第12話 エルフの青年
昨日珍しい青年に出会った。眼鏡をかけ、髪は腰まで伸ばし高身長でなかなか実麗しい見た目をしていて彼が持つ長い耳を見たらそれを納得してしまう。
納得してしまうのも無理は無い、彼は身体的特徴から見てあの有名なエルフ族だ。エルフ族は全体的に容姿が整った者が多く平均的に高身長だ。
エルフィーネは「出会えて眼福だなぁ」と彼を眺めていると獣人にバンッと肩をぶつけられスッと簡単に財布を盗まれてしまう。あんな露骨なスリに引っかかるなんてちょっと気を抜き過ぎではないか?
そう疑問に思うが彼の浮き足立った様子からして何か良いことがあったのだろう、だがそれだとしても街の住人なら最低限の防犯対策をするし、そういう輩が出てきたらサッと道を逸れるなり何とかするだろう。ならば考える答えとして彼は今日あるいは最近境界都市へやって来た者だと予測できる。
盗まれたところ見て見ぬふりをするのも忍びないので(彼女の名誉に誓って言うが必ずしもイケメンに会えて機嫌が良かったとかそういう訳では無い、決ッして無い)獣人から財布をスリかえし、スられたことも知らず機嫌良く歩いている青年に声をかける。
「おい、そこの青年。財布をスられてたぞ」
彼は財布を盗まれていた事に気づくと慌てた様子になりちょっとお茶目で可愛かった。
(彼に財布を投げ渡してあげるとずっとお礼を言ってくるし彼の雰囲気からしてこれからも絡まれることがありそうだなぁって思ったから、彼にもう少し覇気を纏った方がいいよ?とアドバイスすると彼は悲観し始めた。あれ?割かし彼の気にしてるところ突いちゃったかな?)
青年は覇気を纏うにはどうすればいいか問いかけてくるがつい普段のノリで「知らん」と切り捨ててしまうと道端に捨てられた子犬のごとく落ち込むではないか、これだと自分が悪いみたいで癪に触るのでエルフィーネは彼にアドバイスをする。
「はあ、弱腰くん」
「よっ弱腰くん?」
「うん弱腰くんね、君低姿勢すぎるんだよね。もっと堂々としないから舐められるんだよ」
あまりの低姿勢と弱腰に初対面の彼のことを弱腰くんと呼んでしまう。
(少し前に素で彼のことを切り捨てたんだし今更気にしなくてもいいか)
街中で舐められないようにするため色々と彼にアドバイスをする。エルフィーネが色々なアドバイスをしていると彼がそろそろ帰りたいと言い出したので腕時計で時間を確認する。
(あちゃあ〜これは大分長いこと話してしまった。私が彼を長いこと縛りつけてしまったのも事実だし家まで送ってあげるか)
彼に長時間道端でアドバイス(あくまでも彼女的には説教垂れたつもりは無い)したことに罪悪感を感じたので市場の駐車場に戻り青年を助手席に乗せ彼の家まで車を走らせる。
彼に言われた通り道路を進むとエルフィーネの自宅に着いてしまった....。まさかの同じアパートに住む住人だったらしい、ココ最近でエルフの人を見たことなど一度もなかったので恐らく今日引っ越して来たのだろう。
駐車場に車を止め別れの挨拶をする。
「今日は何から何まで本当にありがとうございました!」
「それではまたいつか会えたらディナー奢るぐらいのお礼はさせて下さいね」
「おっ言うねぇ、そうだよそういう感じで自分から攻めていきなよ」
彼と別れ私も部屋へ戻ろうとした時ふと思い出す。夕飯の買い出しを忘れていたという事実を.....。
(市場に食材買いに行ったのに青年に気を引っ張られて夕飯のことをすっかり忘れてしまったではないか!
