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d+d【先行公開版】  作者: Hilde
【先行公開版】第三章 戦闘 - Battles -

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レイの戦い - Battle of Ray -

◯アッバース国・ジバール州・レイ市・近郊の平野


この世界最大の大陸、アルテラシア大陸。その中東に位置する大帝国、アッバース国。

その東西を貫くホラーサーン街道の要衝、レイ市。


その近郊の平野を、イスマイール軍がバグダードを目指して疾走している。


軍勢の上空には、白い長衣をはためかせた4人の仙道士が、同じ速度で飛行する。

その1人は、猿ぐつわを噛まされ、縄で縛られた総督ムーサを抱えている。


先頭を駆けるターヒル将軍が、イスマイールに叫ぶ。

「レイは要衝です。バグダードの軍との接触も間もなくかと」


仙道士隊長、高度を落とし、イスマイールに並走して報告する。

「殿下、前方に敵軍ヲ確認。

我が軍の4倍規模デス」


イスマイール、うなずく。

「各々、打ち合わせ通りに」


ターヒル「はっ」


仙道士隊長「御意」


 ✕ ✕ ✕


どこまでも広がる平坦な平原で、ラフィ軍4万とイスマイール軍1万が対峙する。


ラフィ軍は、地平線まで埋め尽くすかのような大軍勢。

戦列歩兵が銃を構えて壁のように並び、その背後の騎兵の兜がギラギラと陽光を反射する。

後方では砲兵隊が砲口を向け、合図を待っている。


対するイスマイール軍は、ターヒル将軍とイスマイールが先頭に立ち、後方に軽騎兵が控える。


ターヒル「殿下、参ります」


イスマイール「頼んだぞ」


ターヒル将軍、旗下20騎を従えて前へ出る。

その頭上には、ムーサを抱えた仙道士副隊長が、静かに浮遊(フローサド)する。


中空に浮かぶ仙道士を見たラフィ軍にざわめきが広がる。


兵士1「見ろ! 宙に浮いてるぞ!」


兵士2「あの白い者は、魔神(ジン)か?」


ターヒル将軍、低く太い声を響かせる。

「ムーサ殿下は、この通りご無事だ。

我らは流血を望まぬ。

求めるは、イスマイール殿下の総督職の保証と、先代カリフの協定遵守のみ。

軍を退け。バグダードへの道を開けよ」


ラフィ軍から、司令官マルワーン・イブン・イーサーが、配下の将軍たちと共に前へ進む。

先代カリフから仕える血の気の多い老将である。

「反逆者の言い分には耳を貸さぬ。

我らは、カリフより逆賊討伐の詔を戴いておる。

速やかにムーサ総督を引き渡し、投降せよ」


両者、数十歩の距離を隔てて睨み合う。


マルワーン司令官、仙道士をちらりと見る。

「あの者は、魔道士か?

魔道士は協会(ギルド)の掟により、戦に加わらぬと聞くが?」


ターヒル将軍、不敵な笑みを見せる。

生憎(あいにく)、こやつは魔道士ではない。仙道士という。

仙道士は、れっきとした軍人だ。攻撃魔法を使う。

今すぐに剣を納めねば、うぬらは地獄の業火に焼かれよう」


マルワーン司令官、警戒の視線を仙道士に向ける。


「んーっ、んーっ!」

仙道士に抱えられたムーサが、じたばたと暴れる。


マルワーン司令官、血相を変えて、

「今すぐに、ムーサ総督の(かせ)を外せ!」


ターヒル将軍、仙道士副隊長にうなずく。


仙道士副隊長が、ムーサの猿ぐつわを外す。

ムーサ、ぺっぺと唾を吐き、マルワーン司令官に向かって叫ぶ。

「偽りだ! この者たちは、宮廷軍に攻撃しないと話していた!」


ターヒル将軍、天を仰ぐ。


ムーサ「だから、早くやっつけて!

