↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エターナルブレイバー  作者: 榛原朔
間章-誰もが笑顔のディストピア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
103/111

1-勝利の代償

草木生い茂る山に、巨大な銀剣が突き刺さる。

根本ではか細い断末魔。土煙と木の葉が舞っている。

その数メートル先で、ベルは顔をしかめて座っていた。


「……ムカムカすんな」


カルミンブルクから旅立って3日。既に吸血鬼の影はない。

それでも、繰り返された死が、いくつもの別れが、彼の心に巣食い続けていた。


「次の相手はテメェか?」


銀剣が錬成の素材にされ、くぼんだ地面を残して消えた。

底にいたのは、バチバチと帯電している虎だ。

何とわかる程度には原型を留めているが、押し潰されて四肢や首が千切れ、息絶えている。


ベルはそれを歯牙にもかけず立ち上がり、手元に浮かべた錬成陣から、刺々しい銀を生やしていた。相対するのは、双頭の大蛇だ。


「死ね」


冷たい一言と共に、槍ほどもある銀の矢は隙間なく蛇に襲いかかる。材料は既に錬成していた巨大な銀剣だ。

消耗は少ない。まったく隙を与えず連射し続け、大蛇はそれを避け切れずにズタズタになって果てた。


「ふん、しょうもな」


鼻を鳴らし、ベルはまた座る。魔王種との戦いを生き残ったのだ。並の魔獣相手では、もう手こずらない。

最初から興味もなく、彼はぼんやりと思いを馳せていた。


『住民どもがうるせぇから、これやるよ。

お前には、死んでほしくもねぇし』


街を出発する前、シエルたちと合流した時。

無事再会できたブライヤに、ベルは自作のルーン石を手渡していた。少し前の彼と同じく、彼女も魔術など知らない。

受け取りながらも、怪訝そうに首を傾げている。


『なにこれ?』

『ルーン石。砕けばルーン魔術が使える道具だ。

使い切りだけどな』

『こんなのあるんだ、ありがと』


受け取った石は3つ――それぞれC,K.(ケン)、Z.(エオロー)、A.(アンスル)の文字が刻まれたものだ。

効果としては、上から炎、守護結界、連絡の力がある。


これだけで、街の安全を保障できるはずはないが、万が一の危機に生き延び、助けを求めることはできるだろう。

説明を聞いたブライヤは、それらを眺めながら微笑む。


『元気ねぇな。夢だったんじゃねぇのか?

こうして、家畜じゃなくなるのが』

『うん。そうなんだけどね』


目を伏せて口ごもる。ハッキリしない態度に、ベルは苛立ちを隠せずにいた。それでも辛抱強く待つと、数分後、彼女は迷いつつも胸の内を吐露する。


『クレアって人が、言ってたんだ。この街では、本当に人は死なななかったって。もちろん、完全な真実とは思わない。

けど、どう思っていいのか分からなくなっちゃったんだ』

『口じゃどうとでも言えんだろ。勝ったのはオレたちだ』


彼らに事実はわからない。反論に迷いは生まれない。

だが、種は確実に植えられていて。


『何かあったら連絡寄越せ。できるだけ手を尽くすからよ』


勇気付けようとするベルは、わずかに顔を逸らしていた。

そうしてその芽は、旅の中でも少しずつ開花する。


それは、不安。間違ったかもしれない、正しくなかったかもしれないという心の落ち着かなさ。現在、魔獣を屠るベルは、次第に苛立ちをぶつける相手も減ったことで、ついには山そのものに牙を向いた。


「っ、暴発する……!!」


試されたのは魔法陣だ。最も最近覚えたものの1つで、まだ他ほど手に馴染んでいない魔術。練習がてら使った魔術の陣は、地面につけた両手の先で、震えひび割れていた。

予測している通り、暴発間近である。


ベルも魔術を行使し続けたことで、魔力――体に順応させられる神秘は増えている。肉体の強度は、以前とは比べものにならない。しかしそれでも、感情任せにかました魔術を至近距離で受ければ、手痛いダメージを食らうこと必至だ。


余裕のない顔で脂汗を流す彼は、手が埋まるほど地面を押さえつけ、どうにか制御しようと足掻いている。


「かよ!!」


苦労の甲斐あって、暴発はしなかった。

代わりに山は真っ二つとなり、粉々に砕けたが……

何段も重ねられた陣が、無理矢理暴走を抑え込み、すべての力を雷の形で地面に流した。


「うおぉぉッ!?」


とはいえ、山が崩れれば上にいるベルも結局ピンチだ。

崩落する岩雪崩の中、彼は重力を軽減させる靴でバタバタと走り回って、人為災害を凌いでいた。


「……1人でやるもんじゃねぇな。

あと、得意不得意も知っとこう」


ケガを多少の出血にとどめ、ベルは自らが生み出した谷底に寝転がる。今の彼には、もはや他者を気遣う余裕はない。




~~~~~~~~~~




近辺で最大の脅威を撃破し、付近に敵はない。

それでも、助けるべき人はどこにでもいる。

本来ならば、リチャードはそのすべてを瞬時に察知し、駆け付けていたはずだ。


「……」


にも関わらず、自分の5倍は大きい草食動物の上で、リチャードは無表情に寝転がっていた。いつものように、先行して探そうとはしない。一度悲鳴が聞こえた時も、山が崩れた時も、動かず黄昏れていた。


移動となれば、付いてくる。だが、付いてくるだけだ。後ろからトコトコと、機械的に仲間の動きと連動するだけ。

吸血鬼との戦いを経て、勇者は完全にシャットダウンしていた。




~~~~~~~~~~




山と獣の群れの間に、何もできず心配そうな顔で左右を窺う少女が1人。資格や責任に捕らわれ、シエルは動くに動けないでいた。


彼女はソワソワと歩き回り、かといって彼らのどちらにも近寄れない。ぶつぶつと呟きながら、ただどうしょうもなく自分を責めている。


「いくらタイミングが悪かったからって……でも駆け付けてからも手が回らなかったし……何かできたことが……?」


他に、リチャードが動かなければならない出来事があった。

それは事実だ。しかし、同行を許可して保護者になったなら、責任がある。何があろうと、言い訳はできない。


「んんんー、何を優先すれば……事情を話せば償いになる?

でも、魔王襲来に関わらせる訳にはいかないし、過去の話はリチャードがどんな反応をするか未知数すぎる……」


少年は明確な敵を見つけた時、考えなしに突っ込んでいかないと言えるのか。それも、今の狂った状態で。

無感情な機構(勇者)は、勝手に話されて本当に何も思わないのか。悪化しないのか。

ぐるぐる、グルグルと、重い責任が状況が選択が頭を巡る。


「そもそも、あたしがリチャードを救えないせい、なの?

遠ざけるのがあの子のためになったのかもわからないし、けど、あのままでいいはずはなくて……

私の立場では踏み込めないのに、他にどんな選択肢が……」


リチャードは壊れている。ベルは壊れてしまった。

リチャードに何もできない。ベルに何をしたらいい。

リチャードを取り戻したい。ベルを取り戻さなければ。


考える。考える。考え、る。

結論がない問いを、考え続ける。


「何も変えられないまま、どんどん悪くなってる気がする。

一体、どうしたらいいの……? どうすれば、よかったの……? このまま続けて、意味があるの……?」


唇を噛み、滴る血と共に吐き出す。瞼からは雫。

破綻の時は、きっと遠くない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。