襲撃-02
『敵襲、敵襲』
兵士らが放つ言葉はベトナム語である。建築物の中には五十人近い兵士が居るものの、侵入したレッドとブルーの猛攻に、成す術が無い事を既に悟っている者も居る。
『アルタネイティブがいるなんて聞いて無い』
『聖邦協会じゃない』
『奴らは一体』
『知らない。アレを起動させる』
『アレはマズい、マズいよ』
『稼働実験にもなる。それに【血】がどこぞの馬の骨に渡るよりはマシだ』
男たちはしばしもめる様に言葉を連ねていたが、やがて結論は同じ場所に達したか、建築物の奥へと走っていく。
その三十メートル後方で――レッドとブルーは同時に右足を扉へ叩きつけ、兵士五人を気絶させていた。
「こんな所でリミッターが役立つなんて」
「感謝しているよ。化物は殺せても、人は殺したくねぇからな」
「同感。目的の物は?」
今二人が突入した部屋が司令室である筈だ。幾つかのタブレット、中華製パソコンが光を放っており、ブルーは変身を解く。
光が散るように、ブルーから菊谷荘司へと姿を戻した後、彼は携帯電話を取り出して、一人の男へと電話をかけた。
「もしもし、白兎か」
『やぁ。こんな夜遅くにどうしたの?』
「お前コンピュータに詳しかったよな」
『詳しいの定義によるね』
「今、とある無人島に居るんだけどよ、そこからここにあるコンピュータに、ハッキングとやら、出来るか?」
「いや出来るわけ」
『もうやってるよ。基本ローカルネットワークだけど、一部回線がAXGPで繋がってるみたいだから、そっちから侵入した』
「出来んの!?」
「やっぱインターネットってスゲーな」
『今監視カメラの映像を出すよ――接続完了。目の前のモニターに全部の監視カメラ映像出力するから』
見取り図の出現と共に、建造物の通路を駆ける兵士たちの姿が、手に取る様に分かる。
十人近い人間は二人を探して四方に分かれているが、しかし三人ほどの人間が自分たちの居る方向とは逆に走っている事を謎に思ったレッドが白兎へ「コイツらが向かってる先、分かる?」と問いかけた。
『おそらく、奥にあるデンジャーマークの書かれた扉だね。そっちに監視カメラは無いし、どのネットワークとも遮断されてる』
「サンキュ。今度ブルーのおっぱい揉ませてあげる」
「おい」
『楽しみにしておくよ。とりあえず情報は追いかけておくから、また必要になったらかけて』
途切れた通話。荘司は携帯電話を見つめながら「これが情報化社会の弊害って奴か」と呟いてみたが、レッドの「意味分かって言ってる?」という言葉に首を横へ振った。
「とにかく、行くぞ」
「うん」
「それと俺の胸を売るな」
「えー。じゃあオレのおっぱい売った方が良かった?」
「……それも癪に障るな」
そんな世間話をしていると、三人の兵士がドアを蹴破り、銃口を二人へ向けた。
荘司を押し飛ばして銃口から逸らせると、銃弾はレッドへ放たれる。
銃口から射線を見極め、屈んだレッドと、光を放ちながら地面を蹴り、三人の兵士へ拳を叩き込んだブルーの動きはほぼ同時。
「行くぞ」
「ああっ」
気絶した兵士たちを端目に、二者は先ほど白兎より教えられた部屋へと向け、走り出す。
向かってくる者達を叩き、その部屋へと辿り付いた二人は、既に開かれていた重々しい防弾扉をくぐり、入室する。
部屋は薄暗くて、何も見えぬと目を凝らした瞬間。
ブルーがハッと意識を眼前へ向け、レッドの前に立ちふさがる。
叩き込まれる一撃は、ただ重量と運動エネルギーに身を任せた物理的な攻撃だ。
しかし故に、ブルーですら膝を折って、表情を歪める。
「な――なんだコレ!?」
全長は三メートル弱程ありそうな巨体。その巨躯は、鋼の鎧に包まれた、鋼鉄その物だった。
ブシュウ、ブシュウと、機械音と蒸気音を奏で、ゆっくりとした動きで近付いて来る三体の鋼鉄に、レッドは答えを出す。
「これ、ロボットか!?」
アルターシステムを外し、菊谷荘司へと戻した彼は、右足を思い切り振り込んで、鋼鉄機械を蹴り飛ばした。
「荘司!」
