変身、アルタネイティブ・ヴァンプ-02
瀬上直哉――ナオは、しばしショッピングを楽しんだ後、ファーストフード店でバニラシェイクを頼み、喉を透き通る感覚を楽しんでいた。
ナンパは絶えず、三十分に一回はされるという状態だ。少しだけ疲れたと溜息をついた、その時だ。
「なぁ、一階のフロアにスゲェ可愛い子がいたんだよ。しかも一人で連れは無し」
「可愛い子ってだけじゃ、さっきも小柄で小動物みたいな子がいたじゃん」
「バッカ、比較にならねぇよ。ありゃ女神だよ女神」
男二人の会話が聞こえて、ムカッとした。
小柄で小動物のような子、とは自分の事だろう。
ナオはそう誇り(もっと褒めればいいよ)と思いながらも、自分と比較して【女神】等と称される可愛い女の子がいるのだと言う。
可愛いと言われる事の多いナオだが、女神とまで言われたことは無い。
だが今まで自分より美しい女性に出会った事は無いので、ついムキになってしまう。
「ねぇ、お兄さん達」
「え?」
先ほどの会話をしていた男二人組に後ろから声をかけると、二人は振り返って少しだけ顔を赤めた。
「その、女神みたいな人って、どんな人?」
「どんな――って言われても。俺も一瞬チラって見ただけだからな」
「それでこの子より可愛いとか言ってたのかよ」
「いやでもホント、ずっと頭に残る可愛さなんだって。なに、気になるならそこまで案内するけど」
「いいよ、場所だけ教えて」
「一階のアクセサリーショップ。そこで色々見てたみたい」
「うん、ありがと」
小さく礼を言いながら手を振って、その場を後にする。現在は三階のフードコートだ。
そこからエスカレーターで一階まで降りたナオは、先ほどの話に上がったアクセサリーショップへと向かった。
そこには人だかりが出来ていた。安物のネックレスや指輪を揃えているだけのお店なので、それ程繁盛と言う繁盛は無い筈だが……視線を店内へと向けると。
確かに、女神がそこにいた。
神々しいまでに輝く金髪ロングヘアをポニーテールでまとめ、小顔と柔らかな表情、そしてきめ細やかな肌と蒼色の瞳、ぷっくりと膨らんだ薄桃色の唇を良く見せている。
スラリとした、女性にしては少し大きな背丈と、それに似合う白のワンピース、少しだけ膨らむ胸元と臀部、そして腰から伸びる長く緩やかなカーブを描く脚。
彼女の全てが、確かに女神と呼ぶに相応しい存在だった。
その場にいる誰もが彼女に対して惹かれ、視線で追っている。
ナオも、目が惹かれていた。
――初めてだ。自分より可愛い、女神だと感じた女性は。
思わずナオはその場を駆け、少女に声をかけていた。
「あ、あのっ」
「え、はい。なんでしょうか?」
後ろから声をかけると、一瞬だけ戸惑うように振り返った彼女は、ナオの表情を見据えると、身を翻して姿勢を正し、少しだけ首を傾げながらも、フッと笑顔を見せてくれた。
そんな表情にも、ナオはトキメキを感じていた。
「あ、あのボク、ナオって言います! もしよかったら、お友達になってください!」
「あら、私なんかでいいのかな? ナオちゃん、凄く可愛い子なのに」
「むしろ、お姉さんの方が綺麗で、憧れちゃいます!」
「ありがとう。友達なら全然大丈夫よ」
ナオより十センチは背が上だろう少女は、ナオの頭を撫でながらフフッと微笑みを見せる。
「あの、お姉さんの、お名前は」
「あ、ごめんなさい。私は七瀬七海。おかしな名前でしょう?」
「そんな事無いです! 七海さん……綺麗で美しい名前だ……!」
「あは、そんなに褒められると照れちゃうな」
微笑む姿もまた素敵だ――そう思いながら、彼女の持っていた買い物袋を、ナオは手に取った。
「お買い物、付き合います!」
「え、悪いよそんなの」
「大丈夫です! むしろやらせてください! ボク、七海さんみたいになりたいんです!」
「あは、やっぱり恥ずかしいな……じゃあ、お願いしても、いいかな?」
「はいっ、任せてください!」
「でも――お買い物袋は、ナオちゃんみたいな可愛い子には、持たせられないかな」
ナオが手に取った買い物袋を再び手に戻し、ウインクした七海。
そんな七海の姿に、ナオは顔を真っ赤にして、はにかんだ。
七海は、ナオが初めて出会った――
『男性として』初めて、好きになった人なのかもしれない。
