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エターナルブレイバー  作者: 榛原朔
間章-誰もが笑顔のディストピア

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6-その名は希望を殺す者

3日後、すべての村に魔王種討伐を伝えたベルたちは、最初の村で人々に頭を下げられながら、旅に戻る。悪夢の中を含めて、魔王種との戦いで初めてされた感謝だった。


しかし、リチャードの様子は変わらない。言われ慣れているのか、反応に左右されるつもりがないのか。

彼はここ最近と同じく、進むベルたちの後ろを機械的についてきていた。


シエルは大いに気にかけ、ベルも気になってはいるようだが、どちらも近寄ろうとはしない。


「……ま、今行っても眼中にないんだもんな」


時折、チラチラと後ろを見ていたベルは、やがて諦め肩をすくめる。たしかに元気はないが、これまで通り『お前誰だ?』と言われるのは目に見えていた。


彼の視界に入るだけの強さを持たなければ、対等な存在にならなければ、何も始まらない。ベルはふぅっと息を吐くと、気を取り直して口を開く。


「なぁ、師匠。オレら、カルミンブルクでアリババに会ったじゃん。指名手配犯っつって」

「え? あー、うん。そうだね」


唐突な話題に、シエルは少し間を置いて返事をする。

何かされた訳でも、特に変な内容でもないが、目が泳いでおり落ち着かない様子だ。


旅の最中、ベルは気付いたら戻っていた。

コロコロと変わった情緒に、どうやらまだ慣れていないらしい。彼は気にせず話を続ける。


「当然、あいつ以外にもいるんだろ? また足元すくわれたら堪んねぇから、他のやつも教えてくれよ」

「そ、そうだね。うん、あたしも教えた方がいいかなーとは思ってた。もう自分の身は守れるだろうし、色々と……」


目を伏せる彼女の顔は、どこか暗い。胡乱げに小首を傾げるベルだったが、口を開く前に授業が始まった。


「じゃあ、早速始めようか」


歩きながらでいい? と確認しつつ、シエルは杖を振るって空中に文字を描き始めた。光で形作られる線は、進むごとに後ろに流れ、消えていく。


「まず、ベルくんは誰が手配していると思う?」

「世界に1つしかないっていう国か、ギルド」

「そうだね。他にないから当たり前だけど、その2つが危険な人間を認定し、警戒と排除のために周知してる」


文字が踊る。大元に国、広がる網の先々にギルド。

アリババの手配額にブレがあった通り、同じ手配犯でも額は様々だ。


手配の形からして、全体で手配するものと各地のギルド独自のものがある。手配に動く流れも、国→ギルド、ギルド→国の双方間。


各々の地域にとって、より凶悪で被害の大きい者が高額となり、周知されただけで緊急性も低い者や危険にならない者は少額になる。


もちろん、手配されるのは人間だ。

神秘に成った者も多いが、元が人であれば、人類そのものに牙を剥いていない限り魔王種として扱わないからだ。


とはいえ、好き放題動く癌を放置していては、人類の存続に支障をきたす。魔王や魔王種とは違った身内の脅威。

それが、指名手配される者たちである。


どこかが潰れても――それこそ国が崩壊しても、指名手配は機能するだろう。魔王に抗うにあたり、どんな状況でも予期せぬ被害を受けないための機能だった。


「なるほど……アリババは、あれでも盗賊王だもんな。

放っといたら、色々盗られて戦ってらんなくなるか」

「そうそう。ただ、本人も言っていた通り、彼単体での額はそう高くない。あくまでも盗むだけで、戦闘能力は皆無だから。9割以上は持っている財宝に対してのものね。

残りは、何でも盗む彼の力への警戒だけど」


盗賊王アリババ・アデルバッド。

彼は見えていない持ち物はおろか、心臓や能力までも盗んでしまう。対象物によって条件があるとしても、一瞬で趨勢を決めかねない、油断ならない凶悪な能力だ。


同じように厄介な能力、悪辣な趣味趣向、無視できない戦闘力。方向性は違えど、様々な面で彼と肩を並べる者が、世界には多くいる。


「さて、ここからは警戒するべき手配犯のことを話そっか」

「待ってました!」

「各地の手配犯を話してもキリがないから、ギルド連盟全体に周知されてる、特に危険で警戒すべき人を何人か……」


本題に入り、ベルは表情を引き締める。ここからは勉強ではなく、脅威から身を守るために必要な情報収集だ。

大気の板書はフワッと消え、新たな文字が浮かんでくる。


「1人目は、カロミドラク・オン・モルフォ。

彼は骨に魅入られた狂人なんだ」


連盟懸賞金額、12億。"人狂者"と区分される手配犯の1人である彼は、アリババ単体と比べれば大抵の地域で上回る額を懸けられているらしい。それほどまでに危険視される訳は、狂気的な趣味趣向を元にする行為にあった。


