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エターナルブレイバー  作者: 榛原朔
3幕 誰にとっての悪なりや

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99/110

59-血着

盗みに入った。十二魔王に並ぶ神秘がいると知った上で。

どうしても、喉から手が出るほど欲しかった。あれは生半可な欲望なんかじゃあねぇ。渇望だ。必要だった。盗まなければ、生きていられなかった。


だから、来た。部下を引き連れ、栄光よりも結果を求めて、ひっそり潜入して盗もうとした。なぜバレた? 考えてみれば、当たり前。すべてを見透かすように、黄金と蒼月に俺の団は蹂躙された。


今でも目に焼き付いてる。あいつらが、俺の名を叫びながら干からび、金塊となり、枯れた森みてぇな景色になったのを。ここ数十年なかった失敗。

久々に感じた、1つ目の後悔。


「もう二度と奪わせやしねぇ。

どんな化け物どもが相手だろうと」


すべてを奪われて、のうのうと帰れる訳がねぇ。この盗賊王が、逆にすべてを盗まれるなんざ、無様にも程がある。

かと言って俺に、戦う力もねぇ。

俺にできることはたった1つ。選べた道も、1つだ。


盗んだ。盗んだ。盗んだ。本意じゃなくとも、それ単体には価値がなくても、必要だったから。英雄を引き込み、勇者を引き込み、戦力として利用する。非力な俺にできる、唯一の打開策。まさか、2人とも死んじまうとは思わなかったぜ。

本当に、心底残念だよ。


「もったいねぇ。これじゃまた懸賞金も上がっちまう」


なぜモルジアナだけ生かされてたのか、俺にゃわからん。

だが、どんな目論見があろうが怪しめるものか。

確実に巻き込むためにも、俺自身がまた入るしかなかった。


遊び半分の化け物どもの相手で、何度死にかけたことか。

俺が神秘でなけりゃ、とうに5回は死んでる。

許せねぇ。許せねぇ。許せねぇ。なのに盗み合いする余裕もねぇってか? ふざけやがって。


「間接じゃなくて、直接勝たせろやおい……!!

戦えねぇなりの、本気の勝負だぞこれはよォ」


ぶつける先の無い気持ちを、どうにか収める。

ま、結果欲しいもん全部手に入んなら、やり切れねぇ部分は飲み込むとするか。


俺は結局、一度もアレの目を引かなかった。

一貫して、楽しみのため利用する素材でしかなかった。

目ぇ付けられちゃ、堪ったもんじゃねぇが。

使われるだけ使われるってなぁ、それはそれで腹が立つ。


が、いい。俺はテメェの死を作った。

原因を、きっかけを、理由を生んだ。

ザマァ見やがれクソアマが!!


今の俺は血だ。地の底からでも、見えてるぞ。

散々理不尽を押し付けてきたテメェが、たかが生物ごときに追い詰められてるなっさけねぇ姿をよォ!!


「ククク、クハハハハッ!! 愉快だ!! 愉快だなァおい!!」


女王気取りの落伍者が、侍の突きに穿たれる。

星の礫に血を流す。勇者の剣に、顔を歪める。

嗚呼、なんて痛快なんだ。胸がすく思いだ。

あと少しで全てが終わりだ。


「さぁ、さぁ。さぁさぁさぁッ!!」


興奮して手を伸ばす。右手の中では、ずっと握っていた宝石が、命を得たかのように輝きを取り戻していた。

失っていた核が、移されていた意味が、還ってくる。

俺が欲しかったものが、本来の獲物が、今この手の中に!


「フィナーレだ!!」


耳をつんざく破裂音と共に、宝石はひときわ輝き、放射状に赤い光線をまき散らす。盗み切った。中身が戻り、ガワだけじゃない緋色の心臓の完成だ。


「ハッハッハ、ハーッハッハッハ!!

俺たちの勝利だぜ!!」


すべての危機から自由になった開放感。

策略でどん底からひっくり返した快感。

お宝どころか街すら掌握した全能感。


今ならどれだけ浸ったって、バチは当たらねぇ。

存分に噛み締めながら、手足を広げて地上へ浮上する。


「残る問題があるとすりゃあ、倒したのは女王だけってことくらいだなァ」


一瞬よぎるも、すぐに思考を止める。

ま、何とかなるだろ。最悪モルジアナの策に頼ればいい。

仄かな懸念を投げ捨てて、俺はただ、安らかな上昇に身を任せた。




~~~~~~~~~~




「ありえ、ないっ……!!」


血の牙城は解け、辺りは本来の街の姿へ戻る。

この状況が示すのは、ある一つの事実。女王が死んだ。

地面に這いつくばるアズールは、苦悶の表情を浮かべていた。


「人間ごときに、スカーレット様が、倒されたの……!?」

「あなただって、神秘を扱えもしない人間を相手に手も足も出ず、殺すどころか突破すらできなかったでしょう?」


律儀に返事をするのは、アズールを翻弄し続けたモルジアナだ。どこからか椅子を持ってきていた彼女は、足を組みながらティーカップを傾け、完全に気を抜いている。


「アズールは、まだ負けていないわ!

あなたを殺すことだけに集中すれば‥」


顔を上げ反論する。しかし、体を起こすことはなかった。

力が入る前に、地面に付いた手に穴が空いたから。


「え?」


遅れて銃声。しかし、音が聞こえた時には手遅れだ。

とっくに手は穿たれ、凄まじい重力がかかっているから。

そうして動けない間に、銃弾はさらに振り注ぐ。

反対の左手、両の足、肩、腹部。

飛び散る血を眺め、モルジアナは肩をすくめた。


「残念だけれど、もう無理よ。だって戦いは終わったもの」


1度は地面に潰れるが、アズールも神秘だ。

重さは変わらないものの、霧化した体で多少なりとも軽減すると、立ち上がる。その、心臓を。


「ッ……!!」


スナイパーは、的確に撃ち抜いた。

パクパクと動く口は、言葉を吐き出す余裕もない。

それでも、彼女は倒れず、揺れる瞳で敵を捉える。と、同時に。額を弾丸が通過し、アズールは完全に倒れ伏した。


「それに、生命を超越した神秘様が全力を出さなければならない時点で、既に試合には負けているのよ」


霧は消えない。霧は尽きない。けれど到底動けない。

地面に転がるだけとなったアズールへ、モルジアナは興味なさげに一瞥だけして背を向ける。


「お疲れ様、主人の役にも立てない路傍の水たまりちゃん」


神秘を殺す力のないモルジアナだが、心を砕くくらいはできる。何もできず、置き去りにされたアズールは、土に顔を埋めたまま強く唇を噛んでいた。



ありがとう、我が蒼銀の継承者。

この勝利はきっと、これから成す多くの偉業の第一歩。

今はまだ、手助けしかできないかもしれないけれど。

いつか必ず、君自身の手で打ち倒せることを……

英雄以上の存在になることを、信じてる。


そして、そんな君の活躍を見る、遠い未来の誰かよ。

才能に選ばれなかった、平凡なキミよ。

どうしてまだ、その場に踏み止まっているんだい?


この世界を占めるのは、大多数が才なき者

誰も彼もが、路端の風景

しかしだからこそ、僕たちは偉業を成した時ではなく、立ち上がった時にはもう、英雄になる


だから、どうかまだ見ぬキミ

彼の灯す明かりを目指し、歩き出せ

脈絡と続く英雄譚を、未来に繋げ


才なき世界で、僕らは無数の英雄たちの上に栄光を築く

その軌跡に刻まれる1人に、どうか――



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