青木くん編第四話 青木くんの進路
僕は青木一樹。水泳をガチでやっていた中学三年生。
そろそろ進路を決めなければいけない時期だ。
でも僕の進路は決まっている。
武蔵野うどん栄高等学校という水泳の私立強豪校の保健体育科に推薦をしてもらう予定だ。
僕は中学三年間では上手く結果が出せなかったけど、小学校時代に結果を出していたので、推薦をしてもらうことができた。
でも僕には他に行きたい高校ができてしまった。
そのことを今から僕が通っているスイミングクラブ、さいたま市うなぎ区蒲焼の「うな崎スイミングクラブ」のヘッドコーチ。
稲垣憲一さんに伝えないといけない!
***
僕は久しぶりにここにやってきた。
……正直不安だ。一喝されないかな?
「稲垣ヘッドコーチ! 練習サボってすみませんでした!」
僕は稲垣さんを見つけ、すぐに大きな声を出して腰を直角に折り曲げて頭を下げ、心からの謝罪をする!
「おう。一樹戻ってきたか! いやー! もう来ないかと思っていたぞ」
「え!?」
一喝されると思っていたのに、優しい言葉をかけられて僕は目が点になる。
稲垣さんの頬は少し緩んでいるように見える。
「怒らないんですか!?」
「瀬奈から連絡はきていたからな!」
「瀬奈ちゃんが……!」
やっぱり瀬奈ちゃんは最高の彼女だ! 稲垣さんは僕の肩を優しくポンポンっと叩いて、さらに言葉を続ける。
「お前はまだ子供だからこういう時期もあるさ! これからオリンピックを目指せばいいんだよ!」
「それが……稲垣ヘッドコーチ! お話があるんです!」
嬉しい声がけに、僕は少し涙が出そうになったが、ちゃんと話さないと!
稲垣さんは「おう? 言ってみろ!」っとだけ言って僕が話し出すのを待ってくれている。
少し時間を置いて僕は、こう言った。
「僕はどんだけ頑張ってもオリンピックに出られないみたいです。信じられないかもしれませんが、未来からきた……らしい、同級生の林修くんがそう言っていたんです」
「林修くんが言ってたならそうかもしれないな」
「え!? 稲垣さん。林くんを知っているんですか!?」
僕はまた目が点になる!
「ああ! 有名人だからな! 林くんは本当に未来からきたらしいぞ! 不動山親方が『そうとしか考えられない』って言ってたからな!」
「そ、そうですか……」
今度は目が点になるどころじゃなく、全身が固まり何も次の言葉が出てこない……
「で、一樹。話はなんなんだ? ゆっくりでいいから話してみろよ」
あ! 大事なことを言わなくちゃ!
「進路なんですが、僕は武蔵野うどん栄高等学校じゃなく、うなぎ自由高校に行きたいんです!」
「それはなんでだ?」
稲垣さんは優しい口調で疑問をぶつけてくる。
僕はゆっくりと前日に陸と考えた台本を思い出し、スーハーっと深呼吸をしてから話し出す。
「武蔵野うどん栄高等学校の水泳部は本気でオリンピックを目指す子しか行かないじゃないですか? でもうなぎ自由高校の水泳部ならカジュアルにやってもいいし、本気でやってもいいらしんですよ! そこなら大好きな水泳をやめなくてもいいじゃないですか!」
僕の言葉を聞いた稲垣さんはニヤっとしてこう言った。
「いいんじゃないか? でも一つだけ教えてくれ。お前は本気でやるのか?」
答えは決まってる!
「本気でやります!」
水泳を続ける以上には目指す舞台はオリンピックだ!
あんなヤツの言うことなんて信じられない!
「おう。わかった。うどん栄の監督には俺から伝えとくわ。ただ親御さんにはお前から言えよ!」
「はい!」
僕は今日の練習には参加せずに帰宅した。
***
——青木一樹帰宅
僕の家はうなぎ区ではそこそこの広さのマンションだ。
両親は僕が水泳をがんばっていることを、応援してくれている。
「ただいま! お母さん! お父さん! 話があるんだけど!」
今日は両親共に仕事が休みだ。僕は帰宅後すぐにリビングに向かった!
リビングの扉を開ける。——すると……
「青木くん。おかえり〜! 遅かったね!」
なぜか林くんがリビングにある四人がけのテーブルのイスに両親と共に座っている!
「えぇ!? なんで林くんがいるの!?」
僕はびっくりして飛び上がりながら、疑問を聞く!
「一樹おかえり! 話があるんだろ! 座りなさい」
お父さんに促され、両親の向かい側の林くんの隣に座る……
……いろいろツッコミたいけど。林くんは無視しよ! 無視だ! 無視!
「お父さん。お母さん。進路なんだけど俺は! うなぎ自由高校に進学したいんだ! うどん栄には行かない!」
二人に僕の決意を高らかに宣言する!
お父さんは真剣な顔で黙って、お母さんは「うん。うん」と相づちを打ちながら笑顔でうなづいて聞いてくれた!
「そうか……稲垣さんには相談したんだな?」
お父さんは少しと考えた後、優しい声でこう聞いてくる。
「うん! それで『いいんじゃないか』って言ってくれたんだ!」
「よし! わかった! うな高への進学を許す! お母さんもそれでいいだろ?」
「うん! いいわよ!」
「え!? いいの!? ヤッター!!!」
二人が認めてくれた! 僕は嬉しくって勢いよく立ち上がりガッツポーズを決める!
「でも一樹。一つ問題があるみたいなのよ……」
「なに? お母さん?」
「実はうな高のプールのヒートポンプが壊れたみたいなの。このままじゃ水を温められないみたいなのよ……」
「え!? そんなこと初めて知ったよ……! 困ったな……寒くなってきたらどうするの?」
「でも! 大丈夫なんだよ青木くん」
ここで林くんが話しに入ってきた!
「謎の財団『しゅー財団がうな高に寄付してくれるみたいなんだ! このツイート見てよ!」
林くんはスマホを取り出しXのポストを僕に見せる!
そこにはこう書いてあった。
『私たちはしゅー財団! 埼玉県さいたま市うなぎ区生まれの大富豪によって作られた。正義の財団である! 今日はその一回目の寄付を発表する! それは「うなぎ自由高校のヒートポンプを寄付する」ことだ!』
「こ、これは……! 本当なの!? 林くん!」
僕は嬉しさのあまり、目が点になる!
「それが、ホントみたいなんだ! 世の中には良い人がいるもんだね!」
林くんは太陽のような笑顔を僕と両親に向ける! みんなで飛び上がって喜んだ!
僕はすぐに陸にもロインを送った!
この後、家族3人と林くんで晩ご飯を食べた! 陸からは既読スルーされて、返事が返ってこなかった。
……いつも既読スルーなんてしないんだけどな……なんでだろう?
今はそんなことどうでもいいか!




