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アルタネイティブ  作者: 音無ミュウト
第三章【災い殺しのプリステス】
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シャルロット・サール・クラージュ、参ります。-09

「待っていたよ、この時を」



 男の、声が聞こえた。


花江の背後に立っていた男は、彼女の首筋に手刀を当て、彼女を気絶させた。


倒れ込む花江が地面へ身体を預ける前に、彼女の体を抱きしめた美咲は、彼女を止めた一人の男性を見据えた。



またも現れた災い――カラミティ。



彼は、今まで見た事も無いようなニンマリとした笑みを浮かべながら、美咲へと手を伸ばす。



「遂に、虚力が極限にまで高まったね。神崎美咲、宮越花江」


「カラミティ、さん……貴方は、もしかして……!」


「君と宮越花江の、その極限にまで高まった虚力があれば、この人間社会を崩壊にまで導ける。


 災いが世界を支配する、そんな世界を作る事が、出来る――!」



 野望に塗れた表情。


その表情を見据えて、美咲はギュッと、花江の身体を抱き寄せた。



「無駄な抵抗は止める事だ。さぁ、僕と共に行こう。君を殺そうとする世界を、壊してあげるよ。この僕が」


「い――嫌っ!」


「君に拒否権は無い」



 冷たい視線が、美咲に襲い掛かった。


美咲は右手に持っていた滅鬼の刃を横薙ぎで振り込み、カラミティは左手の甲でそれを防いだ。


――その時。もう一つの足音が聞こえた。



「花江さん、美咲様!」



 サール・クラージュがやって来たのだ。


カラミティの視線が一瞬だけ彼女に向けられた瞬間、美咲は虚力を放出し、そのエネルギーを暴風として顕現させた。


暴風を受け、一歩後ろへと下がったカラミティ。その隙を見計らい、サール・クラージュへと花江の体を放り投げた。


 花江の体を抱き留めたサール・クラージュは、一体何が起こっているのか分からないと言わんばかりの表情で、前を見据えていたが――



「逃げて、シャルロットさんっ!」


「で、ですがその災いは!」


「この人は、花江さんの虚力も狙ってます!」



 サール・クラージュとの会話をそこそこに、再び滅鬼を両手で構え、刃を上段で振り込んだ。


しかし再び左手の甲でそれを防いだカラミティを見据え、美咲は虚力を全力で放出する。



「早く――ッ!!」



 虚力が暴風となり、風は彼女を包む。威力を内包させたままカラミティへと突撃する姿を見据えて――サール・クラージュは息を呑んだ。



(カラミティが、美咲様を手に入れてしまったら、世界は終わる)



 だが今彼女が放出している虚力は、サール・クラージュが全力を出しても、足元にも及ばぬ程の力量を誇っている。


そんな彼女を援護したとして、役に立つか否か。


それを考えた瞬間、サール・クラージュは花江の体を抱き寄せて、その場を走り去った。



サール・クラージュがその場から走り去った事を確認し、彼女――乱舞は身体にまとった暴風を制御しながら、切先をカラミティの胸元に突きつけた。


今まで左手の甲で攻撃を防いでいた彼だったが、その威力を防ぎ切れぬ事を読み取ってか、身を翻して地面を軽く蹴った。


森が揺れ、そして地面から岩の槍が顕現されると、槍が乱舞の腹部スレスレを切り裂いた。


だが、滅鬼の刃で岩の槍を叩き折ると、暴風で彼の体を持ち上げる。


持ち上げられたカラミティの体は、両腕両足を動かせぬように制御されている。彼は少しばかり体を動かそうとしたようだが叶わず、フッと息をついた。



「さあ――覚悟してください!」


「覚悟するのは君の方さ。プリステス・乱舞」



 暴風で抑え込まれていない右手の指を、パチンと鳴らすカラミティ。地面が再び揺れ動き、岩の剣が幾つも生み出された。


剣は全て乱舞へと襲い掛かる。


幾つかは彼女の体にまとわれる暴風で弾き飛ばされたが、一本は乱舞の腹部へ突き刺さり、彼女は口元から血を吹き出した。



「ふぐ……っ!」



 膝を折り、それと同時に彼女が生み出していた暴風が弱まっていく。カラミティは綺麗な動きで地面へと着地し、彼女の手を強引に引いた。



「やるなら、早く、やってください……!」


「殺しはしない。虚力も、僕の物にはしないよ。――君にはまだ、利用価値があるからね」



 カラミティは、今一度指を鳴らすと。


乱舞は意識を失い、虚力の放出を、止めた。



**



乱舞の虚力反応が、消えた。


サール・クラージュ――いや、今は変身を解き、シャルロットへと姿を戻した彼女は、一度だけ拝見した美咲の自宅へと戻り、胸に抱く傷付いた同僚を、一先ず布団の上に横たわらせた。



「やはり、美咲様を一人で置いていくべきではありませんでした」



 後悔は湧くが力は湧かず、椅子に腰かけたシャルロットは、制服に入れていたスマートフォンを取り出し、電話をかけた。



「サール・クラージュです。――はい、私の失態で御座います」



 電話で繋がった相手は、聖堂教会を率いる人物である。


名前は知らない。知らずとも良いとも思っている。


彼女が従っているのは彼では無い。彼の上に居るべき『神』であり、彼は『神』の声を代弁するだけに過ぎないのだ。



『今、日本各地のプリステスを集結させている。現地にいるプリステス・キャトルも、珍しく動員している。


 サール・クラージュは宮越花江と共に、今からアルターシステムに送信するデータを元に、作戦行動を執れ』


「――これは」


『神崎美咲は、まだ虚力を喰われてはおらん。ターゲットを見つけ出し、その魂を――神に返還させよ』



 つまり。


カラミティに捕食される前に――神崎美咲を再び殺す為の行動に移れ、と言う命令だった。

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