↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
33/35

第33話 ハルト、捕まる(3)

「うぅ……」


 意識が戻ったハルトがうめき声を上げる。

 後頭部の痛みと激しい吐き気に耐えながらまぶたを持ち上げると、誰かの足が見える。視線を上に向けると、先ほどの勝負師と後ろでハルトを取り囲んでいた連中の顔が映る。


 ハルトの意識が戻ったことに気がつき、勝負師の男が意地の悪そうな表情を作る。


「おやおや、気がつかれましたか」

「……ここは、どこだよ? 俺に何するつもりなんだよ? お前らは何者なんだよ?」


 錯乱したハルトが矢継ぎ早に質問をすると、男の顔が怒りに満ち、思いっきり腹部を蹴り上げた。

 いきなりの攻撃に苦悶の表情を浮かべ、堪えきれずに胃の中の物を思いっきりぶちまける。


 そんなハルトの姿を見て、男は汚いものを見るような表情を浮かべ、唾を吐きかけた。


「まったく、育ちが悪いですね。質問は一度に一つと教わりませんでしたか?」


 言葉尻は先ほどと変わらないが、態度は高圧的になっていた。


「私たちの店で騒いだあなたを、これから奴隷として売ります」

「奴隷って、何を、させるつもりだよ?」

「それは買い手が決めることですよ。ですが、それはもう、想像を絶する苦痛を与えられてから、殺されるでしょうね」


 男が嘘を吐いていないのは、目を見ればわかる。


(俺は、殺されるのか?)


 ハルトの手は後ろ手に縛られており、両足首に枷を付けられている状況だ。戦うことも逃げることもできない。リーゼロッテもまだ食事を楽しんでいるだろう。それに、彼女は今怒っている。率先して自分を探すとは思えない。今、ハルトはこの男たちに運命をゆだねる他にない状況だった。

 初めて感じる死の恐怖がハルトに襲い掛かる。死にたくないと思えば思うほど、自分の意志とは関係なく体が小刻みに震え、歯がガチガチと鳴る。そしてまた、腹の奥から何か気持ち悪いものがせり上がってくる。


 震えるハルトを見て、勝負師の男だけでなく、先ほどまで彼を取り囲んでいた男たちも一緒になって、笑い出す。

 この男たちもグルだったのか。ハルトはそこでようやく、あの酒場が人を狩るための場所であることを理解した。


(くそっ、どうしてだよ!?)


 ここまでずっと上手くいってきたのに、どうしてこんな目に遭わないとといけないのかと、苛立ちすら覚えてくるハルト。それもこれもすべてリーゼロッテが機嫌を悪くしたからだ。そう思い、さらに苛立ちが募っていく。


 しかしそんな感情も、床に伏したメアリーのことを思い出した途端、吹き飛んでしまった。


 ハルトがもしこの場で殺されてしまえば、彼女に薬が届くことはなくなる。リーゼロッテがいくらお人好しだとしても、一度しか会ったことのない少女のために、命を懸けて魔竜を倒そうとはしないだろう。つまり、ハルトの死はそのままメアリーの死に直結する。

 そのことに気がついたハルトは、自分の行いがそのままメアリーの運命を左右することを、ようやく心の底から理解した。


(最近、上手くいってたから調子に乗ってた。俺が調子に乗れるのは、メアリーが回復したときだけなんだ)


 今更気がついたところで、この状況を打開する術はない。唯一信頼してくれていたメアリーを道連れにしてしまったと思うと、涙があふれ出てきた。


「おいおい。この男、殺されるって聞いたら泣き出したぜ」

「さっきまでの威勢はどこへいったんだよ、ハルトさんよー?」


 先ほどまで取り囲んでいた男たちが口々にハルトをあおり、嘲り笑う。


 彼はそんな男たちのことなど意にも介さず、自分が取り返しのつかない状況を作ってしまったことに、ようやく気がつき、涙を流していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。