これは由々しき事態だ。今から市場へ向かってもあそこはだいたい19時前にはほとんどの店が閉まるし、ここから飲食店へ向かうにしてもガソリン代かかるから嫌だし明日からは新メンバーが来るから今日は余裕を持って眠りたい、どうすればいいんだ.....。)
彼女は考えに考え、ひとつの答えを導き出す。
あっそう言えば―――――。
《それではまたいつか会えたらディナー奢るぐらいのお礼はさせて下さいね》
(よし、彼に夕飯を奢ってもらおう、そうしよう。だってディナー奢るって言ったよね?それってつまり夕飯を奢るというわけで次に会えたら奢る約束だから今から彼の跡をつけて出会えばそれはもう再開ということでは?よし、ならば彼を追わなければ!)
エルフィーネは謎の屁理屈理論を構築しエントランスへ急いで向かい彼の後を追いかける。彼はそのまま最上階の五階まで上がり部屋の前に立ち止まる。
「あの、どこまで着いて来るんですかエルフィーネさん.....」
さすがに気になり始めたらしい。
素知らぬ顔で彼に話しかける。
「うん?ああ、私ここのアパートに住んでるんだよね」
「いや、それならそうと早く言って下さいよ、びっくりするじゃないですか」
「それは悪かった。一々言わなくてもいいかなぁって思ってたから」
「そういうことは言いましょうよ」
「これからは気おつけておくよ。ああそれと私にディナーを奢ってくれるんだって?」
「そうは言っても急すぎますよ」
「いやぁ、あのヘコヘコしてる弱腰くん自ら女性の私にディナーを奢るってカッコよく宣言してくれたのになぁ〜私結構期待してたのに悲しいなぁ〜」
ここで押し負けたら今日の夕飯が無くなってしまう。ここは押して押して世間一般から見て汚いことだろうとエルフィーネは意地でも夕飯にありつくために彼にグイグイと迫る。
(はたから見たら嫌味ったらしい女だろう、醜く哀れに夕飯を追い求める女に見えるかもしれない。だが!私は今日の夕飯抜きなんて考えられない!仕事が早く終わり夕飯を食べ、のんびりと酒を堪能する計画がこの青年一人によって破綻してはならないのだ!)
「あぁもう、分かりましたよ....そんな大した料理出せませんからね?」
言い迫ったおかげで彼は泣く泣く折れてくれたようでホッとする。
彼は大層な料理をは出せないと言うが私にとっては夕飯と酒さえ飲めたら問題なし!なので彼は私に少しの間、部屋で待ってて欲しいと言うので私は了解の意思を示し彼が家から出ていくと早速テレビをつける。
「夕方19時のニュースをお送りします」
「先々週からアメリカ大使館前で異界融和政作反対派による抗議デモが日夜行われています」
ニュースからはバカな集団の報道が流れてくる。
「まだコイツら騒いでいたのかよ。今更アメリカもミッドガルドの国も....いや世界規模で私達は離れることは出来ない程に運命の糸は絡み合ってるっていうのにほんと飽きないヤツらだなぁ、大使館周りのやつも可哀想だな」
ニュースを見ていると彼が戻ってきた。彼曰く師匠と共にミッドガルドからやって来たらしく夕飯を共にしていいからしい、私としてもあの弱腰くんの師匠なら是非とも気になるので了承の返事をする。
しばらくすると彼の師匠が現れる。
彼の師匠は年老いてはいるがその眼光は衰えず、立ち振る舞いも年長者の余裕を感じさせるオーラを放っている。はっきり言ってこの爺さんなかなかやれるタイプの人間だな、良くも悪くも相手しにくい.....私が内心で色々考えていると向こうから挨拶をしてくる。
「これはこれはお初目にかかります。私アルの師匠をしているアルバートと申します。先程はアルを助けていただいたようですね、その節はありがとうございました」
「いえいえそんなお気になさらず私も彼が財布を盗まれているのを見て見ぬふりをするのは忍びなかったまでのことです」
「それでも助けていただいたのは事実です、大層なおもてなしは出来ませんが今日の夕飯を楽しんでいただけたら幸いです」
弱腰くんの師匠ことアルバートさんは丁重な物言いで私に挨拶をしてくる。
(うわぁ〜マジで相手しにくい系の人だ、もっとこう気楽な人が来るかなぁって予想を五歩先ぐらい越えてこないでよ!)
