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シオンの咲く白昼夢 -ルブリケイティング/カテゴラ-  作者: yutsuki


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第ニ話 “塵溜め”

内容は簡潔に書かれていた。


・カテゴラである貴方を歓迎します

・我々は貴方の味方です

・来週金曜の夜21時にお店でお待ちしております


一体、どういうことだ?

お店が訳ありなのは理解できるが、“カテゴラ”の名称が出てきたことに度肝を抜かれた。


眠気に襲われた日曜日を乗り越えて気が付けば月曜日。

なんとも言えない気分で教室に入ると、目を輝かせた夜咲がこちらに顔を向けていた。


「照内くん、照内くん!おはよう!」


「うん、おはよう」


「土曜日は楽しかったね!また行こう!」


とてもご機嫌な夜咲は少し声が大きく、クラスメイトからとても視線を感じたが……気にしないことにした。


だが席に付くと早速声を掛けられた。


「なぁ灯弥、夜咲とデートしてきたのか?」


「カズキか……土曜日出掛けてきたよ」


「デートだろ??」


うぜぇ。

ま、カズキのことだ。適当に返事をしておけばいいか。


「あぁ、そうだな」


「やっぱりか!そうなんだな!」


あぁ、そうだな。

心の中でも適当な返事をしたあと、ふと横を見ると夜咲が顔を赤らめこちらを見ていた。

咄嗟に顔を逸してしまったが、俺まで顔が赤くなっていたらどうしようか。

そんな考えで頭がいっぱいになってしまった。


——2限目が終わり、あと1限を終えればお昼休み。ちょうどお腹の空く時間だ。

廊下がわらわらと生徒で騒がしくなる中、教室のドアに女子生徒が現れた。

どう見ても同学年ではない。


「照内灯弥くんはいますか?」


ドア付近の生徒に話しかけている。

あの容姿は——。


「小鳥遊先輩ですよね」


お腹を空かせ静かだったクラスメイトが再び俺へと目線を向けて、段々とざわつきはじめた。


「あれ……先輩か?」

「おいおい、すげー美人じゃね?」

「照内くんってモテモテなのね」


絶対に誤解されてる……。


「灯弥くん、こっち来て。ここじゃ話せないから」


小鳥遊先輩。更に誤解招くようなことを言わないでくださいよ。

と言う隙もなく手を掴まれ廊下の奥へと連れて行かれてしまった。


「ちょっと先輩、なんのつもりですか」


「ねぇ灯弥くん、なぜ君はカテゴラの巣に行ったのかな?」


「カテゴラの巣……?」


「例の喫茶店だよ」


あぁ。あの喫茶店か。


「と聞いたけど理由は知ってるよ。君が自ら探し出したわけじゃない」


「だけど、レシートとともにマスターに集会へ誘われてしまった。これが何を指すか分かるかな?」


何を指すか、ですか……。


「全く分かりませんね。そもそもそのカテゴラって能力を持っていることが何故バレたんです?」


「何も感じなかったのね。力を持った者はお互い何かこう、空気が擦れるような感覚があるんだよ」


うーん。さっぱり分からない。


「とにかく君はカテゴラの中で存在が特定されてしまった」


「カテゴラ同士は仲間意識が強くてね。集会に行かないと目をつけられるどころか……殺されちゃうかも?」


「……はい?」


今、この人は確かに言ったよな。

殺されるかも、と。


「大丈夫、私も今度の集会には顔を出すから。ただ——」


「くれぐれも気を抜かないようにね?」


「それはどういう……」


「政府から敵視されてる者たちの集いだよ……?碌なやつなんていないからさ。下手なことは言わないようにすればいいよ」


「わ、わかりました」


全然分からねぇ。店主はあんなにいい人柄だったのに、そんなこと言われたら怖すぎるだろ。


貴重な休み時間はほぼ消えた。

急ぎ足で教室に戻ると、夜咲が頬を膨らませて静かに机を眺めていた。


教室内にチャイムが鳴り響く。

廊下から消えた喧騒とは逆に、俺の脳内は小鳥遊先輩の言葉が鳴り響き胸騒ぎが止まなかった。


日は過ぎ、集会に招待された金曜日が訪れた。

20時半。

以前、夜咲と待ち合わせた場所に俺は立っていた。

本当に行くかまだ迷っている。


“集会に行かないと目をつけられるどころか……殺されちゃうかも?”