なんでも、彼は人体を無残に分解するのだという。そうして取り出した骨を、模型のように組み上げ命を吹き込む。人命被害はもちろん、心を蝕む光景が及ぼす影響は計り知れないものだ。


「模型は人の形に限らない。何人もの人骨を素材に、歪なキメラを作ることもあるの。捕らえるにしても首を取るにしても、ギルド側は遺体を手にかけなければならない。勝てる勝てないは置いておいて、関わるべきじゃない人種だよ」

「胸糞悪いやつだな」


初っ端から聞かされた悪辣な手配犯の情報に、ベルも思わず顔をしかめる。強いというよりは、酷い。アリババと同じで、しかし彼と違った厄介さを持つ手配犯だった。


「次に……」

「なんだよ?」


さっきまでと違い、口ごもって迷う素振りを見せるシエル。

歩くスピードの落ちた彼女を、ベルは胡乱げに振り返る。

空が、遠くの方で少し陰りを見せていた。


「次に、絶対に関わっちゃいけない人のことを教えるね。

正体はわからない。実際にそうなのか、誰も知らない。

でも、彼女たちは厄災の前に必ず姿を見せる。災害の前触れ、不吉の象徴。彼女たちは、世界の敵と認識されている」


連盟懸賞金、過去現在、未来まで含めての最高額。150億。

椿姫と舞姫。彼女たちが人類に危害を加えたことはない。

悪意や戦闘能力があるのかもわからない。


しかし、ある時ギルドは気が付いたのだ。

厄災が振りかかる土地には、決まってその2人が現れることに。


見た目も雰囲気も、普通の人間である。

ただ、和装と答えた名が珍しいだけだ。


偶然の可能性もなくはないだろう。

だが、必ず数日前に現れる少女たちを、ギルドは決して無視できない。


「彼女たちを見たら、それっぽい和装の二人組みを見たら、ベルくんはすぐにその場を離れなさい。天変地異に巻き込まれて、死んじゃうから」

「……」


――これはきっと、魔王襲来ってやつの話だ。

そいつらの現れる場所に、魔王はやってくる。

魔王が現れる予兆、か。


「4人目に、ウロボロス」


無言のベルに何を思ったか、シエルはじっと彼を見つめた後に次の手配犯へ移る。風が不吉に生暖かい。

どこか遠くで、雷が鳴っているのが聞こえた。


「彼は唯一、オンリーアライブで手配されている人だよ」

「オンリー……生け捕りじゃないとダメなのか?

危険だから手配されてんじゃねーの?」


最高額とは別のインパクトに、ベルがすぐさま反応する。

ぱっと顔を上げ、信じられないといった表情だ。


「ううん。彼――彼女かもしれないけど、その人は他の危険人物たちと違って、伝承で伝わっている類の人なんだ。

願いを叶える者だと言われてる」


連盟懸賞金額、20億。"輪廻"のウロボロス。

曰く、それは誰かに呼ばれると、無から生まれる怪物である。願われた場所に生えてきて、願いを叶えたら即座に自殺する。


姿形はもちろん、強さや能力さえも願い次第。

人を害する場合は願った者が悪いので、敵とも味方とも言えない。死も意味を為さないため、ギルドもどう対応していいかわからないのだ。


「例えば、今呼んだら?」

「生と死を超越したような人物だけど、同時には存在できないみたいでね。多分、状況とかも含めて本当に必要で心の底から願っている人の下に現れるんじゃないかな。

あなたの前にも、あたしの前にも、出てこないと思うよ」


明らかに毛色の違う、御伽噺やら神話やらじみた手配犯だ。

ベルも敵というより面白そうなやつとして見ているようで、自分では会えないことに肩を落とす。


「他にも、記憶怪盗とか心臓喰いとか色々いるんだけど」

「さらっと怖ぇーのが出たな」

「ふふ、今どうなってるか調べて、後で教えるね。

あたしも、最近の動向はわからないから

一端今日は、このくらいで終わりかな」


ポツポツと雨が降り始め、シエルは杖を空に向ける。

すると、空気が膜になって頭上を覆い、雨を弾く傘となった。完全に日が隠れたことで、彼女の顔に影がかかる。


「でも、そうだね。最後に1人。あたしたち――リチャードの敵である手配犯を、教えておこうかな」

「敵? 言っても人間だろ? 相手になるのか?」


傘はリチャードの場所までカバーし、一帯を覆う。

しかし、移動するならいずれは濡れた地面を歩く。

今日の旅はここまでだ。


「彼女は昔、とある国の聖職者だった。

だからこそ今、あたしたちにとって最悪の敵になっている」


問いに答えず、シエルは続ける。

雨に濡れて、草木の香りが強くなっていた。

どこか切ないような、懐かしいような、哀愁漂う濃厚な香り。


「本当は、名前はないんだけど……

彼女の口癖から、こう呼ばれてる」


近くに雷が落ち、光を背にしたシエルが塗り潰された。

その口から紡がれる名が意味するのは。


「I kill believe――アキヴィリと」


希望を殺す。



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