お祖母様にお前のことを良く言ってあげるから!」


マルワーン司令官、胸に手を当て、ムーサを見上げる。

「殿下、このマルワーン・イブン・イーサー、身命を賭してお救い申しあげます」


続けて、ターヒル将軍を冷たく見据える。

「攻撃せぬのなら、空を飛ぶだけの見世物よ」


マルワーン司令官、さっと剣を抜き放ち、高々と天へ掲げる。

「殿下、反逆者どもを一人残らず討ち取ってみせましょう!」


「砲兵! 反逆軍本隊を砲撃せよ!!」



ラフィ軍の旗手が、合図の軍旗を翻す。

次の瞬間、砲兵隊の野砲が一斉に火を吹く。



イスマイールの親衛隊が動き、イスマイールを囲む。


イスマイール「仙道士!」


仙道士隊長「御意」


仙道士隊長が手を上げ、イスマイール軍の頭上に厚い障壁(バンド)を張る。


ガアアアーン

ボッォォン

バァァァン

ドバァァン


砲弾が次々と炸裂し、砂煙が舞い上がる。


──身を伏せていた軽騎兵たちが、おそるおそる顔を上げる。

自分たちが無傷であると知った瞬間、歓声が湧き上がる。



ラフィ軍では、驚愕のどよめきが広がる。

魔道士や仙道士の存在を知らない者たちが、恐怖の叫び声をあげる。


兵士3「魔神(ジン)だ!」


兵士4「魔神(ジン)が守ったぞ!!」


自軍に駆け戻ったマルワーン司令官も、目を疑う。

「砲撃が効かぬ!?」


しかし即座に剣を上げる。

「ならば、銃兵、前進!」


戦列歩兵の列が整然と前進を始める。



ターヒル将軍、イスマイール軍に駆け戻ると、

先頭にイスマイールと並び立つ。

軽騎兵が、後方へ細長く隊列を整える。

先端が尖り、縦長の陣形──その全周を、仙道士の透明な障壁(バンド)が包む。


イスマイール、号令をかける。

「これより、敵陣を突破する!

総員、迷わず進め!」


剣を掲げ、ターヒル将軍と共に駆け出す。



イスマイール軍の突進に、マルワーン司令官が即座に銃兵へ号令を飛ばす。


「目標、ホラーサーン軍前列! くれぐれもムーサ総督に当てるな!」


「構え!」


「撃てーーッ!」


パパパパパパパンッパパパパパパパンッ!!

パパパパパパパンッパパパパパパパンッ!!


銃列が、一斉に火を吹く。



ターヒル将軍、イスマイールを(かば)うように前へ出る。


ガガガガガガガガッガガガガガガガガッ!!

ガガガガガガガガッガガガガガガガガッ!!


ターヒル将軍の前方の障壁(バンド)が、全ての銃弾を弾き返す。


イスマイール、兵に向かって叫ぶ。

「見たか!

我らは魔法の力で守られている!

砲弾も、銃弾も、我らを傷付けることはできぬ!

よって、一切の交戦は不要!

目指すは黄金門宮!

バグダードまで突き進めーーっ!」


「うおおおおおおおーーーーッ!!」

鬨の声を上げ、イスマイール軍が硝煙を蹴散らしながら、ラフィ軍に突っ込む。


イスマイール軍を囲む障壁(バンド)が、ラフィ軍の兵と馬を左右に押しのけていく。


兵士5「うわっ、押される!」


兵士6「魔神(ジン)の魔法だ!」


兵士7「触ったら呪われるぞ!」


マルワーン司令官が叫ぶ。

「怯むな! 銃剣を構えろ!」


数人が勇気を振り絞り、障壁(バンド)へ銃剣を突き立てる。


ガッ!

ガッ!


虚しく跳ね返される。


恐怖が波のように広がる。

前列の兵が後退し、その背を見た後列も後ずさりを始める。

密集していた戦列は見る間に裂け、イスマイールの前に道が生まれる。


舟が大海を切り開くように、イスマイール軍が4万のラフィ軍を割る。


マルワーン「逃げるな! 隊列を保て! 道を開けるな!!」


しかし、兵は止まらない───


イスマイール軍、ついにラフィ軍を突破し、首都バグダードへ破竹の勢いで駆けていく。



マルワーン司令官、声を嗄らして叫ぶ。

「追え! 追えぇーっ!!」


しかし、反応がない。


振り返ると、兵がバラバラの方向に四散している。

大半が、一番近いレイ市を目指して逃亡を始めている。


兵士8「魔神(ジン)に守られた軍と戦えるかっての」


兵士9「給金も払われねぇのに死ねるかっ」


マルワーン司令官、忌々しげに吐き捨てる。

「…烏合の衆めがっ」


残った少数の親衛騎兵と共にバグダードへ馬首を巡らせる。

「…宮廷に報告せねばならん」

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