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第4話 仲間の夢

 背中に、いつものベッドよりも柔らかな感触と、心地良い冷たさが伝わってくる。

 そよ風が吹くと、若い草の香りが鼻をくすぐる。


 いつまでも寝ていたいが、そうもいかない。ゆっくりと目を開けると、懐かしい顔がハルトを覗き込んでいた。


「お、ハルト。やっと起きたか」


 笑顔で手を差し伸べるのは、精悍な顔つきの青年。その横には立派な服装の魔法使いが並んでいる。

 名前はアキヒロとメグミ。

 かつて、ハルトが一緒に旅をしていた仲間だ。


 ぼんやりとした頭で「そんなわけはない」と思いつつも、出された手を握り、起き上がる。


 広がる草原を見て、これは夢だと確信する。

 二人が夢に出てくるのはいつも決まって、地平線の彼方まで広がるこの草原だ。ここはハルトが二人と旅し始めてまだ間もないころ、戦闘訓練をした思い出の場所だ。


 異世界転生者には特殊能力を与えられるが、ハルトのそれは、相手のステータスを数値で読めるだけの、いわゆる弱小スキルだった。


 強い者が使えばそれなりに使える能力ではあったが、動体視力こそ少し自信があったものの、運動神経も要領も悪いハルトにとってはこの能力はハズレだった。

 本来ならすぐに死んでしまうか、町にこもって働くしかないような転生者であったが、運良く同じ転生者の二人に拾われ、まっとうな旅をしていた。


 辺りの景色が洞窟に変わる。


 森。鉱山。町。砂浜。船の上。そして城。


 二人と旅をした景色が次々と現れては消えていく。やがて、再び草原に戻ってきた。


 アキヒロとメグミのお陰で、ハルトは冒険者として異世界を旅することができた。もちろん苦しかったし何度も怪我をした。でもそれ以上に、新しい世界が見られて、助けた人に感謝されるのが嬉しくて、ときには喧嘩をしたり、競い合ったり、とにかく二人と一緒に世界を回るのが楽しかった。


 そんなかけがえのない仲間は、もうこの世にいない。


「ハルト。俺が渡した手帳はまだ持ってるか?」


 あの頃のままの声で、そう問いかけてくるアキヒロ。懐かしさが一気にこみあげ、思わず涙があふれる。「持っている」と返事をしようとしたが、何かの力が働いているのか、声が出ない。

 ハルトは声の代わりに、小さく頷いた。


「よかった。もう捨てちまったかと思ったぜ」


 胸を押さえて、大げさに安堵するアキヒロ。その目が、ハルトをしっかりと捉える。


「ハルト、それにすべてが載っている。あとは――に行くだけだ」


 そういってハルトの手を引っ張り、どこかに連れて行こうとするアキヒロ。場所が聞き取れなかったので聞き返そうとするが、やはり声が上手く出ない。

 アキヒロはしきりにどこかへ行こうと訴える。だが、ハルトの足は石のように重くなり、一切動かない。


 ハルトが何とかしようともがいていると、辺りの景色がゆっくりと崩れ始める。草原が崩れ落ちるように消えていき、代わりに真っ黒な空間が広がっていく。


 そして残された二人の顔に、体に、血が固まったような黒いあざが浮かび上がる。

 メアリーと同じ、そしてこの二人を殺した病だ。


「ハルト! ――だ! きっと――なら手がかりが!!」


 必死に何か叫ぶアキヒロ。だが、何度聞いても場所が聞き取れない。黒いあざは瞬く間に二人の全身に広がっていく。


(いやだ、行かないでくれ!!)


 ハルトも必死に声を出そうとするが、口からはかすれた息が出るだけだった。


「ハルト、――だ。お前だけでも、行け!!」


 二人は最後まで必死に何かを訴えながら、闇に消えていった。


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