アル=マワシ - Al-Mawasi - 3
◯カナン地区・アル=マワシ沿岸地帯(日替わり・昼)
シオン国が指定した〝人道支援地域〟アル=マワシ沿岸地帯。
ノストルム海を望む細長い砂丘に、びっしりとテントが立ち並ぶ。
見渡す限り避難民であふれ返っている。
ユスフ「…どこで寝ろってんだ…?」
カリド「…とにかく、テントを張るスペースを確保しないとな」
カリドを先頭に、テントとテントの隙間を縫うようにして歩き、空き地を探す。
ヤット「街全体が…難民キャンプみたいだ…」
ミロ、砂に足をとられて顔をしかめる。
「街っていうか…ただの砂地に、人を詰め込んだだけじゃないか」
隣のテントとのわずかな空間で火を起こし、スープを作る母親。
木切れを運び、火にくべる男の子。
黒く汚れた水で洗濯物を洗う女の子。
密集した人いきれと生活臭に、ライラ、思わず鼻を押さえる。
鍋やボウルを手にした人々が、南へ向かって歩いている。
小さな子供たちも、体に不釣り合いなほど大きな椀を抱えて、歩いていく。
テクラ「食事の配給でも、あるのかしら」
ヤット「俺たちが行ってくる。皆はテントを張ってて」
ヤットとミロ、鍋を持って人々の後に付いていく。
◯アル=マワシ沿岸地帯・南端
テント群を抜けた先の空き地で、ラファフ県の炊き出しが行われている。
スープの入った大きな寸胴鍋がいくつも据えられている。
老人から子供まで、鍋の前には長蛇の列ができている。
ヤットとミロが列に並ぶと、その後ろにもすぐ長い列が伸びる。
風向きが変わる度に、旨そうな匂いが漂ってくる。
ミロ「すごい人だね。…あの鍋の大きさだと、この人数じゃ足りないかも」
スープの量に抗議する男に、配膳の者が列を指差して何か説明している。
後ろに並んでいた男が大鍋を覗き込み、列の後方に向かって叫ぶ。
「もう無いぞ! 今日は終わりだ」
途端に、ヤットとミロ、後ろから強く押される。
気付けば列は崩れ、人々が大鍋に殺到する。
避難民1「こっちの鍋に入れてくれ!」
避難民2「俺のに入れてくれ! 子供が待ってるんだ!」
人々は周囲をかき分けるようにして、少しでも前へ出ようとする。
鍋を、椀を、ボウルを、配膳の者の目に留まるよう突き出す。
人波に揉まれながら、小さな男の子がボウルを高く持ち上げるが、その上から背の高い少年が鍋を差し出す。
頭上の鍋を見上げ、男の子の顔がゆがむ。
◯アル=マワシ沿岸地帯・中央部
ようやく見つけたスペースで、カリドと子供たちがテントを設営している。
ヤットとミロ、空の鍋を抱えて、とぼとぼ戻る。
うなだれるヤット「子供を押しのけてまで、もらえなかった…」
カリド「…ラファフ県で手に入れた食料がまだ残っている。別の方法を考えようや」
◯アル=マワシ沿岸地帯・中央部(翌朝)
朝の光が、びっしり張られたテント群を照らし始める。
テントの外で目を覚ましたユスフ、両腕を上げて大きく伸びをし、首をコキコキ鳴らす。
「…生ゴミ臭いな…。ゴミ捨て場が近いせいか」
全員が起きてから、男たちが今日の分の水とパンを配る。
カリド「今日の予定だが、俺とユスフは食料を探しに行くつもりだ。
この辺で調達できなければ、ハーン・ユーニス県まで買い出しに行く」
ヤット「俺たちは、井戸から水を汲んでくる」
ヘナン「私たちは、午前中に子供たちに授業をします」
ライラ「難民キャンプの他の子供たちにも声をかけてみます」
テクラ、全員を見回し、努めて明るい声を出す。
「どのような場所でも、私たちは、人間らしい生活を続けましょう」
◯アル=マワシ沿岸地帯・南東部
ヤットとミロ、それぞれ桶を持ち、近所の人から聞いた井戸へ向かう。
多くの子供たちが、小さな手で桶を抱え、同じ方向へ向かっている。
ヤット「子供が多いな」
ミロ「水汲みは子供の仕事なのかもね」
ヤット「この子たちも授業を受けられるといいな。
…テクラさんに頼んで、午後に回してもらうか」
前方からこちらに向かって、人々がぞろぞろ歩いてくる。
皆、空の桶を手にしている。
ヤット「この先に井戸があるはずだけど…どうしたんだ?」
ミロ、すれ違った老婆に尋ねる。
「すみません、井戸って、向こうにありますか?」
老婆「…井戸が、シオン軍に壊されちまったんだよ」
ミロ「えっ」
老婆「今日は修理で使えないから、ハーン・ユーニス県の井戸に向かってるんだ。
毎度のことさ。直してもしばらくすれば、また壊される。いたちごっこだよ」
ヤット、老婆の桶を持ってやる。
「一緒に行ってもいいですか?」
そのまま3人で歩き出す。
ヤット「シオン国のビラには、水も食料もあるって書いてありましたけど…」
老婆「そんなの、嘘っぱちだよ。
アル=マワシには、水や食料なんて、ありゃしない。
シオン国は、あたしらを騙して、元々誰も住まない不毛の土地に押し込んでるのさ」
前を歩く人々の足元から舞う砂埃に目を瞬かせながら、井戸を目指して歩き続ける。




