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d+d【先行公開版】  作者: Hilde
【先行公開版】第三章 戦闘 - Battles -

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白銀国 - Silver Empire - 4

○白銀国・ジルバーブルク・工房街


御者が手綱を引き、馬車を工房街入口の広場脇に止める。


馬車の扉が開く。

飛び降りた近衛が周囲へ視線を走らせる間も待たず、皇帝レオン、石畳へ降り立つ。


続いて宰相が降り、前宰相は杖を先に石畳へ突き、ゆっくりと降りる。


「足元を」

宰相が低く声をかけ、手を差し出す。


「まだお前の手は借りんぞ」

前宰相、軽口を叩きながら杖を突いて歩き出す。


皇帝レオン、歩調を落とし、前宰相の横へ並ぶ。


同族経営の工房が軒を連ね、路地に絶え間ない槌音が響く。

開け放たれた作業場から、鍛冶職人が顔を上げる。


職人1「レオン様、ごきげんよう」

職人2「今日は前宰相もご一緒だ。珍しい」


皇帝レオン、職人たちに軽く手を上げて応える。

「作業を続けよ」



◯ジルバーブルク・工房街の外れ・エミールの研究室(ラボ)


工房街から少し外れた場所に、一軒家がひっそりと建っている。


近衛が扉を叩くと、しばらくして、内側から鍵の外れる音がする。


扉を開けた助手のアントン・グルーバー、目を丸くする。

「レオン様!?」


慌ててお辞儀をする。右腕の肘下から先がなく、作業着の袖口が結ばれている。


皇帝「急な訪問ですまない」


アントン、3人を部屋の中へ通す。

壁一面に人体や滑車構造などの図面が貼られ、

部屋の大半を占める長机の上には、工具と細かい部品、無数の歯車、細い銀線と共に、精密な義手の設計図が広げられている。


長机の奥で作業をしていたエミール・ヴァイスが立ち上がる。

痩せた30代後半の男で、伸ばしっぱなしの髪を無造作に後ろで束ね、袖は肘まで捲られている。


「宰相殿と前宰相殿…。あと、そちらは?」


アントンが飛んで行き、小声で耳打ちする。

白銀国(うち)の皇帝陛下だよッ」


エミール、はっと顔色を変え、慌ててお辞儀をする。

「お目にかかれて光栄です、白銀国皇帝陛下。

エミール・ヴァイスと申します」


皇帝レオン、手で制す。

「よい、楽にせよ」


前宰相、杖の音を立てながらエミールに歩み寄る。

「ヴァイス殿、久しいな。

研究は順調か?

今日は成果を見せてもらいに来たのだ」


エミール、胸に手を当てる。

「前宰相殿、お久しぶりです。

研究は着実に進んでいるものの、とても披露できる段階では…」


宰相、案の定という顔で前宰相を見る。


前宰相、杖を少し掲げてみせる。

「私も年には勝てず、足腰が弱ってきてね。

次はいつ来られるか、わからないのだ。

出来ているところまででいい。見せてくれぬか?」


恩人の頼みに、エミール、観念したように息をつく。

「本当に道半ばですが…それでもよろしいですか?」


皇帝「私からも、頼む」


エミール「…では…」


エミール、壁の棚から、2本の長いコードが垂れている義手を取り出す。


アントンの右袖をほどいて義手を装着し、革帯の止め金をしっかりと締める。

義手の指を少しずつ曲げて、物を軽く掴むような形状にする。


続いて、義手から伸びるコードの先を、床に置かれた電池の両極に取り付ける。


エミール「準備が整いました。

義手をご覧ください」


皇帝レオンと宰相たち、アントンの義手を見つめる。


エミール、指示を出す。

「アントン、閉じて」


フィィ…ン…


細い回転音が微かに鳴る。


義手の親指が動き出し、人差し指の先にくっつく。


エミール「開いて」


フィィン


親指が人差し指から離れる。


「…以上、です…」

エミール、恥じ入るようにうつむく。


宰相たち、少しがっかりした表情になる。


皇帝レオンは、狐につままれたような顔をしている。

「…今の動作は…、

スイッチで制御しているのか?

スイッチはどこにある?」


エミール、アントンの頭部を指す。

「スイッチは、彼の〝意思〟です」


「!?」

皇帝たち、目を見開く。


エミール、アントンの断端と義手の接続部を指す。

「この義手は、この者の〝筋電位〟を感知器で拾って動いているのです」


宰相「…筋電位? …とは?」


エミール「医学用語で、筋肉が動く際に生じる、微弱な電気反応のことです」


アントンの頭部、腕、義手を順に指しながら説明する。

「脳が発した命令で筋肉が動きます。その際に生じる微弱な電気反応を感知器で拾い、電動機で関節を動かしているのです」


宰相、理解できず困惑して前宰相を見る。前宰相も首を傾げている。


皇帝レオンだけが、目を見張ったまま手で口を覆う。

「…にわかには、信じがたい…。

…だが…、これは、凄い…」


エミール、皇帝に認められたことで、饒舌になる。

「恐れ入ります。

義手内部の小型電動機の開発に時間を取られて、母指(ぼし)の駆動までしか実現しておりませんが、

今後は、示指(じし)(人差し指)・中指(ちゅうし)と進め、最終的に五指全てを目指して開発する所存です」


アントンが胸に手を当て、進言する。

「恐れながらレオン様、私はこの動きだけでも生活の質が上がります。

これだけでも商品価値は十分あると思います」


皇帝レオン、うなずく。

「確かに」


エミール「しかし、筋電位の位置は人により異なる可能性があります。

商品化するためには、多くのデータが必要です。被験者の確保が課題です」


皇帝「それは…、

幸か不幸か、多くの被験者が確保できるだろう」


エミール「もう一つ、電源の問題があります。

この動作を5分するだけでも、これだけの電池が必要になります」


エミールが指し示した足元には、

全長1メートルほど、膝の高さまでの電池の山がある。

直列で繋がれたボルタ電池が隙間なく並べられ、それが4段にも積み上げられている。


「重さが10キロあり、携帯は困難です。

最近開発されたダニエル電池ならコンパクトになる可能性もありますが…」


宰相、顎に手を当てる。

「…陛下、

電池を黒い布で覆い隠し、コードも黒く塗って背景も黒で統一すれば──

義手だけで動いているように見えるかもしれません」


皇帝レオン、目を(すが)める。

「…そうだな。

真実はどうであれ、『欲しい』と思わせればいいのだ」

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