第22話 鉱石を求めて(5)
十五分ほどで洞窟の前にたどり着いた。洞窟は長年使われていないのだろう。入り口は苔むしており、岩肌を力任せに掘り抜いた洞窟はいびつに歪んでおり、光が当たる入り口以外は真っ暗だ。
風が通るたびに洞窟の中からうめき声のような音が聞こえ、ハルトたちの侵入を拒んでいるように感じる。
命を飲み込むかのように口を開けている洞窟に、ハルトは自然と恐れをなし、二の足を踏んでいた。しかし、
「では、行くか」
そう言って、リーゼロッテは躊躇なく洞窟に入っていった。
あまりにも堂々とした姿に、ハルトはどうしたらよいのかわからず少し呆けてから、慌てて洞窟に消えていくリーゼロッテを追いかけようとしたが、
「ハルト! 下がれ!!」
その声に思わず脇に飛びのいた。
野太い声とリーゼロッテの剣が何かを防ぐ音が聞こえる。そのあと、彼女も外に飛び出てくる。
先ほど、洞窟から聞こえてきた声の主だろうか。洞窟から、三メートルはあろうかという大きな熊が、唸り声を上げながら出てきた。
ハルトは、慌てて熊の能力を測る。しかし数値も能力も表示されない。
(なんで肝心なときに役に立たないんだよ!!)
苛立つハルトは何度も能力を使うが、やはり何も浮かんでこない。
焦る彼を横目に、リーゼロッテは何を思ったのか剣を背中の鞘に戻し、素手で構える。
「何をしてるんだ!」と叫びそうになったハルトだが、熊の突進を見て、恐怖で体が固まり、声は出なかった。
リーゼロッテはその突進を容易く避ける。熊は体を旋回させて立ち上がり、体ごと右腕を振り下ろす。
人間を潰してしまうほどの威力を持ったその一撃を、リーゼロッテは左手一本で受け止める。そして、熊の鼻先をかすめるように右腕を振り抜いた。
すると熊はひるんで数歩後ろに下がる。その後、野太い声を上げて威嚇する。ちらりと見える鋭利な牙は、人間の肉など容易く貫通するだろう。
しかし、リーゼロッテが臆することもなく一歩前に進むと、熊は敵わないことを悟ったのか、一目散に逃げ出した。
彼女は追いかける素振りを見せることもなく、その姿が完全に見えなくなってから一つ息を吐いた。
ハルトはそこで、先ほどの熊が魔物ではなく動物であると気がついた。
彼の能力は人間と魔物、あとは一部の魔法道具にしか効果がない。この熊が動物であれば能力が見られないのは当然だ。
「野生の熊がねぐらにしていたようだな。鉢合わせたとき、向こうも少し困惑していた」
「あんな暗い洞窟の中で、よくわかったな」
洞窟の中は光一つ入らない闇の世界だ。さらに先ほどの熊の体毛は黒色で、外から見ていたハルトはリーゼロッテが何を受け止めたのか、そして何の声なのかすらまったくわからなかった。
「暗い夜道もよく歩いたからな。目は利く方だ」
目が利くなんて話ではないが、リーゼロッテならおかしくないと思ってしまう。
「どうやらあのクマ以外に何も住んでいないようだ。先に進もう」
そう言ってからリーゼロッテは、先ほどのことなどなかったかのように、洞窟に足を向ける。やはり彼女は別格だと思いながら、ハルトはそのあとを追って洞窟に入る。
洞窟の中は冬かと思うほど寒かった。
よく見えないが天井も道幅も不揃いで、頭をかがめたり横向きになったりしなければ進めず、そのたびヌルッとした嫌な感触と、氷のような冷たさが肌を撫でる。
足元も平らではなく、大小さまざまな石が転がり、踏みしめるたびに石がこすれる音が聞こえる。
そして外からは水が滝つぼに叩きつけられる轟音が響き、その振動が伝わってくる。時折吹き抜ける風が不気味な声を作りながら、不規則な動きで洞窟内を抜けていく。
暗闇と足場の悪さに悪戦苦闘しながら、リーゼロッテの赤い髪を目印に洞窟を進むと、光が差し込んでいる場所が見えてきた。
「もう少しだ」
「ああ」
ここでもう一度、何か問題が起こるのではないかと身構えていたハルトだが、一度頭をぶつけたくらいで、問題なく洞窟を抜けられた。
「眩しいな」
暗闇に慣れていた目へ、外の光が一気に押し寄せる。ハルトは手で影を作り、目をほとんど閉じたまま、辺りを見回した。
水の落ちる勢いも爆ぜるような音も変わらない。だが川の位置が逆になったので、間違いなく対岸にたどり着いたことはわかった。
「何とかなったな。少し休憩にしようか」
そう言って荷物を下ろすリーゼロッテ。ハルトも倣って荷物を下ろし、自分もその横へ腰を下ろす。
「ちょっと、長めに休憩していいか?」
「いいだろう。せっかくだ、昼ごはんにしよう」
「ああ、そうだな。もうちょっと景色が良かったら完璧だったんだけど」
目の前で落ち続ける水の塊は、あまりにも勢いが強く、風情よりも恐怖を感じさせていた。




