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シオンの咲く白昼夢 -ルブリケイティング/カテゴラ-  作者: yutsuki


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第一話 “終わりの始まり”

「好きです。付き合ってください」


「……ちょっと時間をくれませんか」


勇気を出して告白した金曜日の放課後。

返事は承諾でも拒否でもなく、保留だった。

帰りのバスはいつもと異なる雰囲気を帯びていて、斜陽が俺を励ますかのように視界を橙色に染めていく。


困ったように微笑む彼女の顔が脳裏から離れない。

これは断られる流れだろう。

しかし、どうしても期待している自分がどこかにいる。


感情が落胆と希望により混沌へと進んでいく。

きっとこの気持ちは返答が照らされるまで落ち着かないのだろう。

それでも明日からもいつも通りの生活を送らなきゃいけない。


はぁ。自分が火を付けた話だというのに憂鬱だ……。


やがてバスは終点に到着し、ステップを下る。

ふと、自宅近くの寺が気になった。

普段なら通り過ぎるはずの門の目の前を、今日だけは不思議と無視できなかった。


ゆっくりと敷地内へと足を踏み入れる。

同時に時間が止まったかのように静寂に包まれた。

余りの異様な雰囲気に足を止めそうになったが、それ以上に興味を引く”何か”がそこにはあった。

灯籠の影。暗く見えないがそこにある。


いや、あるというよりも「いる」のだ。


すみません。聞こえますか……?