「蹴り付けた感覚から、人間が入ってる感じはねぇ。思い切りやれ、レッド」
「オウッ!」
脚部装甲にアルターシステムをかざし、膝に力を籠める。強く地を蹴り、天井に両手を付けると、両手を起点とした運動エネルギーを直接、機械に叩き込んだ。
強く装甲がへこみ、爆散する一体の鋼鉄機械。レッドはフッと息を吐きつつも面を上げ、続けて右腕を強く、二機目に突き付けた。
今度は威力が足らず、弾き返される。隙の生まれたレッドに向け、放熱をしながら重たい腕部を持ち上げ、振りかざそうとした一体の攻撃を、殴りつけて止める荘司。
「お――らぁッ!」
左手で殴り、鋼鉄機械の体勢を崩させた荘司は、右手の拳を強く握りしめ、上段で叩き込む。
火花を散らし、それも動きを止めた。残るは一体。レッドは荘司に視線を送り、荘司もアルターシステムを稼働させ、再び変身をする。
「アルター!」
「キック」
〈〈Alter・kick〉〉
二者の呟き。二人は右脚部装甲に手をかざし、それぞれ残る一体に振り込んだ。
真っ直ぐ叩き込まれるレッドの右足、飛んだ機体を追いかけ、踵落としを決めたブルーの連撃は、鋼鉄の機体を破壊するには十分の威力があった。
爆散する最後の一体を見届けた二人は、拳と拳を合わせ、互いに勝利を祝うのだった。
『二人とも、よくやった』
荘司の携帯電話に着信があり、出ると相手は志木であった。
『現在鎮圧班を向かわせている。二人は建物屋上のヘリポートより回収を行う。先に薬品の有無を調べてから、こちらへ』
「了解」
返事を返した荘司は、大暴れした部屋を軽く見渡す。
そこには先ほどの鋼鉄機械に拉げられたベトナム人が二人ほどいて、彼らの死体を軽く一瞥した後、奥にあった朱色の液体が入った試験管を手に取った。
「薬品」
「あの鋼鉄機械、通常の動力じゃどうやったって動かないだろうな。つまり」
「コイツが動力源か」
「荘司、何だか」
「ああ――嫌な予感がする」
**
現地時間、二千十八年七月二十二日、午前二時三十一分。
四六の鎮圧班が、次々に島へ上陸していく姿が、彼女達の目には映っていた。
姿は二つ。
一人は紺色のロングヘア、少し茶色がかった肌をした東洋人のような顔立ちであったが、服装は趣を感じさせる白の貫頭衣。
年は二十歳そこそこといった所であろうか。落ち着いた風貌と少しだけ細い目付き、そして何より百七十センチはあるであろう体格がそう目せる理由でもある。
一人は橙色のショートヘアである事以外はほとんど共通しているものの、こちらは僅かに年齢が若く感じる。もう一人と違い、目付きが少し柔らかい事、身長が僅かに低い事も影響しているであろう。
「あは。アイツらに流した【血】、やっぱり回収されちゃったね」
橙色のショートヘアが、無人島に建てられた建築物の屋上に座り込みながら、ニヤニヤと笑う様にしている。
「笑い事では無いぞカリス。苦労して大量生産させた兵器だ。このままでは役に立たん」
対して紺色のロングヘアは、表情をしかめつつ、四六の鎮圧班を――特に三人の姿を凝視していた。優奈、荘司、志木の三人だ。
「えー? でもサニス、アタシ血を使わなくても【エルス】動かすいい方法思いついたよ?」
「ほう」
カリスにしては意外な事を、と言わんばかりに表情をころっと変える、サニスと呼ばれた女性。
サニスは「聞こうじゃないか」と耳を傾けると、エルスは「簡単簡単!」とニッコリ笑いながら、サニスの凝視する三人の内、優奈と荘司を指さした。
「アイツら敵になるでしょ?」
「ああ」
「なら、アイツらを倒して、アイツらを使っちゃえばいいんだよ」
単純明快、と簡潔に述べたエルスの言葉に、サニスもニヤリと笑う。
「お前はバカだが、賢しくはあるな」
「えへー。もっと褒めて褒めてー?」
無邪気な笑顔に応じるように頭を撫で、微笑む。
そんな二人が立ち上がると、背後に生まれた漆黒の門に似た渦へ、歩んでいく。
二人を呑みこむようにして姿が見えなくなると、渦はかき消す様に姿を消したのだった。




