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アルタネイティブ  作者: 音無ミュウト
第三章【アルタネイティブ・ヴァンプ】

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二人の守護者-02

生徒会の仕事は無し。そのまま帰宅して良い事を知っていた七海は、教室からカバンを取ってきて、そのまま帰路へと就いた。


その横に付いてくる少年、ナオの事を視線に入れながら、彼女は今後の事を考えていた。



 ――もし、就寝中などにヴァンパイアが襲い掛かって来た場合、どうすれば良いのだろう。



ナオは言った。「ヴァンパイアの対処法は、対処できる存在が常に近くに居る事」と。


今彼女にとってヴァンパイアに対する対処方法を持ち得ている人物は二人。


一人はナオ。彼はアルタネイティブ・ヴァンプに変身し、その力を用いてヴァンパイアを倒す事が出来る。


もう一人は豊穣志斎。彼もまたアルタネイティブ・セイントに変身し、ヴァンパイアを倒すことが出来る……筈である。



だが志斎は信用ならない。


 節子の言葉を借りれば、彼は穏健派の人間で、いざと言う時に一般市民を巻き込む事を良しとする可能性があると言うのだ。


となれば、選択肢は一つしかない。



「ねぇ、ナオ。アタシこれからどうしたらいいんだろう」


「うん? どういう事?」


「これから、アタシはどうやって自分の身を守ればいいんだろうね、って事」


「七海は普段通り過ごしてれば大丈夫だよ、問題無い無い。だってボクが守るもん」


「でも、常日頃アンタが隣にいるわけじゃないでしょ?」


「いるよ。ボクは、ずっと七海の隣に」



 不安がる、七海の手をギュッと握り、ナオは言う。



「七海は言ってくれた。ボクが七海をヴァンパイアから守るなら、それ以外からボクを守ってやるって――だからボクは、ずっと七海の傍にいる」



 可愛らしい笑顔では無く、男の子として――いや、男としての視線を、七海に向けるナオ。


その表情を見据えて、七海もフフッと微笑んで、その手をギュッと握り返した。



「所で、アタシん家ここなんだけど」



 いつの間にか、七海の暮らす自宅へと戻ってきている事を確認し、一応ナオに声をかけた。



「そう言えばアンタ家どこなの?」


「え? 何言ってるの? ずっと隣にいるって言ったじゃん」


「え」


「え」



 しばしの沈黙。ナオは未だに「何言ってんだろう」みたいな表情を浮かべているが、七海にはその意図が読み取れた。



「……つまりアンタ、アタシん家に住むつもり?」


「そう言ってるじゃん」


「……はあぁあ!? アンタ、分かってんの!? アタシは女でアンタは男! 男女同じ屋根の下とか、マジ有り得ないから!」


「でもそうじゃなきゃ実際七海を四六時中守るなんて無理だよ」



 常識で物事考えてよ、と冷静に言った彼の言葉に反論したかったが、確かに一緒に住む事でもしない限りは、常に七海を守る事などできないのだろう。それは分かる。


だがそもそもヴァンパイア等と言う存在に狙われる事自体が非常識であるので、本来は反論できそうなものだが、事実彼女はその危険性を知ってしまった。易々と反論は出来ない。