気が付けば声を掛けていた。

おかしな話だ。明らかに人はいないのに。

だがその”何か”は応えるようにこちらを向く。

もちろん姿は見えない。

そしてそれは目の前にいた。瞬刻の出来事だった。


不思議と怖くはない。

まるで元から自分の一部だったかのように、それはごく自然に体と同化していく。


「君が次の”イヌ”なのか」


声が聞こえた刹那、灯籠の奥から一人の女性が歩いてきた。

今度はハッキリと人間だった。


「戌……?なんの話ですか?」


「君が手に入れた力の話だ」


「あぁ、ごめんね。私は貴方より一学年上の“小鳥遊たかなし あずさ”」


「君はもう国から殺処分対象になったんだよ。たった今ね、照内てるうち 灯弥ともやくん」


「!?」


「どうして名前を……というか、どういうことか説明してもらえますか」


「もちろん。まずはカテゴリについての説明から入ろうか」


「カテゴリ……ですか」


この世界の裏側と歴史を簡単に語ろうか。

まず君が手に入れた力は”カテゴリ”と名付けられていて、それを使う者は”カテゴラ”と呼ばれる。


で、カテゴラは単純に言うと特殊な力が使えるようになるんだ。様々な種類はあるけれど、君は戌だね。嗅覚が鋭く、早く走ることも敵に噛み付くことだって容易にできる。

他にも龍だったり、虎だったり色んな人がいるね……あぁ、これは知られると弱点も判ってしまうから私のは教えないよ。


そしてもう一つ、私たちとは真逆の立ち位置にいて特殊な力を手にする人たちもいる。

その人たちは“スペルシア”と名付けた力を使っているんだよ。スペルシアを使う者たちは自称、正義のために部隊を組んでる。


主な力は自然現象だと思ってもらえればいいよ。炎だったり水だったり……色々だね。

それで、スペルシアの使い手は私たちとは真逆の立場だと伝えたけども……簡単に言えばカテゴラを殺しに来る。


——何故かって顔をしているね。

それはカテゴリという力の根源が厄災だからだよ。

病、災害、不作などマイナスの面は、神の祟だとして人々が一日も早く解決するよう懇願した。

こういった負の感情がカテゴリという力を生み、その地域の呪いに似たものとして力を持ったものが現れるようになった。


そりゃ恐れるよね。一般人から見ればバケモノみたいな力しか使わない。

結果、力を悪用する者だって現れた。


ではスペルシアはどうなんだって顔をしているね。

スペルシアの根源は、かつて人々が神に祈りを捧げていたことから始まる。

人は、神に対し己の希望や願いを告げる。そしてある時には感謝を述べ、貢物を用意する。

そうした人々の明るい感情が集まり、力となったのがスペルシアなんだ。


結果的に、スペルシアは神聖な力として崇められた。

そういった経緯もあってカテゴリ=悪。スペルシアvsカテゴリという構図ができたというわけだ。


「どう?少しは理解できたかな?」


「あの……いきなり情報量が多すぎて整理しないと難しいです」


「まぁ、そうだよね」


「それじゃ、手始めにそこにいる化物と戦ってみようか」


「化物ですか!?」


「そうそう、カテゴリにすらならない溢れた負の感情は化物になって生まれるんだよ」


「化物の討伐も本来はスペルシアの仕事なんだけどね。そこにいる狼みたいなの弱そうだし戦いは一回経験したほうがいいよ」


「でもどうやって戦えばいいんですか!?」


「うーん。相手を本気で殺そうとしなきゃ自分が殺されるよ?」


戦い方に戸惑っている間に化物はすぐそこまで迫ってきていた。

本気で殺そうとしなければ自分が殺される——その言葉が再び脳裏で響いたとき、本能的に体が動いていた。

