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d+d【先行公開版】  作者: Hilde
【先行公開版】第三章 戦闘 - Battles -

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バグダード - Baghdad - 5

◯アッバース国・首都直轄州・バグダード市・円城内


宮殿と諸官庁、貴族や官僚の館、親衛隊駐屯所が並ぶ円城内。


普段は官僚や兵士が行き交うこの街も、

戦火や略奪を恐れて、建物は扉や窓を固く閉ざし、

東門から黄金門宮へ向かう大路には、人っ子一人いない。


その静まり返った街中を、イスマイール軍が黄金門宮へひた走る。



◯バグダード市・円城内・黄金門宮前・円形広場


黄金門宮を囲むように、宮廷親衛隊と銃兵隊が展開している。

イスマイール軍が広場へ進入すると、銃兵が一斉に銃を構える。


親衛隊長「撃て!」


パンッ! パパパンッ!

パパパパパパパンッ!!


円城内に銃声が響き渡る。


しかし──


ガガガガガガガガッ!!

ガガガガガガガガッ!!


仙道士の障壁(バンド)が、銃弾をことごとく弾き返す。


硝煙が晴れる。

イスマイール軍が無傷であることがわかると、


銃兵1「馬鹿な…」


銃兵2「魔神(ジン)の魔法か…」


銃兵3「レイの噂は本当だったのか…」


驚愕の声が漏れる。


親衛隊長、号令をかける。

「徹底抗戦せよとの厳命だ! 再装填!」


ターヒル将軍が、馬上から前へ進み出る。

「銃弾は届かん。剣を納めよ」


「ターヒル将軍…」

歴戦の名将の言葉に、動揺が走る。


親衛隊長「これより先は黄金門宮!

軍勢を率いての立ち入りは認められん」


ターヒル「我らは話し合いに来たのだ。

このまま通してくれぬか」


親衛隊長、剣を抜く。

「武装したまま宮門へ来る者を通すわけにはいかぬ。

例え銃弾が効かぬとも、ここより先へは進ません」


ターヒル将軍、右目を細めて親衛隊長をねめつける。

「…ホラーサーンを出てからこのかた、わが軍は一度も剣を抜いておらん。

だが、一旦戦が始まれば、止まらぬぞ。

──お前は、この宮殿と円城を戦場にするつもりか?」


イスマイールが、馬を進めて前に出る。

「忠義なる者よ、私は宮廷に危害は加えぬが、軍を引く気もない。

軍を退けば、宮廷は門を閉ざすであろう?」


親衛隊長「皇太子殿下…」


ムーサを抱えた仙道士が、イスマイールの横へ出る。


ムーサ「んーっ、んーっ」


親衛隊長「ムーサ総督…!」


イスマイール「わが軍は、ホラーサーンより、ムーサを傷一つ付けず連れて来た。

お前は、そのムーサを戦火に巻き込むか?」


親衛隊長、目を伏せる。


イスマイール、諭すように言う。

「私はラフィを討ちに来たのではない。

先代カリフの協定を守らせるために来たのだ」


親衛隊長、視線を巡らせる。

動揺している銃兵たち。

ムーサを抱えた仙道士。

息を潜め、自分たちのやり取りを見守る街。


親衛隊長(…城門は開かれた。銃も通じぬ。市民も戦を望んでおらん)


「…それでも…私は、カリフの住まう宮殿を守らねば…」


ターヒル「ならば、守れ。

剣を振るうことだけが、守ることではない」


親衛隊長(ここで徹底抗戦すれば…

ムーサ総督も、我が部下も、カリフも、この宮殿も円城も──

戦火に包まれる…)


親衛隊長、のろのろと剣を鞘に納める。


「…道を開けよ。

皇太子殿下をお通しする」


宮廷親衛隊が左右へ分かれる。



◯バグダード市・黄金門宮・外庭・処刑場


白亜の壁と緑色の大ドームを戴く宮殿、黄金門宮。

その広大な石畳の外庭。


その北側の木立の中に、罪人を処断するための石造りの処刑場がある。

黒ずんだ石台。長年の風雨に晒された排水溝。


その前に、イスマイール軍の精鋭数百騎が整然と並ぶ。

先頭に立つのは、イスマイールとターヒル将軍。

その傍らでは、仙道士が、猿ぐつわを噛まされ、縄で縛られた総督ムーサを抱えて浮遊(フローサド)している。


武器を下ろした宮廷親衛隊が見守り、宮殿に通じる階段の上では宦官や侍従たちが不安げに顔を見合わせている。


イスマイール、ターヒル将軍に命じる。

「ファドル宰相とラフィ、重臣たちをここへ」


「はっ」

ターヒル将軍、数十人の兵を率いて宮殿へ向かう。


その背に向かい、イスマイール、声を上げる。

「よいか!

宮殿の物には手を触れるな!

殺すな! 犯すな! 奪うな!」


 ✕ ✕ ✕


後ろ手に縛られたファドル宰相が連行されてくる。

ターヒル「絨毯にくるまり、荷物に紛れて逃亡を図っておったようです」


その後ろから、ラフィと宰相府の官僚、宮廷高官たちが、兵に囲まれて歩いてくる。


イスマイール「ファドル宰相を処刑台へ」


ファドル宰相、暴れる。

「な、何故!」


ターヒル将軍が部下に命じ、ファドル宰相を石台に押さえ付ける。

大斧を持った屈強な兵士が処刑台の脇に進み出る。


ラフィや側近達、青ざめた顔で見守る。


イスマイール、ラフィと側近達、そして周囲の宮廷人へ向き直る。

「この者、ファドル・イブン・ラビーアは、アッバースの協定を破り、その正統を傷つけ、帝国を分裂と混乱へ導いた。


我が父ハーリドが定めた協定は、神の定めとアッバースの団結を体現する神聖な誓いだった。


しかし奸臣ファドルは、我が弟ラフィを唆してその誓いを破らせ、己が権勢のために宮廷を私し、忠義ある者たちを争わせた──」


宮廷の者たちが、宰相の背後にいる人物を思い浮かべ、そっと顔を伏せる。


「この罪は、神の正義とアッバースの秩序に対する背信である!


我は神の定めに従い、帝国の団結を回復するため、ここに正義を執行する。


神はすべてを見給い、公正に裁きたもう」


ファドル宰相、押さえつけられたまま叫ぶ。

「く、国を分裂させているのは殿下のほうでは!? ホラーサーンを異国に…」


イスマイール、ファドル宰相を遮る。

「刑を執行せよ! 神は正義なり!」


大斧が振り下ろされる。


仙道士に抱えられたムーサが、小さく悲鳴を上げる。


ファドル宰相、斬首される。

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