カラミティ、企みます。-03
「今、美咲の虚力が感じられた。秋音市運動場の裏山――その天辺!」
「急ぎましょう!」
走りながら、炎武とサール・クラージュが意思疎通を行う。
秋音市の至る所で、災いの発生が確認されている。今は急きょ駆け付けた他のプリステスが対応をしているそうだが、二人の元にはとんと、その姿は見られなかった。
秋音市運動場を抜け、その裏山を駆け抜ける。
小さな登山ルートとなっているその山を駆けていると、そこでようやくと言っていいか、一体の災いが立ちはだかった。
長い黒髪と白のシャツ、紺色のジーパンを着込んだ優男。
だがその手には、二メートルはあらんかと存在感を誇る、大剣が握られている。
かつて美咲が討伐した、名有りの災いである。
「アンタ――ディザスタ!」
「久しい、プリステス……お前、力、取り戻した」
「そう言うアンタも、美咲の力を使って蘇ったってとこ?」
「……そうか、自分は、美咲によって、蘇ったか」
少しだけ表情を俯かせ、何かを思考する様にした彼だったが、すぐに顔を横に振り、考えを振り解いたようだった。
「だが、自分、災い。お前たち、倒し、アイツの、場所へ、行かせない」
「それはこっちのセリフ。アタシたちはプリステス。アンタらを滅することが、アタシの仕事」
「そう――それが、正しい」
地面を強く蹴り、炎武の頭部目がけて、上段から勢いよく大剣を振り下したディザスタの打撃を滅鬼の峰で受け切ると、力任せにそれを振り切って、彼を弾き飛ばした。
「サール・クラージュ、先行って!」
「言われなくとも、そのつもりです」
その脚部ホルスターに差し込まれている二丁拳銃の引き金を引き、ディザスタに向けて銃弾を一発ずつ放ったサール・クラージュ。
彼女の放った銃弾はディザスタの持っていた大剣の刃によって防がれたが、それを予見していた彼女はそのまま彼の横を横切って、その頂上を目指して行く。
彼女の姿を、ディザスタは咎めはしない。
「やけにあっさり見逃してくれるのね」
「カラミティ、あの程度の、プリステスに、負けない」
「そうね。それは同感――でもすぐに、アタシが行くわ」
炎武の全身から放出される、虚力。その量は今までの彼女とは比較できる量では無い。
その放出された虚力は、彼女の意思によって姿を燃え盛る炎へと変換されていき、その暗闇と生い茂る木々の緑色を照らし上げた。
――様々な感情の隆起によって、今の花江は元々彼女が持つ以上の虚力が存在する。
美咲程ではないが、それでも彼女は【固有能力】を発現できるほどまでに、虚力を増幅させた。
彼女の固有能力は――彼女自身にもわかる、復讐に駆られた者の、豪炎。
「ソッコーで片付ける!」
地面を駆け、ディザスタの持つ大剣に向けて滅鬼の刃を振り下すと同時に、彼女がまとっていた豪炎を舞わせる。
豪炎はディザスタの身体を焦がすような熱を帯びていたが、彼はその存在を気にしても居なかった。
二撃・三撃と行われる、大剣と滅鬼による鍔迫り合い、切り結び。
その攻撃と攻撃による衝撃が、山の頂に向かって走るサール・クラージュにも届くようだった。
**
シャルロット・クラージュは、パリ郊外にある貧困街で生まれ、そして物心つく頃にはゴミ捨て場を漁り、その日の食糧を探すことに必死となる生活をしていた。
――何で私は、こんな事をしなければいけないのだろう。
彼女は常に考えながらも、答えが出ないまま、その生活を続けざるを得なかった。
道歩く人々に疎まれながら、しかし生きる為に歩む事を、ゴミ捨て場を徘徊する事を止めるわけにはいかない。
時には乞食のような、物乞いをする事もいとわなかった。
全ては生きる為。
自身の命を絶やさない為。
自分が生まれた事の意味を知る為。
そしていつの日か、幸せになる為。
――だがなぜだろう。生きている心地が無い。
――自分は今、生きているのか死んでいるのか、それすらも分からない。
――【哀しみ】を常に背負い続けて、彼女は生きていたのだ。
そんな彼女を拾った組織が、聖堂教会である。
聖堂教会は、彼女の持つ虚力が常人よりも多い事を確認すると、彼女を修道院に預け、そしてプリステスとなる為の教育を施した。
アルターシステムを用いた戦闘の仕方もその時に仕込まれ、彼女はただひたむきに、勉強に専念していた。
自身の生活を保障してくれる聖堂教会に恩義を感じ、その恩義を『神』と信じたのだ。
そう、彼女は恩義と言う概念を『神』と信じ――そして【愛】したのだ。
**
背後での激戦を見据える事無く、頂上を目指していたサール・クラージュだったが、その間まで妨害は何も無かった。
――いや、妨害などは意味がないと考えているのだろう。
山の頂には、半日前に乱舞が討伐を果たした災いが存在していた。
頭頂部にある触手は、乱舞の体をきつく締め上げ、彼女をぐったりと項垂れさせている。
「美咲様!」
彼女へと声をかけ、触手に銃口を向け、引き金を引こうとしたサール・クラージュだが、彼女の目の前へと立ち塞がり、飄々とした笑みを浮かべた男……カラミティは、その手を広げて彼女の襲来を喜んだ。
「やあ、サール・クラージュ。君が来たのか」
「カラミティ。その命、神に返還なさい」
「神? 何を言っているんだ君は。そんな存在はどこにも無い。――君たちが呼ぶ神など、存在しない。
ボク達を作り上げた神はいるけれど、君たち聖職者を救い、ご高説を垂れ流す、解り易い神なんかはね」
「ええ、その通り。私たちが信仰すべき神とは、存在し得ない者。
――しかしその存在を信じ、自らの中にある神を信仰する自由は、誰にも平等に与えられています。貴方の命は私が滅し、私の信じる神の元へ、返還させます」
「君との語らいは面白そうだがね、どうやら君に、そのつもりは無いようだ」
「それもまた、その通りです」