「……じゃ、じゃあとりあえず上がりなさいよ。あ、一緒に住む事を許可したわけじゃないからね」


「頑なだなぁ。そんな事気にしてたらお肌荒れちゃうよ?」


「その時は化粧するわ。した事無いけど」



 門の鍵を開けて、その中に入る。門を開けると小池があったが、整備もされてないので藻が生えている。


その道を抜けて玄関に入ると、ナオは「ただいまー!」と元気な声を上げて、家の中へ。



「ただいまじゃないでしょ」


「ただいまだよー。あぁ、疲れた。七海、今日ボクがご飯作る? それとも七海が作る?」


「アタシが作るわ。お客様に作らせるわけにはいかないもの」


「お客様じゃないのに」



 最後までぶちぶちと言っていたナオを無視しながら、七海は冷蔵庫の中を確認する。


 最近は買いだめをしていなかったものだから、二人前を用意できる料理となると、簡単なチャーハン程度しかない。


 一応チャーシューを煮込んであった事を思い出し、冷凍してあったそれを取り出した。


 しばしの時間を経て、作られた簡易的なチャーハンを見て、ナオは「おおっ」と声を上げた。


おおよそ十五分と言う時間で作られたチャーハンを見据えながら「おいしそう」と感想を上げたナオ。


 そんな彼に「じゃあ食べましょ」と軽く言い放った七海は、彼に蓮華を一つ、手渡した。



「いただきますっ」


「はい、召し上がれ」



 蓮華で一口大に掬ったナオは、その熱そうな湯気が立ち上るチャーハンを、口の中に放り込んだ。


舌を少しだけ焼く感覚。だが確かに感じる旨味を、その上で楽しんだ。



「美味しいぃ……」


「大げさね。パパッて作ったんだし、適当よ適当」


「ホントに美味しい! 七海はやっぱり完璧だね!」


「もう……褒めたって何も出ないわよ」



 顔を赤くしながら、七海もチャーハンを掬い、口にした。確かに自分自身良く出来た物だと納得する出来にはなっている。



「……で、アンタホントに住む気なの?」


「と言うかそれが出来ないと、ボクがわざわざおばあちゃんを説得して、零峰学園に入った意味がなくなっちゃうんだよねぇ」


「アタシを守る事が出来なくなるっての?」


「そ。この街は特にヴァンパイアが多いから、常に身を守る事を考えると、やっぱり一緒に住んだ方が効率が良いんだよね」



 それは分かる。理解できる。


だが七海とて、倫理観念が無いわけでは無い。年頃の少年と同じ屋根の下で暮らせと言われて、その善悪を判断できぬわけでは無いのだ。



「……分かった。そこまで言うなら、アタシん家に住む事を、許可してあげる」


「良かったー、骨折り損にならなくて」


「その代わり――五分待ってなさい」



 席を立ち、少しだけ離れた自室へと向かい、電源を入れっぱなしにしていたデスクトップパソコンの中に入っている文書製作ソフトを起動。凄まじい速度でキィボードを叩いた。


その時間、僅か三分。その三分の間に書類を製作する事に成功した七海は、無線通信で近くに置いていたプリンターから書類を印刷すると、その紙を持って、再び居間へと戻っていった。



「これ、よく読んでサインしなさい」


「何これ」


「契約規約書と禁止事項規約書。アタシはアンタの技能を買い、アンタはアタシの家の部屋を借りる。それでウィンウィンの関係、って内容」


「そんなの書面に残す必要ないのに……」


「重要なのは二枚目の禁止事項よ。守りなさいよね」


「えーっと、何々?」



 禁止事項規約書と書かれたそれを、ナオは静かに読み上げていく。




 七瀬七海(以下『甲』と言う)は自身の最低限度の生活レベルを守る為、以下の事を禁止とする旨を瀬上直哉(以下『乙』と言う)に申し立てる事とする。


一、乙が甲の部屋へ入室をする際に、甲への許可を得ずに入室する事。


一、乙が甲の貸し与えた部屋・機材以外を許可なく用いる事。


一、乙が甲への性的行為、またはそれに近しい行動を取る事。


一、甲が今まで通りの学生生活を続ける上で、乙が不利益な発言・行動をする事。




「……難しい書き方するね、七海」


「正式な書面であると残すにはこれが一番。納得できた?」


「粗方納得できたよ。


 ようは部屋に入るときは許しを得て、部屋とか貸して貰ってる物以外は使わず、七海がちゃんと学生をやれるようにすればいいんでしょ?」


「三番目。そこが一番重要よ」


「ねぇ、性的行為って何?」


「え」


「いやだから、性的行為って、何?」



 きょとんと、首を傾げたナオの姿を見据えて、七海は彼をよく観察した。


嘘をついている様子は無い。


つまり、ナオは、知らないのだ。




その――エッチな事と言う物を。




「えっと……ナオ、アンタ今幾つ?」


「十四歳。あ、学校では十六で通してるから」



 その年であれば、そう言う事柄に興味が無いわけは無いだろう。



「今まで学校って行った事、ある?」


「無いよ。ボク基本的にずっとおばあちゃんの所で教育を受けてたから」


「……保健体育って、習った?」


「身体を動かす事は得意だよ!」



 フフン、と誇るように胸を張った彼の事を見据えて――七海はハァと、溜息をついた。



「……とりあえず、サインしなさい」


「はーい。七海は心配性だなぁ」


「今まさにそう感じてるわ……」



 無駄な神経を使ってしまったように感じる。


七海はナオの無邪気な表情を見据え、その上でもう一度、深く溜息をついた。

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