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第34話 ハルト、捕まる(4)

 リーゼロッテは、明かり一つない、あばら家のような民家が立ち並ぶ裏通りを走り回っていた。

 どの建物も吹けば飛ぶような酷い有様で、一見すると店などないように見えるが、中には禁制品を取り扱う店や、賭博場が紛れている。


 その中の一軒に目星をつけ、扉を乱暴に開けて中に入る。

 中には数人の男女がうつろな目で空中を見つめながら、おかしいことなど何もないというのに、ケラケラと愉快に笑っていた。


 その男女の奥には、ローブで身を隠した女がじっとこちらを見つめている。どうやらよくない店のようだが、ハルトがいる様子はなかった。


「すまない。この店じゃなかった」


 そういうとローブの女性は、リーゼロッテを睨み、ほんのわずかだけ頷いてみせた。「絶対にここのことは言うなよ」そう言いたげだった。


 その意図を正確に読み取ったリーゼロッテは「わかっている」と言って、店を出る。


「人を助ける」という旅の性質上、彼女はこういった場所を探す機会が多かった。だからぱっと見は何の変哲もないボロボロの家でも、その中が店になっているかどうか見極める能力があった。すでに数件の店に入っているが、ハルトを見つけるには至らなかった。


「いや~。さっきのは愉快だったよな」


 次に向かおうとしたとき、ケラケラと笑う男の声が耳に入った。振り返ると、通りの角に二人の男が立っていた。

 なんてことのない普通の青年だ。だがリーゼロッテは立ち止まり、聞き耳を立てる。


「にしてもあの男、馬鹿だったよなー」

「ほんとだぜ。どう考えてもイカサマに決まっているのに、あんな勝負を受けて」

「しかも大金をかけてな。しかも負けたらイカサマって騒ぐなんて」

「イカサマなんて、初めからわかるだろ」


 二人がまた人を馬鹿にしたように笑う。その声は夜の静寂に消えていく。


 ハルトを取り囲んでいた男たちは勝負師の男の一味だが、それ以外は一般の客だ。

 もっとも、その客たちもギャンブルで大勝ちして、気が良くなった者が一瞬で金を溶かす光景を見たいがために通っている。その上、騒いだ者がどういう末路をたどるかも知っている。そのため、それを放置しているという点で、決して無関係というわけではないのだが。


「少しいいか?」


 話に出てきた馬鹿がハルトだと見当をつけたリーゼロッテは、臆することなく男たちに近づいて声をかけた。

 こんな裏通りで絡んでくる女に不信感を抱いたのか、男たちは少しいぶかしそうな顔をしてから、リーゼロッテの閻魔のような表情を見て、小さく悲鳴を上げた。


「な。なん、だよ?」

「その男、どうなったんだ?」


 酒場のことを漏らせば自分たちが殺されるかもしれない。青年たちはそれを十分理解していたが、目の前に迫った死の恐怖には敵わなかった。


「み、店の裏に連れて行かれた。そのあとのことは知らない」

「知らないわけがないだろう?」


 もう一歩、詰め寄ると、青年たちは小さく悲鳴を上げた。


「た、多分だけど、売られると思う」

「その店はどこにある?」


 さすがに場所を言うわけにはいかないと青年は決意する。そんな彼を見て、リーゼロッテは無言で背中の大剣に手をかける。獲物を狩る虎のような目つきが、決して脅しではないことを物語っていた。

 目の前に迫った死の恐怖で、青年はあっさりと白状した。


「こ、この通りをまっすぐ行って、二つ目の交差点を右に入ったところだ。一軒だけ鉄の扉だからすぐわかるはずだ」

「わかった、ありがとう」


 それだけ言ってリーゼロッテは足早に立ち去る。

 どういう状況か、正確に理解はできなかったが、連れて行かれたことはわかった。明日になれば奴隷として売られるだろう。

 しかし奴隷としても使えないと判断された場合、もう殺されている可能性もある。


 鼓動が早くなり、背中に担いだ剣がやけに重く感じる。


 居ても立ってもいられず、リーゼロッテは走り出した。


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