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アルタネイティブ  作者: 音無ミュウト
第四章【災い殺しのプリステス】

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カラミティ、企みます。-02

 神崎美咲――いや、プリステス・乱舞が目を醒ました。


眼前には夜も更けて街灯の光が眩い景色が見える。一つ一つの光は、まるで蛍の光のように小さく、ここから遠く距離がある事が一瞬で把握できる。


では自分はどこにいるのだろうと考え、体を動かそうとしても、体は何かに締め付けられるように、動かない。


顔だけを動かし、自身の状態を確認する。


両腕両足、そして腹部には触手のようなものが締め付けられており、一切身動きが取れない状況だ。


 おまけに彼女の持つ虚力を奪っているのか、自身の身体から力が抜け落ちる様な感覚すらある。少しずつまぶたは重くなり、再び眠りについてしまいそうになる。



「君が眠ると、虚力の収集効率が落ちるから、出来れば起きていて欲しいんだけれどね」



 だがそこで目の前から、声が聞こえた。


乱舞は、重たいまぶたを再び開けて、視線で捉える。


 カラミティ――災いである。



「こ……これ、は……貴方、が……?」


「ああ。けれど僕は君の虚力を一切収集していない。その災いには、見覚えがあるだろう」



 今一度、体に巻きつく触手を良く観察する。それと同時に、触手が生えた胴体部分も――確かに見覚えがある。



「この……災いは」


「君たちが半日前に討伐した災いさ。実は言葉が喋れないだけで名前があってね、フォビドゥンと言うんだ」


「この、災いは……何、を」


「君の虚力を用いて、この地でプリステスに討伐されてしまった同胞を、甦らせているんだよ。


 君のおかげで、僕は再び仲間に巡り合う事が出来る。――君が育ってくれて、本当に感謝しているよ」


「貴方、が……私を戦わせ、ようとしていた、理由……まさか」


「そう。君が成長し、極限にまで虚力が高まれば、君の力を用いて全ての災いを甦らせることが可能になるからさ。


 如何に僕が成長し、災厄をばら撒き、この世を一度崩壊させても、人間と言う生物はしぶとく生き残るだろう。


 そうなればプリステスは生き残り、残る災いもいつかは全て滅され、長い年月を経て、人間は再び社会を形成する。


 ――そうならぬ為の布石として、僕達は何時でも蘇る事の出来るシステムを生み出す必要があった」


「その、システムを……私で、作ろうと……?」


「そうさ。そして僕は、君と同じく極限にまで虚力が高まった宮越花江を喰らう。


 そして溜め込んだエネルギーを用いて、僕が世界を崩壊させる。生き残った文明も、多くの同胞が、そして再び蘇る僕自身が、滅ぼす事だろう」



 ――これが、この世界を災いの物にする為の計画さ。



そう笑った彼の笑顔が、どこか気持ち悪かった。


分かっていた事だが、彼は災いで、なまじ知恵を持っているからこそ、性質が悪いのだろう。


美咲は、意を決して口を大きく開け、その舌を噛み千切る為、力強く歯噛みをしようとした。


だがその願いは叶わない。舌を噛み切ろうとした瞬間、舌がクルリと前歯の奥に隠れてしまい、歯と歯がガチンと音を鳴らすだけだった。



「無駄だよ。君の死にたがりな面は、先ほどまででよく分かったからね。少しばかり君に細工を施させて貰った」


「何、を」


「いや難しい事じゃない。【ギアス】と言う、人間が古くから持つ術式さ。暗示とも言って、これを施された人間は、暗示をかけられた物事を無意識下で実行するんだ。


 今回の命令は簡単で『死なぬように行動する事』なんだが、この術式はシンプルな命令な程に効き目が強い。本当に面白い事を考えるものだ、人間と言う生き物は」


「本当に……お話が大好きなんですね……貴方は」


「言葉とは、人間が生み出した最高の意思疎通方法だ。我々災いも見習わなければなるまいね」


「これから……世界を、滅ぼそうとしている、貴方が、ですか……?」


「災いの存在理由は、人間社会に災厄をもたらす事。だがそんな存在理由に価値は無い――僕達だけの世界を作った後に、成さねばならぬ事がある」


「……人間の、成り変わり……」


「話が早くて助かるよ。そう、僕は人間社会を滅ぼした後、『災いだけの文明』を築く。それが僕の抱く野望だよ」



 ――どうにかして、その野望を阻止しなければならない。



自身で自身を殺すことが出来ぬと言うのならば、時間稼ぎをしなければならない。


もう一度眠りに就こう。乱舞は目を閉じ、その意識を再び閉じようとした。



「だが君に眠られると、効率よくエネルギーを収集出来ない――ならば、君の別の感情を煽るとしようか」



 無視だ。グッと顎を引いて、聞く耳持たぬと言わんばかりに強く口を閉じた彼女へ。



「君が五歳の頃に起こったトラック事故は、災いが引き起こしたんだ。知っていたかい?」



 目を見開き、今一度彼の表情を見据えた。


彼は、ニヤリと笑みを浮かべながら、高く笑い声を上げた。



「本当に人間は分かりやすいね! 喜怒哀楽の中で、君が一番の輝きを魅せるのは哀だと理解しているが、しかし全ての人間が抱きやすい感情は、やはり怒りだ!」


「今なんて――何て、言った!?」


「ではもう一度語ろう! 君のご両親が死した理由は、僕の同胞が引き起こした災厄の結果だよ!


 いや、本当は君が死ぬはずだったが、ご両親がその運命を拒否したと言った方が良いか!


 宮越花江には語ったんだけど、君に話は行っていなかったみたいだね、何とも都合の良い!」


「許さない、絶対に許さない……!」


「でも君は、もう動く事すら出来ない。そんな囚われの身で、これ以上どうすると言うんだい? 感情を高ぶらせると――ほら!」



 エネルギーの収集が、まるで早まる様だった。ギュウギュウと、強く締め付けられる感覚と共に力が抜け落ちる感覚が彼女を襲い、その視界すら虚ろになる。



「最高だ! 君が感情を昂ぶらせると、それだけ収集効率が上がる! 世界の破滅はこれだけで果たせてしまえそうだよ!」



 次々と、かつて討伐した災いが、蘇っていく。


その光景を見据えながら、乱舞は、抱いてはいけないと思いつつも、感情を昂ぶらせるしか、行うことは出来なかったのだ。



――大災厄の始まりは、また一歩近づいてしまった。

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