アル=マワシ - Al-Mawasi - 2
◯カナン地区・ラファフ県・ラファフ市(日替わり・午後)
カリドたち一行、再びラファフ県に戻ってくる。
先頭に、ハサンの担架を運ぶカリドとユスフ、子供たちと女教師たちを挟み、後尾にカースィムの担架を運ぶヤットとミロが続く。
街には、シオン軍による攻撃の跡が生々しく残っている。
崩れた建物のがれきが道を塞ぎ、空気に塵が混じり喉に絡みつく。
男1「こっちだ!」
男2「声がする! ここだ!」
倒壊した建物に男たちが集まり、がれきをどかして生存者を救い出そうとしている。
別の建物の隙間には、力なく垂れた手が覗いている。
カリド、ハサンに親戚の家までの道を確かめながら進む。
「道は合っていますか?」
「…ああ。方角は合ってるが…、目印になるものが、何もかも壊されちまったな…」
気落ちしているハサン。
がれきを道の端に片付けている男たちの中から、一人の青年が近寄って声を掛ける。
青年「伯父さん…?」
ハサン「サリーム!」
「やっぱり伯父さんだ!」
サリーム、ハサンに駆け寄る。
ハサン「みんな無事か!?」
サリーム、うなずく。
「うちは運良く砲撃されなかった。
伯父さんこそ、皆で心配してたんだよ」
ハサン、脚を指差す。
「砲撃をくらって動けなかったんだ。
ここまで、この人たちに運んでもらった」
ハサン、肘をついて身を起こし、カリドたちを紹介する。
サリーム、胸に手を当てる。
「伯父を連れてきてくれて、ありがとうございます」
サリーム、仲間に応援を頼み、カリドとユスフからハサンの担架を受け取る。
ハサン、サリームに顔を寄せて尋ねる。
「俺みたいなのがもう一人増えても、手間は変わらんか?
放っとけねぇ奴が居るんだ」
サリーム「…まあ、どうせ俺が面倒を見るから」
ハサン、カースィムに声を掛ける。
「カースィム、俺と一緒に世話になるか?」
暗い目でうつむいていたカースィム、驚いて顔を上げる。
「…俺も?」
ハサン、にやっと笑みを浮かべる。
「これも、定命ってやつだ」
サリーム、笑顔を向ける。
「よろしく、カースィム」
カースィム、ほっとしたように視線を伏せ、
「…よろしく」
カリド、サリームに尋ねる。
「俺たちはラファフ難民キャンプに行くつもりなんだが、空きはあるか?」
サリーム、表情を曇らせる。
「ラファフ難民キャンプは放火されて多くの犠牲者が出ました。他の難民キャンプも狙われるかもしれません。
それに、今朝これが…」
サリーム、手のひらほどの大きさの紙をポケットから取り出す。
カリド「…え?」
紙には、カナン地区の地図が描かれ、シオン語とフスハー語が書かれている。
カナン地区全土に✕が付けられ、海岸沿いの細長い帯状地帯へ向かう矢印が大きく描かれている。
サリーム「…『アル=マワシ沿岸地帯へ向かえ』…『アル=マワシは〝人道支援地域〟だ』と」
カリド「〝人道支援地域〟?」
サリーム「シオン国が指定した安全地帯だそうです。野戦病院やテント、食料や水、医薬品も用意していると」
ハサン「そんなの眉唾だ。神に誓って、俺はもう動かねぇぞ」
サリーム、ハサンに同意する。
「父さんたちも、ここを離れるつもりはないんだ。一度出たら、もう戻れない。それだけは嫌だって」
カリド、テクラや子供たちを見回す。
「…俺たちは、移動するしかないだろうな」
ハサン、カリドたち一人一人の顔を見て別れの挨拶をする。
「短い間だったが、世話になったな。
皆、ありがとな」
サリーム「どうか、ご無事で」
カリド、胸に右手を当てる。
「あなたたちも」
カースィムが、ヤットにそっと声を掛ける。
「…世話になった」
ヤット、首をふる。
「こういう時は、お互い様だ」
カースィム、ちらりとライラのほうに視線をやる。
「…うまくいくといいな」
ヤット、顔を赤くして、微笑む。
「ありがとう」
カースィム、わずかに目を細める。
「じゃあな」




