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エターナルブレイバー  作者: 榛原朔
間章-誰もが笑顔のディストピア

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8-演劇の国

他では中々見ることのできない、何の危険もない区外の道を、ベルたちは進む。


普段の旅では、人と会っても1グループだ。

遠くではまばらに見えた歩く人影も、街に近づくにつれ大勢になり、群衆の中にいるように感じられた。


目的は演劇か、それに伴う商売か。見かける人の半分ほどは、見たこともない品を携えていたり珍しい服装をしていたりして、ベルがソワソワと目を遊ばせている。


やはりシエルは初見ではなさそうで、落ち着いたものだ。

同じ見るでも、細かに人々を観察しており、また街境の様子にも注意を払っている。

リチャードはそもそも周りに興味がない。


「遠くからだとだいぶ無防備に見えたけど、一応人はいるんだな。警備じゃないとしても」


気を引くものが多くても、街が近くなればそちらにも目がいく。視界を埋めた街――ロール自治区を、ベルは見上げる形で眺めた。


壁がない代わりに、境を隔てているのは係員だ。

外周は幌小屋など簡易的な住居・物置が多く、どこからでも街に入れるが、その分係員も多い。


新顔を見つけては歩み寄り、また時には来訪者の方から近づき、チケットのようなものを渡し・受け取っている。

統一感のある黒服は規律を感じるが、なぜか全員が眼鏡を付けており、やはり警備や兵士といった雰囲気ではない。


かといって、商売や来訪者管理という訳でもないようで、彼らの間に金銭のやり取りや記名などの行為はなかった。

あくまでも、薄い切れ端を渡すだけ。強いて言うなら歓迎か。互いに笑顔で話しかけ、手を振り別れている。

不思議な光景だ。


「建物は……普通だ。村より小綺麗だけど」


係員・幌小屋の向こうに見えるのは、堅固さもなければ華やかさもない、いたって普通の街並みだ。簡易住居の中に段々と木造の家が混じり、次第に石・煉瓦造りの建物との混合に移り変わっていく。


中央には大きな劇場のような物があり、小ぶりのものもちらほら見えるが、確かに少し多いかもくらい。他の自治区でも、発展している場所で演劇が好まれるのなら、劇場の1つや2つあるだろう。街全体で演劇の国を名乗るにしては、普通すぎるくらい普通である。


「そうだね。ここは特別な何かがある訳じゃないから。

あたしも、来たのは初めてだけど」


言葉を交わしながら、街の境へと進む。

明確な入り口はないため、順番待ちもない。

各々が来た方から真っ直ぐ向かい、人混みの中で当たった係員とやり取りをするだけだ。


ベルも、若干ハラハラした様子ながらシエルの後から直進し、目が合った係員の前で足を止めた。偶然担当になったその女性係員は、ニコリと笑って口を開く。


「こんにちは、旅の方々。あなたたちは移住希望者ですか?

それとも、観光目的ですか?」

「観光です」


応じるシエルは慣れた様子だ。

訪れるのは村ばかりで、3人で旅するようになってから初の光景なのだが、動じず対応している。


逆にベルは、同規模のカルミンブルクには侵入という形だったこともあり、ずっとソワソワしていた。


「見たところ、旅路フィルムはお持ちではないようですが、よく辿り着けましたね」


腰のバッグを漁りながら、係員は眼鏡に手を触れる。

視線はシエルたちから外れない。

探し物の場所が決まっているにしても、随分と器用だ。


「実は、元々各地を旅しているんですよ。

ここへは旅の途中に寄りました」

「なるほど、たまにそういった方もいらっしゃいます。

もれなく街に何かをもたらす、特別な方々です」


取り出されたのは、縦に長い半透明の切れ端だった。

両端に丸が連なり枠を作り、横に均等な線でマス目が入っている。あるいは横長か。いずれにしても、材質の分からない不思議な代物だ。


しかし、うんうんと頷いた係員は、途中で出すのをやめると申し訳なさそうに眉を下げる。


「ただ申し訳ないのですが、その場合ですと少々工程が必要になりますね。お時間いただきますが、よろしいですか?」

「大丈夫です」


『ありがとうございます』と表情を緩め、係員は幌小屋の1つにベルたちを案内する。見た目通り、何の変哲もない仮設施設だ。テーブルやイスの他には何もない。


おまけに、係員は特にどこかへ向かうということもないようだ。配慮して同じ空間にいないだけで、すぐそばに待機している気配があった。


他の来訪者とは違う扱い――見方によっては、警戒や軟禁にも思える状況に、ベルは不安そうにしている。


「まさか、入れないとかある?

それどころか、敵認定されてもおかしくない感じじゃん」

「大丈夫だよ。聞いた感じ、予定外だから伝えに行ってるだけだと思う。多分だけどね」


安心させるように言うが、取り巻く環境が不穏なのだから、信頼があろうと何の足しにもならない。

ベルは神経を張り巡らせた状態で、係員からの合図を待つことになる。


幸いなことに、シエルが言った通り時間はほとんどかからなかった。ものの1分で外から声が聞こえ、幕が開かれる。


「お待たせいたしました。用意ができましたので、このまま入っていただいて構いません。滞在フィルムです。どうぞ」


どうやら、本当に待機所でしかなかったようだ。

単に、座って一息つける場所の提供。


係員は何事もなかったかのような顔で入ってくると、薄い切れ端を差し出してきていた。


「ありがとうございます」


同様に、シエルもスッと立ち上がってそれを受け取る。

リチャードは外に出る気がないのか、座ったままボケっとしていた。


「演劇の国は、貴方がたの来訪を心より歓迎いたします。

勇者御一行様」


幕が開かれ、光が差し込む。

道を譲った係員は、右側で恭しく頭を下げていた。


「ほら、おいでベルくん。これまで体験したことのない、世界全体で見ても珍しい世界が、あなたを待ってるよ」


慣れない事務的なやり取りに緊張しているベルもまた、動けない。シエルはそんな彼に手を差し出し、安心させるように微笑んだ。


「うん」


手招かれたベルは立つ。

意を決して、新たな世界の大地を踏む。


【少年は舞台に立った。物語は圧巻の光景より始まる】


「うわぁ……!!」


ベルたちは、平原との境辺りの幌小屋に案内された。

必然、外に出ても見えるものは変わらない。


係員と話した時と同じ、幌小屋から木造、煉瓦・石造りへと移り変わっていく街並みの中、中央に劇場が鎮座する光景のはずだ。


しかし、実際に目に飛び込んできたものはどうだ。

今立っている場所はどこだ。


「なんで、目の前に劇場があるんだ!?」


驚愕に目を見開くベルの目の前には、中央に鎮座する劇場とその袖に伸びる出店エリア、芸を披露する者と観客たちによる賑やかな喧騒が広がっていた。




最近少し忙しくなってきたので、一旦不定期投稿とさせていただきます

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