白銀国 - Silver Empire - 3
◯白銀国・ジルバーブルク・銀冠宮・皇帝の執務室(午前)
昇った陽が、執務室の高窓から斜めに差し込む。
執務机に、皇帝レオンが疲れた表情で座っている。
「世連が発足し世界が平和へ向かえば、カストルムの攻城部も縮小すると考えていたが…
見通しが甘かったようだ」
肘をついて組んだ手に額を押し当て、溜め息をつく。
「カストルムと民生産業で連携を深め、いずれは双方の国民が納得する形で国際統合できればと思っていたが…
これほど両国の方針がかけ離れているとは」
窓際に立っている白銀国宰相ヴィルヘルム・アイゼンヴァルトが口を開く。
「カストルムの振る舞いは、姻戚国である我が国の国際的評価を損ないかねません。
我が国がカストルムと結んだのは、義肢部の発展を見込んでいたからです。
カストルムが攻城部を拡大するならば──
カストルムの義肢部の職人を引き抜いた上で、段階的な提携解消を検討されますか?
目ぼしい者には、既に働きかけております」
皇帝レオン、首を振る。
「…いや、カストルムとの衝突は避けたい。
なんとか説得できぬものだろうか」
暖炉脇の椅子に腰掛け、杖頭に両手を重ねていた老人が発言する。
「道理の通らぬ相手は、取引で動かすしかないでしょうな」
皇帝レオン、顔を上げる。
「前宰相、引退したのに呼び立ててすまぬな」
「なんの。陛下のためならば」
宰相の父であり、先代と皇帝レオンに仕えた前宰相、フリードリヒ・アイゼンヴァルト。
70代に差し掛かり痩せて皺も増えたが、目だけは少しも衰えていない。
皇帝「…だが、取引を持ち掛けるにしても、
シオン特需に沸くカストルムを動かせる材料が、我が国にあるだろうか?」
前宰相、瞳を巡らせ、宰相に声を掛ける。
「ヴィルヘルム、ヴァイス氏の研究の進捗は把握しているか?」
宰相、腕を組んで首を振る。
「先日の報告でも、『実用化にはまだ程遠い』とのことでした」
前宰相、顎に手を当てる。
「とはいえ、もう20年だ。
慎重な者ゆえ、完成するまで報告を控えているやもしれん」
前宰相、皇帝レオンに説明する。
「──20年前、エリーザ皇后のお輿入れの際に、一人のカストルムの職人に目を付けましてな。
カストルムで義肢部を立ち上げた職人の一番弟子でしたが、奇妙な研究に入れ込みすぎて、周囲から浮いておったのです。
そこで、我が国へ招き入れました。
つまり、婚礼のどさくさに紛れて引き抜いたのですな」
前宰相、からからと笑う。
皇帝「…奇妙な研究とは?」
前宰相「義手と電気を融合させるのだとかなんとか…。雲をつかむような話で私には到底解せませんでした。
しかし、ものになれば、大きな切り札となりましょう。
一度、研究室へ足を運ばれては?」
皇帝「…見に行こう」