彼の対応通り私も丁寧な物言いで返事をする。アルバートさんとの会話が終わり弱腰くんをキッチンから離れたところに呼び出す。
「おい、弱腰くんちょっとこっち来な」
「君の師匠なんだよあれ、もっと気楽な相手だと思ってたのに蓋を開けて見たらガチガチの執事とかそういうことしてるタイプの人じゃん!」
「ああ、師匠は元軍人で今は退役した後に護衛兼執事として雇われてるんだよね」
それを言われ、ふと気になり彼に聞く。
「そうなると.....もしかして君がその護衛対象なのかい?」
「師匠と僕は境界都市での仕事とのために雇い主から離れてこちらに来ていますからね、エルフィーネさんが疑問に思うのも仕方ありませんよ」
予想とは違い彼らは境界都市での仕事のために雇い主から離れてやってきているらしい。
「そうか.....ならいい、私は夕飯ができるまでゆっくりとくつろがしてもらうよ」
私は夕飯ができるまでゆっくりと待たせてもらう。キッチンからはバジルのいい香りが漂ってきており食欲をそそられる。
夕飯の用意ができたらしくソファから席に着く。今日の夕飯はジェノベーゼらしい、魚介類から漂う潮の香りとバジルの爽やかなハーブの香りが食欲をそそる。弱腰くんに音頭をとってもらい乾杯の合図と共に食事を始める。
食中酒は白ワインらしい、甘口でジェノベーゼと一緒に食べるにはちょうどいい。
食事中、特に会話もないので気になったことがあったので私から話題を振る。
「アルって見た感じもそうだけどエルフなんだよね?」
エルフィーネは始めてアルの名前を呼ぶ。
「始めて僕の名前をまともに呼びましたね」
「そりゃあ君の師匠の前で弱腰くんなんて呼べないでしょ?」
「それは納得」
「それで話戻すけどアルはエルフなんでしょ?」
「ええそうですよ」
「それで私疑問に思ったんだけどさ、アルの師匠を見た感じ魔法系の人じゃないと思うから消去法で近接戦闘系の人だと思うんだけど、それだとアルが師事してるのが疑問に思えてさ。エルフって放出系に分類される魔法が得意だけど体内で魔力を練り合わせて身体強化する闘気に分類される近接系の技は不得意とする種族でしょ?なのになんでアルバートさんに師事してるのかなぁって疑問に思ったんだ」
「ああその事ですか、エルフィーネさんが疑問に思うのも分かりますよ。僕エルフに見えますけどこれでも一応竜族とエルフの混じりモノなんです。なのでこんな見た目ですけど竜人が得意とする魔力錬成も扱えるんですよね」
「それなら納得した。ハーフの子だと見た目だけではどちらの親の適正を引き継いでいるか分からないからね」
「まっそういうことです」
「ちなみにアル達は何で戦う流派なの?」
「僕達は龍錬流魔闘術を扱いますよ」
「へぇ龍錬流魔闘術と言えばアースガルズ龍王国で古くから続く正統派武術じゃないか、弱腰くんって以外にも出来るタイプだったんだね」
「エルフィーネさん言葉漏れてますよ」
「おっそれは済まないね、私も少し酔いが回ってるようだ」
「そんなに気にしてないからいいですけど」
私が言ってしまった一言に彼は落ち込んでしまう。
「弱腰くん夜まだまだ長いどんどん呑むぞ」
あ、
私は話を誤魔化すために彼にお酒を飲むように勧める。
こうして私の記憶はこの後からどんどんと薄れていくのだった―――。