**
ショッピングモールから少しだけ離れた住宅街の隅にある小さな公園にて、二人の少女達が座り込んで、タバコを吸っていた。
外見は大人びているものの、化粧と服装の力で誤魔化しているだけで、それぞれが高校生である。
彼女たちは話をしながら、新たなタバコに火を付けた。
「あ、タバコ切れた」
「マジ? この辺年齢確認するコンビニ増えてるから買うのメンドイんだけど」
「ダッリ。しゃあないからその辺でオッサン捕まえてタバコ買って来させようか」
「あー、それがいいわ。じゃ、近くのコンビニ行こうよ」
二人が立ち上がり、公園の出入り口に向かおうとした、その時。
少しだけ小柄の、頭髪の半分が抜け落ちているような、スーツ姿の中年男性が、公園の出入り口に立っていた。
少女達は男性の姿を見据え、チャンスと感じたような表情で、近付く。
「ねぇオジサン、ちょっとお願い頼まれてくれない?」
「タバコ買ってきてよ。エイトスターのボックスと、アルメンライトロング」
「お金は後で出すから、お願ーい」
甘い声を出しながら「お願い」する少女達。だが、男性はただ押し黙り、俯いていた。
「……ねぇ、聞いてんの?」
「聞いてんのかって言ってんだよ、オッサン!」
一人がしびれを切らしたように男性の肩を掴もうとした、その時だ。
男性は少女の細い腕を掴み、手首を強く握りしめた。
「い、痛……っ、ちょ、冗談だってば、あの、止め、!」
と、そこで男性の顔が、少女の首筋に近付いた。
男性の大きく開かれた口が、歯をむき出しにする。
一瞬で、歯が牙のように鋭く尖っていると認識できた少女は「ひっ」と身を竦めたが、そんな彼女を気遣いもせず、男性は首筋に、噛みついた。
ジュル、ジュル、と音が鳴り響き、だんだんと少女の表情が虚ろなっていく。
握りしめられた手首から上は血が行かぬのか真っ青になり――十秒ほどの時が流れると、男は手と口を少女から離し、プハァと息を吐いた。
その姿を見据えながら腰を落とし、足を震わせる少女がもう一人。
彼女はガチガチと歯を鳴らしながら、怯んで動かない足を強引に動かそうとするが、それも叶わず。
「あ、あ、アアアアア――」
彼女の首筋に、男の牙が噛み付いた。
**
「じゃーんっ」
「わぁ、ナオちゃん可愛いですよ!」
「そうでしょ! やっぱりボクは可愛いんだから!」
とある衣服店の、試着室から姿を出したナオは、履かれたフリルの付いたミニスカートを揺らしながら、その場で舞う。
舞いを見据えながら、手を叩いて彼女に可愛いと言う七海。
彼女は手に多くの買い物袋を持っており、それは全てナオと共に買い物をした衣服だった。
「ナオちゃんは小さくて可愛いから、どんな服でも似合いますね。私は背が高いから、あんまり似合う服が無いので」
「そんな事無いよ! 七海だったらどんな服でも着こなせる! ボクが保証する!」
「あは。ありがとう、ナオちゃん」
ナオの頭を撫でた七海は、しかしナオを撫でた手の首に付けられた時計を見据え「いけない」と残念そうな表情を浮かべた。
「ごめんなさい、ナオちゃん。私もう帰らないと」
「え、そうなの? ……じゃあ、連絡先聞いていい? また、遊びたくなったら連絡するから!」
「いいですよ。では、これが連絡先です」
そう言いながら、二人はスマホの連絡先データを無線通信で送受信し合う。満足げな表情で頷いたナオが、頭を下げる。
「今日は、ボクのワガママに付き合ってくれて、本当にありがとう」
「ううん。私も楽しかったです。では、また」
フリフリと手を振りながら去っていく七海の姿を見据えながら、はぁー、と息を吐いたナオ。
彼は顔を赤くして「やっぱり素敵だなぁ……!」と感激をしていた。
「あ、このスカートも買おう」
そこで、再び試着室へと戻り、スカートを脱いで店員へ購入を伝えようとした所で――元々履いていたスカートのミニポケットが、発光している事に気が付いた。
「……ちぇ、仕事かぁ。サボっちゃおうかな」
ハァ、と溜息を付きながら、彼はスカートをのんびりと履き替えながら、試着したスカートをレジまで持っていく。
購入後に、買い物袋を持ち、歩き出すナオ。
彼は、ショッピングモールから少しだけ離れた、公園に向けて歩き出した。