まるでクラウチングスタートを始めるかのように手足を地面に置き、一気に飛び出す。

一心不乱に化物へ頭突きをすると同時に右手を胴体に向けて殴りつける。

狼の見た目をした化物は強く転倒するも、もちろん顔をこちらへ向け反撃しようとする。

だが反撃なんてさせる暇は与えない。

体勢を一気に屈めて首元へ潜り込む。

そのまま噛み付くと同時に全力で噛み千切る。

——自分の体も化物も動きが止まった。

そう、殺したのだ。化物を。

俺は息を切らしながら、唸りをあげドロドロに溶けていく化物を眺めていた。


「センスあるね、君」


「先輩は普段から戦ってるんですか……?」


「いや?戦いは嫌いだからね。久しく面白いものを見させてもらったよ」


「それじゃあ、私は帰るから」


「え、ちょっと……」


「あ、忘れてた。私のことは梓でいいよ」


「じゃあね、灯弥くん」


一人で喋るだけ喋っていた梓先輩は身を翻して颯爽とどこかへと消えていった。

束の間に暗くなった空に淋しさを覚えながら、俺はポツリと呟いた。


「あぁ、疲れた」


次の日。


昨日の出来事は全て夢だったのではないか、と思うほどスッキリした目覚めだった。

制服に着替え、砂糖を2杯入れたマグカップにインスタントコーヒーを目分量追加してお湯を注ぐ。

そして家にある惣菜パンを適当に選び、手に取りコーヒーとともに流し込んでいく。

朝の1分は貴重だ。

その後は学校へ行く準備を諸々済ませて家を出る。

今日はいつもより3分も早く家を出た。順調だ。

自転車を走らせ大きな通りへ出ると、大きな確率で友人と鉢合わせる。


「おはよ、カズキ」


「よぉ〜灯弥!昨日はしっかり眠れたか?」


「あぁ、不思議とな。自分でも驚くくらい快眠だった」


「振られた後でショックが無いとはな……さては鋼のメンタルの持ち主か?」


「いや、まだ振られたわけじゃないからな。そうさ、振られたんじゃない」


「本当に大丈夫か……?ま、元気そうだからいいけどさ」


カズキとは普段通りの他愛のない会話を続け、学校に到着したあとは教室に入る。

この瞬間は流石に無意識下で拒否反応が出ていたが入らないわけにはいかない。

既に開いている扉を通り抜け、自席へと向かう。

その途中に夜咲やざき 千花ちかがいる。

俺が告白した相手だ。

うん、気まずい。

ここは挨拶せずに一旦スルーして行くのが無難だろう。

……だが彼女は違ったようだ。


「おはよう、照内くん」


「あ、うん。おはよう」


あ、うん……ってなんだその返事は。

ヘタレか。

挨拶されたならされたでもっと明るくしろよ自分。

まずいな……変に意識してしまうせいで、絶対に向いていないであろう視線を感じてしまう。

自意識過剰ってやつだ。

あぁ、今日はもう疲れたな。


そうして、常に視線を感じた1日は無事に終わり……また日常が戻ってきた。

だが一つ変化はあった。

それは、夜咲から話しかけに来てくれるようになったことだ。

そうして数日が経過した。


夜咲からの挨拶にも慣れてきた頃、いつもとは異なる雰囲気で話を切り出された。


「今度の土曜日さ、空いてたりしない?」


「あぁうん、空いてるけど」


「ほんと!?じゃあさ、ちょっと行きたいところあるんだけど……一緒に行かない?」


おっと、これはデートの誘いか?

なんて浮かれて勘違いするのが俺の悪いところだな。


「いいよ。どこ行くんだ?」


「その……駅方面にある喫茶店なんだけど……」


ほう。喫茶店なら女子の得意分野ではないのか?


