第21話 鉱石を求めて(4)
「やっぱり、ムリだよなぁ」
十メートルほど先に広がる濁流は昨日よりも幾分か弱まっているものの、飲み込んだ木々を下流に押し流すほど強く、とてもではないが人間が泳ぎ切れる状態ではない。二十メートルほど向こうが対岸のようだが、それすらも時折見えないほど水面は荒れ狂っていた。
それに山頂の方は黒い雲に厚く覆われており、少し木々が霞んで見える。この辺りとは違い、また雨が降っているのだろう。
しばらくこの濁流は続くだろう。何か別の方法を探さなければ先には進めない。
旅立ってから一日しかたっていないが、メアリーが呪いにかかってからは八日も過ぎている。残された時間は着実に減っていく。ハルトは焦り、目の前の濁流を忌々しく見つめていた。
「ハルト、上流に行ってみよう」
「上流に?」
「ああ。もしかしたら別の道があるかもしれない。体力を消耗しすぎるのも問題だが、時間が惜しい。とにかく動いて、別の方法を探そう」
「ああ、そうだな。ありがとう、リーゼロッテ」
「礼には及ばんさ。さっそく行こう」
リーゼロッテとともに上流へ向かう。
あまり川に近づくと鉄砲水に飲み込まれるかもしれないので、少し離れた森の中をかき分けながら進んでいく。
この辺りも数日前は雨が降っていたのだろう。ぬかるんだ地面が泥をはね上げ、かき分けた草木たちは容赦なく水を浴びせてきた。
時折現れる岩には不規則な高低差があるだけでなく、濡れて滑りやすくなっており、ハルトは何度も転びそうになりながら、必死にリーゼロッテに食らいつく。
道なき道をかき分けているだけでなく、足元も視界も悪い上に登りが多い。時折現れる魔物はリーゼロッテが容易に斬り伏せているが、油断することはできない。
そんな極限状態のハルトの体力はどんどんと削れていき、息も絶え絶えになっていく。日差しが木々に遮られてほどよく和らぎ、水気が多いからか涼しいのが唯一の救いだ。
上流に行けば行くほど、そばを流れている川の音が大きくなっていく。小一時間ほど歩いたところで、それが川の音ではなく、滝が落ちる音だと気がついた。近くに滝があるのだろう。
森の中からでは滝はおろか、川の状況すら見えない。
一度森を抜けて川へ向かうと、二百メートルほど先に石の壁がそそり立っており、二十メートルほど上から大量の水が流れ落ちてきている。その勢いは恐ろしいほど強く、落ちてきた水が地面を深く抉り、泥を巻き上げながら下流へと流れていく。
昨日はさらに激しかったのだろう。滝つぼの周囲の木々はなぎ倒されており、地面も大きくえぐれていた。
「恐ろしい光景だな。人間のちっぽけさを、改めて思い知る」
そう言うリーゼロッテだが、さほど驚いている様子もなく、どこか淡々としていた。
「それよりもあれを見ろ」と言いながら滝の横を指さす。そこには人が通れるほどの大きさの、見た限り人工的に作られたであろう洞窟があった。
もしかしたら向こう側に繋がっているかもしれない。そう思ったハルトは、期待で胸を膨らませる。
「ハルト、慌てるなよ。この辺りはよく滑る。ゆっくり進もう」
そう言って先導するリーゼロッテは、やはりというかまったく滑る様子もなく、舗装された道かと思うほど軽やかに岩々を歩いて行く。
ハルトは氷の上を歩いているような足場に悪戦苦闘しながら、無理に彼女を追いかけることはせず、とにかく慎重に歩みを進める。




