第31話 ハルト、捕まる(1)
「おい! これイカサマだろ!!」
ハルトが酒場中に響き渡る声で叫ぶ。その声に酒場にいた全員の視線がハルトに集まる。
「何を言うのですか、言いがかりはやめてください」
「言いがかりじゃねーだろ。この子供はどう説明するんだ?」
「この子は私の甥っ子ですよ。私が勝負で稼ぐ理由の一つです」
「甥っ子にこんなボロ布着せて、あざだらけにしてる叔父がどこにいるんだよ?」
「最近保護したものでして。皆様のお目を汚さぬよう、ここに隠れてもらっておりました」
勝負師の男が言っていることは、誰が聞いても苦しすぎる言い訳であった。
しかし男は至極冷静で表情も口調も何一つ変えず、淡々としていた。
「そんなウソが通じるかよ。なぁ、みんな」
ギャラリーに同意を求める。酒場内はハルトの言葉に騒然としていた。他のギャンブルに興じていた客も手を止めて、彼を見つめている。しかし、誰一人として加勢する者はいない。
何か空気が変わった。しかし、ここで引くわけにはいかない。
ハルトが勝負師の男に向き直る。勝負師の男はその鋭い視線に対しても、まったく動じなかった。
しばらくしてマスターがゆっくりと二人に近づいてくる。
「あの、お客さん。ここで騒がれると困るので、店の奥でお願いできますか」
「俺はいいぜ。ただマスター、あんたも同席してくれよ」
「かしこまりました」
「わたしも構いませんよ。では、参りましょう」
マスターに連れられて、カウンター後ろにある、従業員用の扉の奥に通されるハルト。
その扉が閉まり切り、店からハルトの姿が完全に消えた、そのときだった。
「あがっ!」
後頭部に衝撃が走った。
視界が一気に白く染まり、足元がぐらりと揺らぐ。平衡感覚を保てなくなり、踏ん張ることもできず、床へ倒れ込む。
強烈な吐き気が襲いかかってきて、胃の中の物をぶちまける。喉に何かが詰まり息苦しくなり、盛大に咳き込む。
苦しむハルトを、まるで悪魔が微笑んでいるような不気味な笑顔で見下ろす勝負師の男。
「まったく。騒がずに素直にお金を差し出しておけばいいものを。おいお前たち、この男を奥へ連れて行きなさい」
「へい」
裏で待機していた勝負師の男の部下たちが、素早くハルトを持ち上げる。
(なん、なんだ、これ……)
状況も理解できないまま、ハルトは意識を手放した。