「一緒に行けば分かるよ!土曜日はよろしくね!」


こうして約束は唐突に決定し、話は強制終了した。

だが夜咲と出掛けられるならデメリットなど無い。俺はウキウキだった。


——当日。

自分では一番似合っていると思う服を着て、髪は派手すぎない程度に遊びを加えながら整える。

5分ほどしっかり歯を磨き終えたあと、鏡をもう一度確認してから家を出る。


そうして、集合時間の15分前には着くのだ。完璧。

3分、5分、スマホでSNSを開いては閉じてを繰り返す。妙に時間が長く感じるのもあるが、とにかく落ち着かない。

そりゃそうだよな。好きな女の子と出掛けるんだ、落ち着くわけがない。なんて自分に言い聞かせることしか今はやることがない。


「ごめーん!お待たせ!」


夜咲の声だ。あぁ、待ってたさ。


「よっ。夜咲」


「遅れちゃってごめんね!少し道に迷っちゃって……」


「迷った割には、まだ集合時間の5分前だよ」


そういうところも含めて好きなんだよ。


「それで、場所はすぐその辺りの店だったよな?」


「そう、マップではね」


「マップでは……?」


「口コミも全然ないし、あっても“見つかりませんでした”って書いてあるの」


おっとそれは——。


「その喫茶店は本当に存在するのか……?」


「それを確かめるために、照内くんにも協力してほしいの」


なるほどな。そういう事だったのか。


「まずは店の地図情報を俺に共有してくれないか?」


ピロン。

通知で点灯したスマホを覗き込む。


「うーん。確かに地図ではその辺りに存在しているな」


しかし見当たらない。

だが、こういった謎を解くときに自身の常識に囚われていると答えが閉ざされてしまうこともある。


「周辺一帯が木々で生い茂っているよな……」


「うん、そうだよね。それがどうかしたの?」


「木々の奥に店が隠れている……とか?」


いや常識がなんたらと自分で考えておいて安直すぎるか。


「確かに!探検……してみよっか!!」


おいマジか。

——仕方ない。提案したのは俺だ。


「じゃあまずは……そこの木々の隙間から行ってみるか」


体の向きを横に変えないと通れないであろう細さの道……いや道ではない、空間をゆっくりと歩んでいく。

どんな危険があるか分からないため俺が先導を名乗り出たが、正直言って怖い。


ブーーーン

どこからか羽音が聞こえ、俺は一瞬硬直した。

正直言って、虫も怖い。

だがそれは夜咲も同じだったようで、“きゃっ”と声を上げた後に俺の肩へと倒れ込んできた。


微かに香る甘い香りとともに、さらさらとしたセミロングの髪が手の甲に降り注ぐ。

心拍数が急激に上昇し、喉の奥が詰まる。


「だ、大丈夫か?」


「ごめん、びっくりしちゃって……」


「俺は大丈夫だから、ゆっくり行こう」


「うん、ありがとう」


会話の中でさり気なく手を繋いでみた。

これで振り解かれるようだったら今日はもう帰ろう。

そう思っていたが、夜咲も少し強めに手を握り返してくれた。

……ここは少し不気味だ。無理もないか。


暫くして、奥が見えてきた。

距離は大したことないが、曲がり道のため先が見えない中進んでいた。


「これは……」


お洒落な喫茶店だ。

まるでアニメや映画に出てくるのではないかと思うほど、神秘的な雰囲気が漂っている。

木々の隙間から差し込む光に眩しさを覚える。


「照内くん……ここだよ!!」


「なんで分かるんだ?」


「それがね、別のサイトでも調べてたら“幻想的”とか“木々の中に佇む店”って書いてあったんだよね」


なるほどな。ここじゃん。


「どうする?店に入ってみるか?」


「うん……、ちょっと怖いけど。折角だし行ってみようよ」


喉をゴクリと鳴らしたあとにゆっくりと店のドアを開ける。

カランカラン……

洒落たこの空間によく合うドアベルが鳴り、奥にカウンターが見えてくる。


「いらっしゃい」


全てが映画のセットではないかと思うほど完璧な空間には、まさにイメージ通りの渋めな店主が立っていた。


「あのー、2人なんですが」


「そこの席、どうぞ」


カウンターと少しのテーブル席がある店内だが、他に客は見当たらない。

案内されたのは二人用のテーブル席だった。

机上に置かれたメニューを2人で眺めてから、暫くして店主がお冷を持ってきた。


「注文いいですか?」


「はい、お伺いいたします」


「コーヒーを2つと、プリンアラモードを1つお願いします」


プリンアラモードは夜咲が食べたいようだ。

俺も何か頼もうかと思ったが、コーヒーが届いてからでもいいかと考えた。


それにしても静かな店に寡黙な店主。

他に客の姿は無し。

どうやって経営してるんだ?

本当によく見つけたな。


「なんというか……隠れ家的な店は達成感があるな」


「分かる!この空間に浸るだけで一日過ごせる気がするよ」


そんな雑談をしているうちにコーヒーとプリンアラモードは到着した。

ここはまずブラックで一口……ん?


「美味い……!」


「ね!すっごく美味しい!」


驚いた。コーヒーに美味しさは多少あることは知っているが、感動したことはない。

それが今、初めて感動している。


「照内くん」


「ん?……あむ」


夜咲から声をかけられ顔を向けたところ、そのまま口に甘味が広がった。


「プリンアラモードも美味いな!」


食べたことなかったが、とにかく美味い。

夜咲も笑顔で頬張っている。可愛い。


ところで……。

今のは間接……キス……だよな?

……え?


脳裏に間接キスが焼き付いたまま他愛もない話をして、そろそろ帰宅しようかと話が進んだ。


「すみません、お会計をお願いします」


「はい、少々お待ちください」


皿やマグカップを拭いていた店主は、伝票であろう紙を持ちすぐにこちらへと来た。

夜咲も財布を準備したが、ここは格好つけさせてもらおう。


「俺が払うからいいよ」


「え、でも悪いよ」


「じゃあ、次会うときに頼む」


「うん、それなら……わかった」


店主へお金を払うと、レシートと何かもう一枚紙を渡してきた。


「ぜひ次も彼女さんとお越しください。ご来店ありがとうございました」


か、彼女……。

夜咲にもそれは聞こえていたようで、二人して恥ずかしそうな顔をしながら店をあとにした。


その夜。

自室で店主から渡された紙を広げた。


——カテゴラの貴方へ。


鳥肌が止まらない俺は、眠れぬ夜を過ごした。

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― 新着の感想 ―
チュートリアル的戦闘とミステリアスな女性との邂逅、日常の中に潜む非日常が1話の中で綺麗な流れとして表現されていて素敵です! 終わり際の意味深な感じも次への期待が高まります! 次回更新が楽しみです!
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