襲撃-01
現地時間、二千十八年七月二十二日、午前一時十二分。
日本列島を少し離れた太平洋のど真ん中にある一つの無人島、その上空に自衛隊の所有するUH-60Jという救難ヘリコプターがあり、機は無人島の上空三百フィート地点で対空を行っていた。
機内には、パイロット等を除いた乗客が三人いる。防衛省情報局第四班六課、通称【四六】の課長を務める初老の男性、秋山志木は、目の前の二人に対してまずは頭を下げた。
「すまないな。君たちの力を借りる事となってしまって」
目の前に居る一人の少年――否、少女は苦笑を漏らしつつも、首を横に振る。
「別にいいですよ。専守防衛が出来ない日本には、オレ達みたいな奴らが居た方がいいだろうし」
少女は久野優奈。少し跳ねた茶髪の髪の毛と可愛らしくも凛々しい顔立ちをしている、ボーイッシュな少女である。しかし彼女の発言とは裏腹に、隣に座る大男の反応は少々難しい。
「エネミー相手じゃねぇのに俺たちが駆り出されるのは、何か違う気がするんだが」
彼は菊谷荘司。二メートル近いガッチリとした巨体と、整った顔立ちの少年である。彼はそっぽ向きながら窓の外を眺め、顎で無人島を示した。
「あそこで何しろってんだ」
「先日、米軍の有する監視衛星が、一隻の潜水艦を捕捉した。
元々中国で利用されていた古い潜水艦だが、識別コードは書き換えられていて、中国軍部との繋がりは無い。
足を追うにつれて、我々は政府や軍部などとの関係が無い、異端者の手引きによる密入国である事を調べ上げた」
「異端者――エネミーみたいな存在、って事か」
「何やら別の組織によって情報規制が敷かれていてね、詳しく調べる事が出来なかったのだが、密入国の理由としては『薬品の輸出』が目的と思われる」
志木の持つスマートフォンに映し出される一つの画像。小さな試験管にも似た容器に入れられた朱色の液体。これが『薬品』なのだろう。
「この薬品は」
「我々も調査中だが、辿っていくと『聖邦協会』と呼ばれる組織が用いている、動力源となる液体と思われる。ガソリンのようなものか、はたまた核燃料のような危険物かは、今の所不明だ」
「それ、薬品って言えるのか?」
「用途があくまで動力に近いと思われるだけだ。現在この液体そのものの調査を行っている」
顎に手を当てた優奈は、しばし考えるようにしていたが「異端者の正体も?」と問いかける。
「不明だ。しかしそれも『聖邦協会』と言う組織が絡んでいると思われる。まずはこの液体の奪取をお願いしたい」
「了解」
立ち上がった優奈。彼女について行くように立ち上がろうとしたが、輸送機の天井に頭を付けそうになったので立ち膝状態で歩く荘司。
彼女たちは、輸送機のハッチを開け放ち、入り込む突風に身を委ねながら、志木へと叫ぶ。
「行ってきますッ!」
「何か後で美味いモンでも食わせろっ!」
「ああ、期待してろ!」
短い会話の後、二人はハッチから身を――投げた。
無人島へと向け、ただ落ちていく二人。彼女たちは右手の中指に装着していた赤と青の宝石が埋め込まれた指輪を互いに見せ合い、そして宝石を左掌へ、押し込んだ。
『変身――っ!!』
叫ぶ二者の声と共に、光が二人の身体を包んだ。
優奈の身体を包み込んだ光が消えると、赤色の装甲をまとった戦士――アルタネイティブ・レッドへと変貌を遂げ。。
荘司の身体を包み込んだ光が消えると、蒼色の装甲をまとった戦士、それも女性の姿――アルタネイティブ・ブルーへと変身を遂げた。
先に着地したのは、空中で姿勢制御を行って地面へと両足を付けたレッドである。土埃と脚部装甲より放たれる水蒸気が止むと、彼女は疾く駆けた。
森林により視界が良好ではない状況の中、彼女はただまっすぐに駆け抜けた後、前方で耳元の無線機に手をかざしていた兵士を見つけ、背後から右足をかけた。
足首を引っ掛けられ、倒れ込もうとしていた兵士の頭に、勢いよくデコピンを放ったレッド。
吹き飛ぶ兵士の姿を見て、何時の間にやら近くに来ていたブルーに視線をやり、笑う。
「これじゃブルーは変身解けないな」
「俺もデコピンでいくか」
二手に分かれる。彼女たちが目指すは無人島中央にあるコンクリート造りの建物だ。その間にレッドもブルーも兵士を視認している。
レッドの存在に気付いた一人の兵士が、短機関銃の銃口を彼女へと向ける。
レッドはすぐに地面を強く蹴り付け、兵士の背後に降り立ち、男の頭へ慎重にチョップで触れようとしたが、これも思いのほか威力が強すぎたか、顔面から土に叩きつけられ、さらにめり込んでいる状態を見て「ごめんな」と小さく謝った。
ブルーも似た状態だ。彼女は三人編隊のチームが四チーム居る事に気が付くと、すぐに足を止め、自分が銃口に囲まれる時を、待つ。
リーダー格の一人が、手を振り上げた瞬間、兵士たちの引き金に振れる指が、僅かに動いた瞬間を見計らい――
ブルーは膝を折って右足の装甲へ手をかざす。指輪の宝石部から僅かに声が聞こえた瞬間、彼女は宝石部を左掌に押し付けた。
「アルターキック」
〈Alter kick〉
しゃがんだ体勢のまま、彼女は左足を軸に右足を強く振り切る。男たちへ綺麗な足が届く事は無かったものの――風を切る彼女の蹴りがあまりにも早すぎて、風力によって一瞬地面から浮いた男たち。
引き金を引く事も出来ず、身体が浮いた自身の事を確かめようとしていた瞬間、ブルーは左足で地面を蹴った後、右脚部を思い切り振り上げ、地面に向けて踵を落とした。
ズン――と、衝撃波が男たちを襲う。数メートル近く吹き飛ばされた兵士らの行方を確かめた後、彼女は再び地を蹴って、素早く建造物へと駆けて行った。




