寄った。
「助けてくれてありがとう、えっと……プリステス、さん?」
「え……っと」
美咲は七海を見ると、ナオへチラリと視線を送った。彼もコクリと頷きつつ、美咲へ言葉をかけた。
「七海はね、すっごく多い虚力があるから、僕が守ってるんだ」
「そ、そうなんですか。てっきり一般人を巻き込んじゃったかと思っちゃいました」
「一般人はそもそも、ボク達のアルターシステムが発してる人除けで近付けないよ」
そんな、ナオの説明を裏切る様に。
また一人、空中より飛来する女性が、美咲の隣に着地した。
「美咲、大丈夫?」
「あ、花江さん」
女性の名は宮越花江。美咲と同じプリステスである。
「この方たちの応援で、早く災いを倒せました」
「んん?」
美咲が示した二人は、少女のような外観をした二人組。しかし一人の手にはアルターシステムが存在したので、訝しい表情を浮かべた花江。
「アンタ、プリステス? でも、今の秋音市に居るプリステスはアタシと美咲とサール・クラージュの三人って聞いたんだけど」
「あ、えっと。アルタネイティブ、って言う人らしいです」
ピクリと、花江が僅かに表情を動かした。
「僕、アルタネイティブ・ヴァンプの、瀬上ナオっ! お姉さんもプリステス?」
「――へぇ、ヴァンプ。そう、そうだったの」
七海は花江という女性の態度がどこか気になった。
笑みを浮かべている。しかし彼女の笑みは、愛想や祝福の笑みでは無く、何と言えばいいか――
そう。
「ようやく見つける事の出来た悦び」に対する、そんな笑みだ。