この言葉がもし本当だったら——。

確実に死ぬことになるだろう。

…………。

あぁ、どうせここまで来てしまったんだ。

腹括って集会とやらに行くしかないだろう。


吐き気がするほど高まる鼓動を抱えながら、前と同様に木々の隙間を進んでいった。

昼間とは全く異なる雰囲気の店は、豆電球に照らされたドアを中心に不気味で美しい異様な光景だった。

ドアに近付くと自動ドアかのようにゆっくりと動き始め、店内の光が一気に溢れだした。


「いらっしゃいませ、照内様」


「……何故俺の名を?」


「多くのお客様が貴方のご来店を楽しみにしておりました。さあ、お入りください」


答えてくれないか。

だが向こうも察しているのだろう。

心理戦はあまり得意ではない。ここは素直に従うとしよう。


店内に入ると、カウンターの向こう側にある扉に案内された。

よくあるパターンだな。

だが地下へと続く階段の少し奥に進んだところで鳥肌が立ち始めた。

ここから先の空間には濁った感情が漂っている。

進みたくない、そう身体は拒絶反応を示すものの店主からゆっくりと背中を押されてしまった。


「お前が例の少年か。よく来たな」


奥には店内と同じくらいの空間が広がっていた。

そして一番手前、木の机の傍で煙草を吸っていた男が声を掛けてきた。


「俺はそんなに有名人なのか?」


「あぁ。とは言っても、新人が話題になるのはいつものことだがな」


男は煙を吐きながら言葉を続けた。


「俺はタチバナだ。同胞として、これからよろしくな」


「照内だ。ここがどんな集会やってるのか分からないから気軽によろしくとは言わないぞ」


「ははは。警戒するのはいい心掛けだ。だがそこまで緊張するな、皆お前を歓迎しているよ」


その仲間意識の強さが怖いんだよ。

だがその言葉は心の中に留めておいた。

タチバナは友好的に見えて、瞳の奥底には隙を感じられない。

直感でしかないが、敵に回したら確実に“殺される”だろう。


タチバナが再び煙草を口元に持っていこうと手を上げたとき、横から人が歩いてきた。

小鳥遊先輩だ。


「やあ照内くん、ちゃんと来たんだね」


「先輩が怖いこと言うからですよ」


すると先輩は俺の耳元に近付いて囁いた。


「本当のことだよ。気を付けてね」


じゃあどうしろって言うんですか。

先輩はいつも核心を答えてくれない。


「なんだ、梓の知り合いだったのか」


先輩がタチバナのほうへ顔を向ける。

靡く長髪から漂うフローラルの香りが鼻孔を擽る。


「ちょっとタチバナ、名前で呼ぶのやめてって言ってるでしょう」


「おぉっと、そんなに怒るなよ。照内の前で少し格好つけただけだ」


「はぁ……。どこに格好つける要素があるんだか」


先輩は歳上相手にも一切の遠慮なく言葉を発している。

俺と話ししているときが優しいのか、タチバナに対してのみ当たりが強いのかは不明だが。


「さ、照内くん向こうに行くよ」


話を切り上げた先輩は俺の手を引っ張りながら、部屋の奥側へと移動した。

周りでは数々の会話が聞こえる中、先輩は俺だけに聞こえる声量で言葉を発する。


「照内くん。タチバナはこの集会で一番の危険人物と言っても過言じゃないんだよ」


「やはりですか」


「やはり……って察していたの?」


「ええ、目を見れば分かりますよ」


先輩の表情が変わるところをあまり見たことがないが、珍しく目を丸くしていた。


「へぇ。そういう才も持ち合わせてるのか……」


独り言を呟く先輩をよそ目に周りを見渡すと、酒で酔った3人組が何やら揉めていた。


「なんだとぉ!?」

「あぁ!?勝負するかぁ!?」


嫌な雰囲気だ。

何人かが煙草を吸っているせいで、部屋の中は煙草の臭いと煙が増していく。


「ざけんなてめぇ!」


ドガッ!


殴り合いが始まった。


「今のうちに帰るといいよ」


先輩は眉を顰め、喧嘩の様子を眺めながら言う。

俺も煙草臭いのは勘弁だ。帰るとしよう。


怒号が飛び交う空間を後にする。

階段を登っていくと店主が皿を拭いていた。


「おや、もうお帰りですか?」


「はい。喧嘩が始まったようなので」


「左様でございますか。ではまたのご来店をお待ちしております」


こうして無事に集会とやらを乗り越えることができた。

帰路についた途端、ドッと疲れが溢れ出てそこから翌日の起床までの記憶がない。

どうしたものか。もう二度とあの集会に行きたくない……と身体が言っている。


重たい身体に苛立ちを覚えながら家を出ると、家のすぐそばに小鳥遊先輩がいた。


「やあ」


「先輩、どうしてここに?」


「可愛い後輩があんな集会に巻き込まれたわけだからね。心配で見に来たんだよ」


「えぇ、確かに疲れましたよ。先輩はあの後もいたんですか?」


「ううん。流石に君が帰った少しあとに店を出たよ」


「あんな場所、もう行かないほうがいいですよ」


昨日のことを思い出し、顔を曇らせたままそう告げると、先輩は長い髪を靡かせ返事をした。


「そうだね。塵溜めに行くべきじゃない……特に君は」


そうして、気が付けば先輩はいなくなっていた。

いつものように、教室に入って夜咲に挨拶をする。

しかし、普段よりも少し元気のない挨拶だったのは気のせいだろうか。


こうして、また何気ない日常が帰ってきた。

——そう思っていた、この時は。

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